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【特集】

デシジョンマネジメントシステム

的確で迅速な経営判断が求められる今、社員が質の高い意思決定を行うことができれば戦略実行の精度が上がり、生産性の向上や利益の最大化につながる。管理会計とその運用を含む「意思決定のマネジメント」について提言する。
2022.06.01

業績先行管理で、「全員経営」を:沼津ヤナセ・ホールディングス

 

 

「全員経営」を目標に掲げ、3S活動から始まった沼津ヤナセの社風改善は、VMボードの導入により大きく前進。業績先行管理ができる仕組みを整え、部門ごとで意思決定できる組織へと変貌を遂げた。

 

 

壁一面がホワイトボードになっている新車課のオフィス。会社全体、部門、個人の目標や実績などが貼り出されている

 

 

VMボードを導入し業績先行管理を実践

 

白い壁一面に、経営理念や経営方針、部門理念や部門方針、販売管理、人材育成管理、ファイナンス管理などの項目が並び、それぞれに達成度や数字が書き込まれているVM(ビジュアルマネジメント)ボードが貼られたオフィス。ここは静岡県東部を商圏に新車・中古車販売を手掛ける沼津ヤナセグループの中核会社である沼津ヤナセの営業部だ。

 

コロナ禍や若者のクルマ離れなど、向かい風が吹く新車・中古車販売業界で、2013~2021年度のうち6カ年で過去最高益を更新した同社の躍進を支える心臓部とも言える場所だ。

 

「経営方針から部門方針、そして部全体の販売管理、個々のセールスの業績といったように、大きな方針から個人の業績まで全てがVMボードで把握できるので、毎朝、ボードを見ながら朝礼を行っています。今月の売上目標の何割を誰が達成しているかが一目瞭然なので、全部員が自分の現状を把握し、明確な目的を持って行動ができるようになりました」

 

そうVMボードの効果を説明するのは、新車販売を担当する沼津ヤナセ営業部次長の原一明氏だ。同社がVMボードを導入したのは2017年。社屋を新しくする際、オフィスの壁面にはホワイトボードクロスを採用し、VMボードとして使用できるように設計した。つまり、VMボード導入をあらかじめ計画した社屋建設だった。こうした戦略的な方針を打ち出すことができた背景には、長年にわたる意識改革を目的とした取り組みがある。

 

「社長に就任して考えたのは、全社員が経営に参画できる組織にすることでした。そのためにはまず社風改善が不可欠との認識から、タナベ経営のアドバイスもあって3S(整理・整頓・清掃)活動を始めました。これにより社員の意識が大きく変わり、目的だった自主・自律的な行動が自然とできるようになりました。

 

その後、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)へと活動が進化し、社風改善の成果が見えてから導入したのがVMボードです。このVMボードによって、“全員参画経営”に必要な、部門単位や個人単位で迅速に意思決定するデシジョンマネジメントができるようになりました」

 

社風改善への経緯をこう語るのは、沼津ヤナセ・ホールディングスと沼津ヤナセの代表取締役としてグループを牽引する名取正純氏である。3Sの導入から始めた施策により、かつてトップダウンでしか動かなかった組織は、部門ごとに明確な方針を掲げ、各現場や個人が自走できる組織へと生まれ変わっていった。

 

 

情報を瞬時に把握し改善を繰り返す

 

沼津ヤナセのVMボードは、部門によって内容が異なる。もっと見やすくするにはどうすれば良いのか、また社員一人一人が自分事として管理しやすくするにはどうすれば良いのか、部門ごとに日々工夫を凝らしているという。こうした地道な改善の繰り返しにより、結果管理だけでなく、先行管理がしやすいVMボードが生まれた。

 

「販売管理表には年次、半期、四半期、月次、週次の各種目標や実績が書かれていますが、これだけでは単なる結果管理でしかありません。例えば、月次で言えばそこに各自の商談予定数を記すことで、月半ばの契約台数や売上金額が把握できるだけでなく、今月いくつの商談が残っていて、そのうちいくつ成約することができれば月次の売上目標を達成できるのかが、セールス担当者本人も管理するマネジャーも一目で分かります。つまり、次の一手をすぐに考えられる業績先行管理ができるようになったのです」(名取氏)

 

もし商談予定数や確率が少なければ、商談にこぎつける査定や見積もり、各種提案などの営業活動に力を注がなければならないことが分かる。このような業績先行管理で、セールス担当者は営業活動をしやすく、管理職はマネジメントをしやすくなった。

 

「毎日、朝礼で売り上げや商談数を見て、それぞれのセールス担当者と話し合います。複数ある予定商談の中で成約の可能性が高い案件はいくつあるのかなど、具体的に話し合ってアドバイスしています。見込みが甘い担当者もいるので、入念にヒアリングしながら具体的なアドバイスを心掛けています。このVMボードのおかげで各セールス担当者の現状把握が迅速かつ的確に行えるようになったので、非常にスムーズにアドバイスできるようになりました」(原氏)

 

VMボードは、同じ営業部でも新車販売と中古車販売で内容が異なる。例えば、中古車販売には、新車販売にはない商談日を記入する欄を設けている。中古車販売をマネジメントする営業部部長代理の小川典雅氏は次のように説明する。

 

「中古車販売の場合、同じクルマに何人ものお客さまから申し込みがあることも珍しくありません。また、他社との共有在庫のクルマもあります。そのため、先に商談をしたお客さまの返事待ちをしている期間があり、それを把握するためにVMボードに商談日を明記するようにしました。これにより、早く決済すべき案件が分かるようになり、仕事のプライオリティー(優先順)の見える化に役立っています」

 

また、VMボードの導入によって、部門内だけでなく他部門とのコミュニケーションも円滑になったという。営業部門のほか、クルマの点検や車検を担当するサービス部門にもVMボードが導入されており、同じように経営方針や部門方針などから売上管理、入庫管理、納車管理など、サービス部門のマネジメントに不可欠な項目が並ぶ。サービス部門の社員が営業部門のVMボードを見ることで、「今月の後半は納車点検が多いので、比較的、予定が空いている前半に車検の予約を入れた方が良い」といったように調整が可能になる。

 

逆に、営業部門の社員がサービス部門のVMボードを見れば整備状況を知ることができるので、早い段階から納車の段取りなどに着手できるメリットが生まれている。

 

 

沼津ヤナセ・ホールディングス 代表取締役 名取 正純氏

 

 

 

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