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【特集】

経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
2022.08.01

「開発型DNA」を受け継ぐ人材を創出する:オーレック

オーレックの代表製品である乗用草刈機「ラビットモアー」。1992年に業界初製品として発売後、今なお人気を誇る

 

 

自走式草刈機の国内トップメーカーであるオーレック。製造業から“有機農産物普及業”への飛躍を掲げて2017年に始動したジュニアボードプログラムの取り組みに迫る。

 

 

チーム経営型へ移行するための人づくり

 

「世の中に役立つものを誰よりも先に創る」の精神の下、筑後川や筑後平野が広がる自然豊かな福岡県久留米市で1948年に創業したオーレック。オンリーワン・ナンバーワンのものづくりにこだわり、業界初となる画期的な自走式および乗用型の小型草刈機を次々と世に送り出してきた。国内ではシェア40%超を占め、海外市場も幅広く開拓。近年は事業領域のさらなる拡大のため、農業に軸足を置きつつ、食・環境・健康分野などで新事業の創造にも取り組んでいる。

 

創業75周年となる2023年に向け、さまざまなプロジェクトを並行して進めている同社。中でも注力しているのが、次世代経営幹部人材の育成である。

 

同社が業界初のヒット商品を生み出してきた背景には、1988年に創業者である父からバトンを受け継いだ代表取締役社長・今村健二氏の強力なリーダーシップがあった。

 

「当時は『社長が率先してやるべきだ』という考えだったので、開発や営業の現場に毎日顔を出して、1から10まで細かく担当者に指示していました」(今村氏)

 

今村氏とともに一部のリーダー社員が他の社員を引っ張ることで、現場はうまく回り、業績は伸びていった。しかし、今村氏は、リーダーシップが弱まると現場の社員の動きも停滞してしまうことに気付いた。

 

「社員一人一人が自発性を持たなければ、製品はできても会社自体が停滞してしまう。父や私が持つ開発型の企業DNAを社員に承継しなくてはならない」。そう考えた今村氏は、人材育成に本格的に取り組むことに決め、2000年を過ぎたころから研究開発や販路開拓に一切口を出さなくなった。「当時は『忍』の一文字でした」と今村氏は笑う。

 

「全社視点を持つ人材が不足していたので、次第にテーマは後継者育成になっていきました」(今村氏)

 

転機が訪れたのは2009年、タナベ経営が主催する「幹部候補生スクール」への参加だった。現在もメンバーを変えて受講を続け、約90名が卒業済みだ。その卒業生の意見やアイデアから生まれたのが、「アカデミー(企業内大学)」や「ジュニアボード(経営幹部養成プロジェクト)」である。

 

 

部門横断の育成プロジェクトでリーダーの全社視点を養成

 

社内で人材育成プロジェクトを進める中、次世代の経営人材の育成が必要だと感じた今村氏は、2017年から1期2年のジュニアボードプログラムを導入。開発型の企業DNA・経営幹部人材を育成する「Gateway Project」(【図表1】)を始動させた。

 

 

【図表1】開発型人材・経営幹部人材を育成する「Gateway Project」

出所:タナベ経営作成

 

 

ジュニアボードの指揮を執るのは、執行役員で経営総合部部長の関雅文氏だ。第1期のボードメンバーに各部署の課長クラスを選定し、中期経営計画の策定・推進をテーマに進めていった(【図表2】)。第1期のボードメンバーでもあった関氏は、「各部署のことを個別に課長と話すことはあっても、プロジェクトとしてみんなで共に考えていく経験はなかったので、大きな刺激になりました」と振り返る。

 

 

【図表2】ジュニアボード第1~3期のテーマと内容

出所:タナベ経営作成

 

 

「自社の現状分析から始め、課題をピックアップし、解決の方策を当時の役員に提言したのですが、その内容で報告会が険悪な雰囲気になったことを覚えています(笑)。しかし、ジュニアボードは、実際の経営課題を解決するために良いアイデアを取り入れていくというプロジェクトですから、今村はそれで良いと言ってくれました」(関氏)

 

今村氏も社員の変化をはっきり感じ取ったという。

 

「従来はリーダーが社員へ一方的に計画を伝えるだけだったので、現場の仕事と計画が分断されていました。しかし、現場のリーダーである課長に経営視点が備わったことで、計画と仕事が同期するようになり、風通しが良くなりました」(今村氏)

 

第1期の成果として、中期経営計画に多くの案が組み込まれた。また、経営総合部に人事と法務のチームを、開発部に有機農業支援を具現化するチームを新たに設立するなど、組織の役割をより明確化した。

 

「それまでは戦略を変えても組織を変えなかったため、戦略が実行できなかったのです。まさに『戦略は組織に従う』だと思います」(関氏)

 

2019年開始の第2期ジュニアボードは、第1期で挙がった課題解決策を実際にどう導入していくかのフェーズとなり、多くの提案があった。テーマを「DX戦略の推進」と定めたのは、第1期で取り組む課題の1つだったが深く踏み込めていなかったからだ。

 

DXに関する3カ年のロードマップをつくり、短期間で成果が見えやすいチャットボットなどの導入でスモールスタートを切ったほか、新たに組織として設立したシステムグループと連動。デジタル戦略委員会や新しい生産コンセプトに基づくワーキンググループなどを立ち上げた結果、約20のシステムを導入し、効率化を実現した。

 

「DXについては、まだやるべきことがたくさんありますが、最も良かったのはペーパーレス化に焦点を当てたこと」と今村氏は評価する。

 

「コロナ禍以前、2018年の経営方針でDXを掲げていましたが、あまり進んでいませんでした。ですが、第2期のジュニアボードの取り組みによって、コロナ禍でのリモートワークへの移行をスムーズに行えました。そこも高く評価しています」(今村氏)

 

 

※米国の経営学者・事業家であり、戦略経営論の創始者であるイゴール・アンゾフが提唱

 

 

 

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