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【特集】

デシジョンマネジメントシステム

的確で迅速な経営判断が求められる今、社員が質の高い意思決定を行うことができれば戦略実行の精度が上がり、生産性の向上や利益の最大化につながる。管理会計とその運用を含む「意思決定のマネジメント」について提言する。
2022.06.01

売上データは「 可視化できる顧客の声」:グッデイ

 

 

予算・実績の数字を管理するだけでなく、使えるデータに変換し、現場改善に活用するグッデイ。データ分析を用いた客観的な事実に基づき、正しい経営判断を行う同社の取り組みに迫る。

 

 

顧客や商品の動きを分析して経営に生かす

 

「データを活用すれば簡単にやりたいことができるのだと驚きました」

 

自社での取り組みをそう振り返るのは、九州北部4県と山口県に64店舗のホームセンターを展開するグッデイの代表取締役社長・柳瀬隆志氏である。「やりたいこと」とは、売り上げや仕入れ発注、在庫管理などのデータを収集するだけでなく、誰もが簡単に分析・活用することだ。

 

同社は、本部の基幹・会計システムや店舗のPOS(販売時点情報管理)などのデータを抜き出し、クラウド上で一元管理。BIツール(企業が持つさまざまなデータを分析・見える化して経営や業務に役立てるソフトウエア)からアクセスすれば簡単に分析結果を閲覧でき、グループウエアで社内に共有できる仕組みを整えている。POSデータは10分ごとに集約され、1日の売上予算の進捗・予測がリアルタイムで分かる。管理会計さながらに顧客や商品の動きを可視化し、経営に生かす「次の一手」を打つことができるのだ。

 

「データさえ抜き出せば、管理会計的な業務は財務会計システムに依存せずに済むので、システム構築の要件定義に苦労する必要がありません。導入しやすいシンプルな仕組みで、数字の背景や要因、需要予測などの高度な分析を誰もが簡単にできるので、発展性があって応用範囲が広いですね」(柳瀬氏)

 

従来、同社では、商品部のバイヤーが仕入れデータを使うには、基幹システムからエクセルにダウンロードして抽出する手間があった。また、PCに保存するエクセルデータの管理は属人化し、業務の引き継ぎのたびに複製を重ねており、散逸や消失のリスクが高かった。

 

だが、今ではBIツールからクリック1つで簡単に、わずか数秒で発注や納品の状況を可視化できる。生産性は向上し、店長との情報共有の時間差も解消した。仕入れ先とはPOSデータを共有し、商品別の売上高、仕入れの原価・量・利益率などをスコア化。評価や課題を複合的にフィードバックし、各店舗が「互いに何をどうすれば売り上げが伸びるか」と目標を共有する取り組みも始まっている。

 

「データを可視化できる仕組みがあれば、画面上でリアルタイムに帳票を生成できます。データ活用だけに集中すれば良いので、意思決定の方向性も明確になりました」(柳瀬氏)

 

 

各店舗が分析データを基に仮説検証を実施

 

可視化した実績データは経営の次の一手に生かすだけではない。それ以上に重要なのが、データを基に商品需要の仮説を立て、検証にも役立てることだ。

 

「小売りビジネスが面白いのは、現場でさまざまな変化を能動的に起こせること。お客さまの反応が生で見えるので、それぞれの店舗で仮説検証が行えます。また、成功事例は店長会議や全社チャットで共有しています。例えば、『パンの近くに小豆ペーストを置くと売れる』と1つの店が実証して全店に展開し、売り上げが大きく伸びました」(柳瀬氏)

 

柳瀬氏は店舗巡回(コロナ禍ではオンラインで実施)を毎月実施しており、そのときの資料となる各店舗の店長が作る「店長リポート」が、「管理会計的で面白い」と語る。店長リポートでは、予算や当月までの実績、年度目標に加え、経費や顧客数、単価、男女比、周辺人口・商圏や競合店などの分析データが約40ページにまとめられている。各店長は店づくりの仮説を立て、その動きをリアルな数字で裏付けて検証。成功事例の水平展開で全社業績や社員のモチベーションも上げ、九州エリアで業界トップを走り続けている。

 

「ホームセンター業界は、コロナ禍においても巣ごもり需要の影響で売り上げが好調な業態ですが、当社はその中でもトップクラスの売上伸び率です。データの活用が現場を変えて成果に結び付いていますし、分析が簡単で時間もかからないので、店舗スタッフも現場でしかできない業務に集中しています」(柳瀬氏)

 

2022年3月現在、各店舗はグーグルマップの口コミ投稿コメントにおいて5段階評価の4以上を目指し、その目標達成は目前に迫っている。品ぞろえや接客対応、駐車場の広さに関する評価は競合他社との差別化要因になる。やるべきことが明確になるため、現場の意識が変わり、地道に評価を高めることが誘客につながっている。

 

店舗巡回で現場目線に立つ一方で、柳瀬氏はトップ目線でもデータ活用を進めている。店舗の立地や品ぞろえの特徴から、「A店は○○(園芸、日用品、ペット用品など)に強い」といったイメージの検証だ。

 

「BIツールでは、64店舗全ての特徴をデータで可視化し、グラフで直感的に理解できます。『A店は本当に○○に強いのか』というモヤモヤしていた思いも解消しました。現場の社員が正しい情報を入手し、本部は現場の状況や売り上げといったトレンドを理解して企画を立てる。当たり前のことに聞こえますが、意外とできている企業は多くありません。本当にやるべきことは、顧客視点の品ぞろえとお客さまが喜ぶ接客サービス。その実現には、データ分析が一番の近道です。売り上げは購買の結果で、可視化できるお客さまの声ですから」(柳瀬氏)

 

 

データを可視化して分析・活用を可能にするBIツール。店舗運営部門は店舗別に同じフォーマットで数字を集計でき、今週何が売れたのかも一瞬で分析可能。経理部門では経費予算の進捗状況や、何にどれだけ使ったかも確認できる。また、外部気象データと売り上げの相関性をグラフで表示。例えば、平均気温が15℃を境にパンジーの花の購買量が最大化されていく需要が予測できる

 

 

 

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