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SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

ものづくりで培った強みを生かし新事業へ挑戦:榊原精器

可食容器の自社ブランド「食べるんディッシュ」。食べ切れずに残して捨てられてもごみにならないというコンセプトで開発した

 

 

SDGs達成に向けた取り組みに対し、社員に当事者意識が芽生えるよう説明を重ね、具体的な目標を設定。マンネリ化していた社内活動や組織を活性化し、新事業の推進力へ生かす榊原精器の挑戦が始まった。

 

 

社内の活性化を目指しSDGs推進を宣言

 

世界中で人気が高まる抹茶に欠かせない碾茶のふるさとで、国内有数の生産量を誇る愛知県西尾市。この地にもう1つ、食文化の新しい特産品となり得る「食ベられる器」(可食容器)が生まれた。

 

市場の開拓と普及に尽力するのは、オルタネーター(交流発電機)など自動車部品の精密なアルミ切削加工の一貫生産が強みである榊原精器だ。代表取締役社長の榊原基広氏は、2020年10月にSDGs推進を宣言し、目指すゴールとして「①環境問題・循環型社会づくりへの貢献、②働きやすい職場環境の推進、③多様な人材が活躍する組織づくり、④社会への貢献活動」という4テーマを宣言した。

 

テーマはこれまでの事業や取り組みにひも付けた内容を基本としたが、唯一、新たに始めたものがある。①の具体的な取り組み「可食容器の開発」である。これにより、海洋プラスチックごみの削減など、SDGs17ゴールの12「つくる責任つかう責任」、14「海の豊かさを守ろう」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」への貢献を目指す。

 

「SDGsをひも解くと、職場の環境改善や地域貢献、経費節減など、社内で取り組んできたことの延長線上にある活動だと気付きました。加えて、目玉となるテーマが1つあるとインパクトがあって社員の意識付けのプラスになる。アルミ切削加工とは異分野に思える可食容器の新事業は、SDGsの視点に立てば社員が理解しやすいだろうと考えたのです」(榊原氏)

 

実は可食容器の事業化は、SDGs宣言に先だって始動していた。2019年の社長就任以前、タイの子会社に出向した榊原氏は、リゾート観光名所・パタヤビーチに押し寄せる漂流物や投げ捨てられた大量のごみに、心を痛めていた。5年半過ごしたタイの地へ恩返しがしたいとの思いを抱いたまま帰国したころ、再会した高校時代の親友が、アイスクリームコーンを製造する丸繁製菓(愛知県碧南市)の専務として、可食容器を考案・開発したことを知った。

 

「彼も私と同じように、ごみ問題について考えていたのです。祭りやイベントの後に大量の飲食ごみがあふれ、町が汚れてしまう姿を何とかしたいと。ただ、可食容器は良い商材なのに、製品開発から販売促進、メディアへの発信まで全てを1人で抱えていたため、対応に限界がありました。よりスピードアップして世の中に商品を浸透させていくために、ものづくりの感覚と経験で培った当社が、原価低減や営業販売の面を補うパートナーとして協力することを申し出ました」と榊原氏は振り返る。

 

楽しさや利便性を求めつつ、ごみで環境を汚さない。そんな可食容器の可能性に、事業として取り組む価値を感じた。また、市場開拓には、顧客ニーズに応える器の形の実現が欠かせないが、その鍵を握る金型の設計・製作は榊原精器の得意分野。設計からミクロン単位の精度、薄肉で高品質な仕上げまで、自在に内製化できるプロフェッショナルの力は、大きな強みだった。

 

可食容器を製造する丸繁製菓と、営業提案や金型設計・製造などをトータルサポートする榊原精器。2社が持っている強みを合わせた、独自の価値を持つ可食容器開発への挑戦が、SDGsの波に乗って新事業として始動した。

 

 

アサヒビールと共同開発した「もぐカップ」は、最低でも1時間、ドリンクやかき氷を容器に入れておくことが可能

 

 

 

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