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【特集】

企業内大学

企業にとって最大の経営資源である「人」は、自社の存続・成長に欠かせない大切な存在だ。持続的成長の基盤となる、デジタルとリアルを融合させた総合的な学習・育成システム「FCCアカデミー(企業内大学)」の設立・運営メソッドを提言し、社員の成長を自社の発展につなげるモデル事例を紹介する。
2022.07.01

「主役意識」で学びが習慣化:ライオン

社員一人一人に対して会社が共通して打てる一手は、「主体性を持って自律的に取り組む環境をつくること」である。人材の育成手法を「教える」のではなく、成長意欲のある人が「自ら学ぶ」ことを可能にする環境と仕組みを提供する新たな教育体系とは。

 

 

社員の主体的な学びを支援する「ライオン・キャリアビレッジ」

 

自社のビジョンを実現する「働きがい改革」

 

洗剤・石けん・歯磨きなどのトイレタリー用品、医薬・化学・ペット用品などの製造・販売を手掛けるライオンは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」というパーパス(存在意義)を起点に、2030年に向けた経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を掲げ、その原動力となる人材開発を進めている。

 

2019年1月に始まったのが、社員の主体的な学びを支援する学びのプラットフォームである「ライオン・キャリアビレッジ」(以降、LCV)だ。

 

「2019年7月に、全社員が『圧倒的主役意識』を持ち、多彩な能力を最大限発揮できる企業を目指すための『ライオン流働きがい改革』をスタートしました。従来は、階層・年齢別に集合型研修を実施していましたが、効率よく学びを浸透、定着させることが課題でした。その解決テーマとして、人材育成の中核に据えるのがLCVです」

 

そう語るのは、人材に関するマネジメント全般に携わる人材開発センターの統括リーダー・大道寺義久氏である。

 

同社の働きがい改革は、社員の健康サポート「GENKIアクション」をベースに、「ワークマネジメント」「ワークスタイル」「関係性を高める」の3要素で構成(【図表】)。LCVは、この中のワークマネジメントを変革する施策の1つで、同社が求める人材像「意識的に自律し自ら考え行動することができる人材」を育てる学びのプラットフォームである。

 

【図表】「ライオン流 働きがい改革」の枠組み

出所 : ライオン提供資料よりタナベ経営作成

 

LCVには、4000超のWebコンテンツを受講して知見を広げるeラーニングと、社内外の専門家を講師に迎え、少人数の討議形式で実践力を高める「ケース討議」がある。eラーニング、ケース討議の2段階構造のハイブリッド学習で、誰もが・いつ・どこでも学べるのが特徴だ。階層や年齢・部門・担当業務という組織的な制限や、時間・場所という物理的条件から開放され、社員の学びを支援する。

 

「メーカーである当社は部門が多岐にわたるので、従来は部門別の教育に陥りがちでした。ですがLCVでは、営業部門が研究・開発部門の強みや商品の開発ストーリーを、また逆に、研究・開発部門が営業部門の営業手法や受注ストーリーを、といったように、部門の垣根を越えて学べます。開発した商品が店頭に並んでお客さまの手に届くまでのサプライチェーンに携わるプロセスを、全社員が理解できるのです。良い商品づくりや新たな提供価値開発のプロセスを共有するコミュニケーションの大切さにも気付き、サプライチェーンマネジメントのバトンを受け渡すことができています。

 

LCVは、誰もが自由に学んで視野を広げ、互いに視座を高め合いながら成長する自律的な学びの場です。『教えて育てる学び』から、『主体的に自ら学ぶ』へ。自分起点で成長できる仕組みがあります」(大道寺氏)

 

 

さまざまな施策が「自律型社員」の成長を促す

 

キャリアデザインで「意識的自律」を支援

 

LCV導入から3年が過ぎた2022年、若手・中堅社員を中心に全社員の9割がWebコンテンツを、1割がケース討議を受講している。

 

2021年度のLCV利用者数(延べ)は、前年度比で約1.7倍、総学習数は約2.5倍、1人当たり学習数は約1.5倍と大きく伸長。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、テレワーク勤務やフルフレックス(自由な時間に働ける制度)を導入する企業が増えたことも追い風となった。だが、人材開発センターは、仕組みをつくって終わりにせず、LCVの利用者を増やすために日々取り組みを進めている。

 

その1つが、コンテンツの枠組みの設計だ。eラーニングの動画教材は、業務内容を基軸にした5分野の「学群(共通、サプライチェーンマネジメント、研究技術、マーケティング、グローバル)」と、「ニューナレッジ(現業にない分野)」の6つで構成。学群ごとに、その道のエキスパートである社内外の専門家へ教授を委嘱し、自社の知見や技術資産をナレッジ化してコンテンツを製作している。

 

ケース討議では、現場で起きた実際の事例についてチームメンバーで解決策を考えるなど、よりリアルな内容で実施する。教授の人選は経営層が判断し、任用という形で人事異動を発令。同社の中長期経営戦略フレーム「Vision2030」を達成するための人材育成が、経営陣の本気度を示すことにもつながっている。

 

「経営層と人材開発センターでLCV運営委員会を構成し、我々は事務局として全体戦略の設計図を描き出しながら、推進・管理も担っています」(大道寺氏)

 

LCVの主体的な学びをさらに後押しする仕掛けが、「セルフデベロップメントファンド」である。eラーニングやケース討議を受講し、一定の条件を満たした社員は、自己申告することで社外スクールや資格取得・通信教育など外部研修への参加支援金が得られる制度だ。学べば学ぶほど自己成長のチャンスが手に入り、社員のモチベーション向上にもつながる。その成果は当然、「自律型社員の成長」として表れる。

 

また、LCVを支える取り組みが「キャリアデザイン・サポート」だ。社員が自ら考え行動する「意識的自律」を支援し、一人一人のキャリアを設計する面接機会を上長と部下で設定。より具体的に、「キャリアに必要な学びの決定」をサポートする。受講修了履歴は、自身のキャリアを描き会社と共有するための「キャリア設計シート」に記載。これらの情報は、部署の異動希望がある場合は希望異動先の部門責任者に通知され、働く意欲と磨いた能力をアピールできる機会を創出し、異動後のパフォーマンスの発揮を可能にしている。

 

「部署異動のほかにも、当社は社員の副業も認めています。その理由は、自分の可能性を外の世界で試すことや評価を受けることが、自己成長につながるからです。また、そこで得たものを社内にフィードバックし、生かしてもらいたいと期待しています」(大道寺氏)

 

自分の将来のキャリアを社内外で広く見渡して、成長するために何が必要かを知ることが、「ライオンが世の中にどのような価値を提供できるか」を考える道しるべとなる。

 

 

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