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【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

地域資源で「回る経済」の確立を目指す:岡山県真庭市

写真:Kawasumi-Kobayashi Kenji Photograph Office
「GREENable HIRUZEN(グリーナブル ヒルゼン)」。GREENableは、自然や緑を意味するGREENと、持続可能を意味するsustainableを合わせた造語。「風の葉」は建築家の隈研吾氏によって設計監修された

 

 

中山間地域の地方分散型モデル地域になることを目指す岡山県真庭市。地域資源とSDGsを有機的に結び付けることで、新しい価値を生み出している。

 

 

木材を余すことなく使う仕組みを構築

 

「2030年までに地域エネルギー自給率100%」という高い目標を掲げる真庭市は、岡山県北中部に位置し、昔から林業と製材業が盛んな地域である。人口減少・少子高齢化への対策や地方分権を見据えた、いわゆる「平成の大合併」で、真庭郡および上房郡の9町村が合併して2005年に真庭市が誕生。岡山県で最大面積を保有する地域となった。

 

自治体の広域化によって行政財政基盤の強化を図ったものの、地域が抱える経済的な課題は依然として残ったままだった。

 

「かつて栄えた林業や製材業は、2014年の台風による風倒木被害で木材価格が低迷。また、その被害で利用価値がなくなった丸太の活用策として、真庭森林組合や真庭木材事業協同組合などを中心に、木質バイオマスエネルギー利用の検討が本格化しています。製材所などにおける熱利用から始まり、木質バイオマス発電事業の展開へとつながってきました」

 

そう語るのは真庭市総合政策課未来杜市(SDGs)推進室の室長である有富基高氏だ。

 

発電事業の実現へ向けて関係者が検討を進め、燃料供給体制などの仕組み構築を含めて真庭バイオマス発電所を建設。2015年4月から稼働した同発電所の発電出力は約1万キロワットで、一般家庭約2万2000世帯分の電力を供給可能となった。

 

真庭市内に暮らす約1万8000世帯だけでなく、工場や店舗などを含めると、真庭バイオマス発電所の電力だけでは地域エネルギー自給率100%に到底届かない。しかし、太陽光発電など他のエネルギーを合わせることで、現在、自給率は約65%に迫っている。今後は、2030年までにもう1基のバイオマス発電所を増設し、地域エネルギー自給率100%を達成するために、その展開の検討を進めているという。

 

真庭市の木質バイオマス発電による再生可能エネルギー事業がさらに加速したのは2018年だった。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に優れた事業を行う「SDGs未来都市」(内閣府)に選定されるとともに、特に先導的な事業が選ばれる「自治体SDGsモデル事業」として全国10事業のうちの1つとなったことで弾みがついた。

 

「すでに稼働していたバイオマス発電事業を中核に『SDGs未来都市計画』を策定し、2030年の真庭市があるべき姿を明確化しました。そこでは、『地域資源を活用した“回る経済”の確立』『地域エネルギー自給率100%、木質資源活用によるCO2排出量削減』『環境に配慮した経済活動を行うことのできる人材育成』という経済・環境・社会が三位一体となったビジョンを打ち出しています」(有富氏)

 

木質バイオマス資源の有効活用は、SDGsの17ゴールのうち、7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、8「働きがいも経済成長も」、15「陸の豊かさも守ろう」にひも付いている。同事業によって50人以上の新しい雇用が生まれたほか、発電所が燃料として購入する地域の木質資源は年間14億円となっており、地域経済への還元がされている。今後も同事業がもたらす地域経済の活性化に期待が集まる。

 

 

 

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