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【特集】

グローバル戦略

内需縮小、グローバリズムの進展、DE&I(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)の浸透などを背景に、日本企業が海外マーケットに挑む必然性は高まり続けている。ESG(環境・社会・ガバナンス)、DX、クロスボーダーM&Aといった課題が山積し、海外戦略のかじ取りが難しい局面に立たされる今、日本企業はいかに戦うべきか。成長戦略のポイントを解説する。
2022.12.01

長期的視点と成長分野を見極めて海外進出を図る:大和総研

 

生産や販売を行う上では、国内と海外でバランス良く
事業展開する必要があるでしょう

大和総研 経済調査部 日本経済調査課長 シニアエコノミスト 神田 慶司氏

 

 

安全保障と成長分野を考慮したグローバル戦略を

 

冒頭で述べたロシアによるウクライナ侵攻、加えて米中の関係悪化による東アジア地域の不安定化など、世界情勢はさらに混迷を深めている。こうした状況で重要になるのが、カントリーリスクの見極めだ。紛争や経済摩擦によってサプライチェーンが寸断されないよう、安全性を重視して進出・投資する地域を見極めないと大きなリスクを負うことになる。

 

「経済安全保障の観点から考えると、生産地を最も安全な国内に切り替えるという考え方もありますが、国内では人口減少が長期的に進み、特に働き手の減少が深刻になる見通しです。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、働き手の多くが含まれる20~64歳人口は2065年までに4割ほど減少すると見込まれています。ですから、生産や販売を行う上では、国内と海外でバランス良く事業展開する必要があるでしょう。民主主義など同じ価値観を共有でき、同じルールでビジネスができる国や地域を選ぶことが、海外進出のポイントとなります」(神田氏)

 

そこで候補として浮上するのが、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の加盟国である。米国の安全保障の枠組みにある国が大半を占めており、日本・米国・カナダ・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドネシア・マレーシア・フィリピンなどが主要国だ。こうした国の中から、政治的に安定した国や地域を選ぶのが望ましいだろう。

 

次に考えるべき観点は「進出分野」だと神田氏は指摘する。その1つとしてグリーンエネルギーが挙げられる。EV(電気自動車)に象徴される脱炭素社会への移行が世界的に加速しており、成長産業として期待できる。

 

「特にEVに使用される蓄電池は高い技術力が求められる分野で、日本企業に適した分野ではないでしょうか。EVは需要地で生産する方が効率は良い。そのため、日本で生産して輸出するという形ではなく、各国が現地で生産する傾向が高くなると見ています。このような成長分野は、現地の人々の力を借りてEVを生産し、現地で消費するというビジネスモデルが、以前に増して重要になるでしょう」(神田氏)

 

世界情勢を見ながら、「安全保障」「成長分野」「高付加価値」というキーワードを念頭に、進出する地域や分野を見定める。「短期的にもうかるか」ではなく、「中長期的な構造変化に対応していけるか」という観点でグローバル戦略を立てる。今後の企業経営は、こうした視野の広さと視座の高さが重要になる。

 

 

 

PROFILE

  • (株)大和総研
  • 所在地:東京都江東区冬木15-6
  • 設立:1989年
  • 代表者:代表取締役社長 中川 雅久
  • 売上高:772億1200万円(単体、2022年3月期)
  • 従業員数:1819名(単体、2022年6月現在)

 

 

 

 

 

 

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