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SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

地域資源で「回る経済」の確立を目指す:岡山県真庭市

市役所に設置されたバイオ液肥スタンド(上)、バイオマスツアーにて「真庭バイオマス発電所」を見学する参加者(中)、「真庭SDGs円卓会議」の様子(下)

 

 

循環型社会への意識が企業や家庭に広がる

 

真庭市が推進するバイオマス資源の有効活用はエネルギー分野に限らない。木材の需要拡大のためCLT(直交集成板)の活用を促進している。CLTとは、木の板を繊維方向が直角に交わるように接着した大判のパネルだ。強度に優れ、断熱性も高いことから、コンクリートの代わりに建物の壁に使用されるほか、床や屋根にも用いられるなど、さまざまな建材に利用されている。

 

CLTを利用した地域活性化について、真庭市総合政策課未来杜市(SDGs)推進室の森田学氏は次のように説明する。

 

「木材産業の技術革新によりCLTが誕生しました。木材産業の裾野拡大を図るため、技術開発や利用促進などを進めているところです。地域材の活用が進めば、さらに地域産業の活性化・木材産業の拡大へつながるでしょう。

 

製造には高い技術力が必要とされるため、市内で作っているのは1社のみですが、その他の製材業の企業は、そこに材木を供給可能です。つまり、地元の企業間で新しい経済循環の仕組みが生まれ、地域で回る経済を作るという目標も達成されつつあります」

 

さらに、資源循環・環境保全型農業への転換にも挑んでいる。それを可能にしているのが、生ごみを発酵させて液体の肥料(液肥)を生産する「メタン発酵プラント」だ。市民が活用している既存のごみステーションへ生ごみ回収専用容器を設置し、そのごみからバイオ液肥を生産。液肥は市内に複数設けられたバイオ液肥スタンドで、無料で提供している。

 

「この活動には市民の皆さんの協力が不可欠です。市民の方々がごみステーションに生ごみを出してくれないと液肥は作れません。また、出される生ごみもきちんと分別されていなければ、プラント設備を傷めるなどの支障が出てしまいます。

 

そのため、地元のケーブルテレビ番組を通した呼び掛けや、自治体で各家庭への周知を促すなど、さまざまな方法を通して分別の協力をお願いしています。そうした活動のかいもあってか、市民の皆さんは非常に協力的ですし、この活動によってSDGsへの関心が高まったと感じています」(森田氏)

 

多くの農家がコメや野菜づくりに、また、一般市民も家庭菜園でこのバイオ液肥を利用している。これまでは一部地域での実証実験だったが、良い結果が出ているため、2024年をめどに市内全域で展開する計画だ。

 

バイオ液肥によって作られたコメや野菜は、新たな経済活動を生んでいる。NPO法人(民間非営利団体)が立ち上げた「真庭あぐりガーデン」という施設にある市場で販売したり、飲食店で料理として提供したりしているのだ。施設には市外から観光客も訪れており、新しい観光スポットとして注目を集めている。

 

「実は、以前から観光も地域の経済活性化を担う重要な施策の1つと考えて力を注いできました。2006年からバイオマス関連の施設を巡る有料の『バイオマスツアー真庭』を実施し、多くの自治体や企業、学校などに参加いただきました。今はこれを発展させ、SDGsの取り組みや市民の暮らしぶりを知ることができる『SDGsツアー』としてコースが開発されています」(森田氏)

 

 

パートナーと共に真庭市の未来をつくる

 

SDGs未来都市に選定されて約4年、着実に2030年のゴールへの道を歩んでいる真庭市。成功にはいくつかの理由が挙げられるが、最大の推進力となっているのは多くのパートナーの存在だ。

 

まず、SDGsへの取り組みの発端となった木質バイオマス事業は、地域企業の危機感からアイデアが生まれ、その後、地元企業と真庭市が協力して進めてきた。

 

また、同市と共にSDGsを推進する「真庭SDGsパートナー制度」をつくり、地域企業はもちろん、地域外の企業や団体、個人などさまざまなステークホルダーと連携。同市の考え方や事業に賛同した企業や個人に広く門戸を開き、現在(2022年3月時点)では市内外の227団体および15名の個人とパートナーシップを結んで、新しい取り組みを生み出している。

 

そのパートナーシップの1つとして、三菱地所(東京都千代田区)との連携が挙げられる。CLT普及促進のため、2019年11月から2020年9月までの期間限定で東京・晴海に建てられたパビリオン「CLT PARK HARUMI(CLTパークハルミ)」の躯体には、真庭市産のCLTが使われた。役目を終えた後、躯体は真庭市の蒜山高原に移築。自然とサステナブルの価値を体感できる施設として2021年7月に開業した「GREENable HIRUZEN(グリーナブル ヒルゼン)」において、パビリオン「風の葉」として再活用されている。

 

「私たちの役割は、真庭SDGsパートナー同士が話し合える場の仕組みづくりや、パートナーが連携する際の調整だと考えています。つまり、あくまでも主役はパートナーという認識です。

 

そのため年に1回、パートナー同士で取り組みの情報共有や意見交換をする『真庭SDGs円卓会議』の開催や、パートナーシップメンバーが具体的なアクションを考え、取り組みをブラッシュアップすることで人材育成へつなげる『真庭SDGsミーティング』を開催しています。こうした場でメンバーが交流することで新しいアイデアが生まれています」(森田氏)

 

真庭SDGs円卓会議には高校生も参加しており、農業高校の学生と地元企業がコラボレーションして商品の販路開拓を試みるなど、彼・彼女たちがビジネスを経験する場になっている。

 

森田氏は、真庭市の未来を担う子どもたちに「地域のSDGsへの取り組みを知ってもらうと同時に、真庭に誇りを持ってほしい」と話す。郷土愛を持つ児童・生徒を育成するため、真庭市のSDGsを紹介する教材を制作して小学生に授業で伝えたり、中学生にバイオマス関連施設の社会見学を実施したりしている。

 

官民一体となってSDGsを推進する真庭市の取り組みは、2021年7月に開催された42カ国が参加する「持続可能な開発のための国連ハイレベル政治フォーラム2021」で、日本における事例の1つとして紹介され、高い評価を得た。真庭市の先進的な活動は、日本だけでなく世界の未来を開き続けていく。

 

 

真庭市総合政策課未来杜市(SDGs)推進室 室長 有富 基高氏(左)、同推進室 森田 学氏(右)

 

 

PROFILE

  • 岡山県真庭市
  • 所在地:岡山県真庭市久世2927-2(真庭市役所)

 

 

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