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【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

企業価値を高めファンをつくるサラヤ流SDGs:サラヤ

「ハッピーエレファント」シリーズなどの製品売上の1%がボルネオの環境保全に使われる(上)/アブラヤシ農園の拡大により、生息地を追われ傷ついた野生動物を救出して森へ返す試みを実施。写真は2013年の「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ」開所式典に参加したサラヤ代表取締役社長の更家悠介氏(中)/熱帯雨林だった土地を買い戻し、分断された森(保護地)をつなぎ「緑の回廊」を回復させる計画を、環境保全団体「ボルネオ保全トラスト」を支援することで実施(下)

 

 

企業の姿勢・行動がブランド価値を高める

 

調査の結果、現地で無秩序な伐採が行われている事実を知った同社は、2005年にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に日本に籍を置く企業で初めて加盟。2007年からアブラヤシの伐採によって分断されたボルネオ島の熱帯雨林を回復させる「緑の回廊プロジェクト」に取り組むほか、RSPO認証を受けたパーム油の使用や同認証取得を目指す小規模農家の支援を続けている。

 

商品を買ってくれる消費者だけでなく、生産者やそこで暮らす自然や動物にも責任を持つ。簡単な決断ではないが、「結局は全て出口につながっています」と更家氏は言う。

 

「環境保全なども含めて情報をきちんと伝えることで、お客さまに買っていただけます。もちろん、すぐに売り上げが伸びるわけではありませんが、15年以上活動を続けていると当社の活動を知って購入いただいたり、親御さんが使っているのを見て育ったお子さまに選んでいただいたりと、徐々に売り上げは伸びています。当時は多少の無理をして野生生物を保全すると決めましたが、今はブランド価値につながっていると感じています」(更家氏)

 

生産地の環境保全にとどまらず、2017年にはエジプトで砂漠の緑化事業をスタート。そこから新たなビジネスの種が育っている。具体的には、大阪大学発のベンチャー企業・シモンド(大阪市)と共に、過酷な砂漠でも育つホホバの品種改良を実施し、現地の農家と一緒にホホバから良質なエッセンシャルオイルを採取して、化粧品の製造販売をスタート。2022年はエジプトとチュニジアで工場竣工を予定しており、ホホバオイルに加えてカロリーゼロの自然派甘味料「ラカント」、手洗い石けん液、手指消毒剤も一緒に製造・販売する計画が進行中だ。

 

「輸出のような形ではなく、工場も含め現地で腰を据えて取り組むことが大事だと思います。当社の中核である衛生事業は市場形成に時間がかかるため、単独で進出するリスクが大きい。そうした理由もあって、まずは化粧品や健康食品でマーケットをつくって、固定費をカバーしながら複数の事業を展開したいと考えています」(更家氏)

 

 

活動の鍵となるマネジメント人材育成に注力

 

社会のニーズや問題意識が先にあって、そこからビジネスが生まれる。創業の精神にのっとった事業展開と言えるが、SDGsとビジネスを両立するために押さえるべきポイントもある。その1つとして、同社が重視するのが「人材」だ。

 

「国内外で活動が増える中、問題意識を持ってマネジメントできる人材育成には力を入れています。一番大事なのはハートフルな心持ち。次世代人材に対する気持ちがないとできません。ですが、気持ちがあっても経営の技術がないと事業をマネジメントできません。当たり前のことですが、マーケットがあってこそ事業は成り立ちます。まずは資金繰り。そして、マーケティング、サプライチェーンのマネジメントなど。そうした技術を海外人材も含めて教えながら進めています」(更家氏)

 

また、ビジネスの観点で言えば「多様性」も欠かせない。同社の場合、コンシューマー向けだけでなく、企業法人向けの食品衛生や公共衛生、さらに医療・介護従事者を対象とするメディカルの3分野で事業を展開。商品についても、洗剤や消毒剤、食品、化粧品、フィットネスなどのカテゴリーを持っている。

 

「多様な顧客や商品への対応は煩雑な部分もありますが、組織全体としては安定します。ある事業の業績不振を別の事業がカバーするといったように、多様に展開するからこそ事業全体が成長し、相乗効果も生まれています」(更家氏)

 

特に最近はSDGsへの理解や浸透が深まったことで、社員発案のプロジェクトが生まれたり、人材採用時も感度の高い応募者が多く集まるようになったという。SDGsを“自分事”と捉えた社員に新たなモチベーションが生まれ、外部から優秀な人材が集まる。これも企業がSDGsに取り組むメリットと言って良いだろう。

 

 

SDGsはコストではなく利益につながる

 

2022年、サラヤは創業70周年を迎える。引き続きこれまでの活動に注力しながら、更家氏が当面の重点分野の1つとして挙げるのがプラスチックごみ問題だ。

 

もともと、1982年に業界初となる洗剤の詰め替えパックを発売するなど、長年にわたってプラスチックの削減に努めてきたが、そうした取り組みに加えて、現在は環境負荷の少ない効率的な使用済みプラスチックの再資源化技術開発を進めるアールプラスジャパン(東京都港区)への出資や、更家氏が理事長を務めるNPO法人ゼリ・ジャパンを通した活動にも力を注ぐ。特に、ゼリ・ジャパンは2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)への出展が内定しており、海の豊かさをテーマとするパビリオンの計画が進行中である。

 

「プラスチックごみ問題は業界内でもクローズアップされていますし、海外から流れ着くプラスチック海洋ごみやマイクロプラスチックの問題は将来、日本の漁業や食にも影響を及ぼす可能性があります。海洋国家である日本にとって解決すべき喫緊の課題と捉えていますが、皆で知恵を絞れば経済的価値が生まれる分野だと考えています」(更家氏)

 

私たちは次世代に何を残すべきか。そこに新しいビジネスのヒントが隠れている。

 

 

PROFILE

  • サラヤ(株)
  • 所在地:大阪府大阪市東住吉区湯里2-2-8
  • 創業:1952年
  • 代表者:代表取締役社長 更家 悠介
  • 売上高:632億円(2020年10月期)
  • 従業員数:1639名(2020年10月現在)

 

 

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