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【特集】

経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
2022.08.01

部門を超えた交流で一体感を醸成:ピエトロ

2020年12月に創業40周年を迎えたピエトロ。同社の始まりは、福岡市・天神で評判となった一軒のパスタ専門店だった

 

 

社員の主体性を育むためにジュニアボードプログラム「NEXT VISION PROJECT」を導入したピエトロ。プロジェクトで得た社員の意識の変化と組織の活性化が、事業戦略にも好影響を与えている。

 

 

ジュニアボードで社員の主体性を育む

 

素材の持つフレッシュな味わいのドレッシングでファンが多いピエトロ。1980年、福岡市に「洋麺屋ピエトロ」を開店し、創業した。オープンからほどなくして、ゆでたてのパスタが評判を呼び、行列のできる店として人気を博していった。

 

同店では、麺がゆで上がるまでの数分間、来店客を待たせないようにサラダを提供しており、そのサラダのドレッシングも「おいしい」と評判になった。ドレッシングは新鮮な国産たまねぎと甘味のある九州醤油をベースにした手づくり。創業半年後に店頭販売、1982年には顧客の要望により百貨店での販売を開始し、テレビショッピングで紹介されたのをきっかけに全国区の商品となった。

 

その後、2000年ごろまでの約20年間、同社はレストラン事業とドレッシング事業を両輪に、破竹の勢いで成長を遂げた。ところが2000年を過ぎたころから、その勢いに陰りが見え始めた。レストラン事業は、廉価な価格でパスタを提供するチェーンの台頭に押され、ドレッシング事業は価格競争に巻き込まれていった。

 

そこに追い打ちをかけるように、創業者が逝去した。

 

「当社はカリスマ創業者の村田邦彦が、社員を牽引し成長してきた会社です。言うなれば蒸気機関車のように先頭車両が後続車両を引っ張っていました。そんな企業文化ですから、どちらかというと指示待ちの社員が多かったのです。

 

しかし、そのままではこれからの時代を生き抜けない。社員が主体的に自社のことを考え、行動を起こさなければならない。そんな課題を抱えていたときに、タナベ経営からジュニアボードプログラム『NEXT VISION PROJECT』の提案があったのです」

 

NEXT VISION PROJECT導入の背景をそう説明するのは、ピエトロの代表取締役社長である高橋泰行氏だ。社員が上司の指示を待たずとも自ら考え、判断し行動する企業文化へ転換を図るためには、実践型のプロジェクトが有効だと判断して導入を即決した。

 

同社が本プロジェクトを導入したのは2018年。高橋氏が2代目社長に就任した翌年である。メンバーは、30~40歳代の執行役員と、各部門の責任者クラス複数名を選んだ。部門間の壁を取り払うという大きな目的もあったためである。メンバーの内訳は、食品営業5名、レストラン部門2名、製造部門3名、販売企画2名、管理部門2名だった。

 

プロジェクトの期間は1年。その期間で自社の成長を促し、中長期経営計画の策定を行うという目標を定めた。参加メンバーは自社の現状分析を行うところからスタートし、自社の強みと弱み、業界動向や他社との比較、自社のビジネスモデルの特徴といったさまざまな視点から自社を客観的に見ていった。この現状分析を踏まえて、中長期経営計画を策定し、既存事業の方向性や施策とともに、新規事業の企画も立ち上げた。

 

「タナベ経営の支援の下、1年間のジュニアボードを実施しました。私も中長期経営計画の中間発表をはじめ、NEXT VISION PROJECTメンバーと頻繁に接点を持ちました。その中で、最も強く感じたのはメンバーの意識の変化です。

 

従来は、自部門の視点でしか会社を捉えられていなかったのですが、他部門の責任者と交流しながら意見交換する中で、他部門への理解が生まれ、経営に不可欠な全社的な視点を持てるようになりました。つまり、相互理解が進んで一体感が生まれた。これがプロジェクトの最大の成果であり、当社の財産だと考えています」(高橋氏)

 

社内交流が滞っていた背景には、ピエトロ独自の組織体制がある。かつてドレッシング事業は別会社を設立して展開しており、給与体系も異なり、人的交流が少なかったという。その名残もあって部門間の交流が少なかったわけだが、NEXT VISION PROJECTを始めたことがきっかけとなって、その垣根が取り払われた。他部門の課題も「自分事」として捉えるようになり、知恵を出し合って課題解決に取り組むといった連携が生まれるようになったのだ。

 

 

多様なプロジェクトで社内の一体感を醸成

 

一体感が生まれ、以前よりも主体的に課題解決へ取り組むようになったピエトロの社員。実はこの変化はNEXT VISION PROJECTだけの成果ではない。同社は組織横断的なプロジェクトをここ数年で次々と立ち上げ、各部門の社員が参加して改善に取り組んでいる。その数はすでに20を超えているという。

 

「目的はプロジェクトによって多種多様です。例えば、食育や社員のモチベーションアップやSDGsをテーマにしたプロジェクトをはじめ、お金や時間の無駄を省くための方法を考える『もったいないプロジェクト』、仲間の禁煙支援やヨガ教室の開催、健康茶を勧める『健康推進プロジェクト』などユニークなものもあります。

 

こうした各プロジェクトの副産物も現れ始めています。例えば、ディスカッションをしたり、自分たちの提案を発表したりすることが、問題発見・解決能力やプレゼン能力の向上に結び付いています。また、部門を超えたコミュニケーションが活発になることで、普段は接点のない社員が互いのその人となりを理解し、以前と比べものにならないぐらいスムーズに連携しています」(高橋氏)

 

数々の組織横断的なプロジェクトにより社内で一体感が生まれる中、自社の未来について考える「未来創造プロジェクト」が2020年に立ち上がった。プロジェクト内で実施した「PIETRO VISIONキャラバン」では、全社員が10年後の2030年に向け、自分のなりたい姿や未来のピエトロについて考え、意見を出し合った。集まったアイデアは2175個に上ったという。

 

経営方針の1つである「会社の発展と社員の豊かな暮らし」をかなえるために、アイデアを基にしながら社員一人一人のなりたい姿の実現を後押ししていく予定だ。

 

 

【図表】ジュニアボードで描いた「なりたい姿」

出所:タナベ経営作成

 

 

 

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