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【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

サステナブルなビジネスが“あたりまえ”になる日:ユニリーバ・ジャパン

ユニリーバ・ジャパンが花王とともに2021年6月に東京都東大和市で始めた「みんなでボトルリサイクルプロジェクト」。消費者・行政・企業が連携して日用品ボトル容器の分別回収・リサイクルの仕組みを検討する実証実験を行っている(上)/ユニリーバ・ジャパンの若手社員有志が立ち上げた「UMILE(ユーマイル)プログラム」。製品使用後に家庭で洗浄・乾燥した空容器を回収ボックスに入れたり、ボトル製品に比べてプラスチック使用量が少ないつめかえ対象製品を購入したりすることで、寄付やエコグッズ、LINEポイントと交換できる(下)

 

 

ゼロをプラスにする「ユニリーバ・コンパス」

 

ユニリーバは、2021年にUSLPの後継となる成長戦略「ユニリーバ・コンパス」を始動した。ユニリーバ・コンパスでは、「サステナブルビジネスのグローバルリーダーになる」という新しいビジョンの下、「地球の健康を改善する」「人々の健康、自信、ウェルビーイングを向上させる」「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という3つの分野で約30の数値目標を掲げている。

 

「パーパスはそのままですし、USLPの導入以降、目指してきた方向性も変わりません。違いは、USLPが環境負荷の削減といった『マイナスをゼロにする』取り組み中心だったのに対し、ユニリーバ・コンパスには自然を再生するといった『ゼロをプラスにする』取り組みも新たに組み込まれています」(新名氏)

 

気候変動に関する項目では、「2039年までに、原料調達から店頭販売まで全ての過程で、ユニリーバ製品からの温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」という高い目標を掲げる。取り組みの背景には、USLP開始から10年間で、製造工程で排出される温室効果ガスを75%減らし、使用エネルギーも51%を再生可能エネルギーに切り替えた実績がある。

 

「達成不可能な目標ではないと社員も分かっているので、後はいかに100%へ近付けていくか。取引先やサプライヤーなども巻き込んでいく新たなチャレンジだと思っています。SDGsという言葉がなかったUSLP開始時に比べると、いまは格段に協力していただきやすい環境になっています。ビジネスパートナーからも『ユニリーバと一緒にSDGsに取り組みたい」と言っていただくなど、追い風が吹き始めています。その風を上手に生かし、業界や政府への働きかけを含めて、より多くの消費者の行動変容を起こせるようにしていきたいと考えています」(新名氏)

 

軽量でコンパクトな商品パッケージを作り、プラスチック使用量を削減することはユニリーバ単独でもできる。だが、使用済みのパッケージを回収して新たなパッケージにリサイクルするには、分別回収の仕組みや再生技術の開発、消費者の行動変容が求められる。同業他社、国や自治体、リサイクル業者といった幅広いステークホルダーの協力が不可欠なのだ。

 

2021年6月には、競合企業である花王と協業し、東京都東大和市でプラスチックをゴミにしない循環型社会の実現に向けた協働回収プログラム「みんなでボトルリサイクルプロジェクト」を始動。消費者・行政・企業が連携し、日用品プラスチック容器の分別回収・リサイクルの仕組みを検討し、ボトル容器からボトル容器への水平リサイクル再生技術の検証を行っている。

 

「東大和市に協力いただき、開始から半年で5500個を超える空き容器がきれいな状態で回収できました。それを再生して新しいボトルを試作し、安全性や強度などをテストしています。今後も市場での実用化に向けて検証を進めています。回収地域も茨城県常総市、東京都狛江市へと広げました」(新名氏)

 

日用品のボトル容器は、メーカーごとに素材や色、デザインが違うことが多い。プロジェクトにはP&Gとライオンも参画し、リサイクルしやすい業界基準の検討が進んでいる。ペットボトルのような業界基準が決まり、空き容器のリサイクルが実現すれば、それは日本から世界を変える取り組みにもなり得る。

 

また、社外のステークホルダーと共に社会課題に取り組む解決モデルは、地域課題においても有効な切り口になる。ユニリーバ・ジャパンは、2019年に宮崎県新富町と地域連携包括協定を締結。町内の施設にリフィル(詰め替え)ステーションを開設し、Doveのシャンプーやボディウォッシュの量り売りを開始した。また、町内の中学生が描いたイラストをパッケージデザインに採用した九州地方限定のDove製品を販売し、売り上げの一部をウミガメの産卵で知られるビーチの保護に役立てるなど、サステナブルな街づくりに貢献している。

 

「サステナブルな取り組みを行動変容につなげるには、発信力も大事になる。「それにはコツがある」と新名氏は続ける。「単なるお願いではなく、環境や消費者の生活にどのような良い影響があるかを伝えることが重要です。UMILEプログラムも、『プラスチック削減に貢献しながらLINEポイントがたまり、楽しくお得にエコ活ができます』と伝えました。楽しさがなければ何事も続きませんから」(新名氏)

 

 

サステナブルビジネスにおける4つのメリット

 

SDGs実現に向けた取り組みの波に乗り遅れまいと考えながらも、「サステナブルに関する取り組みが企業の成長につながるのか」と、疑念を感じる経営者は少なくない。新名氏は、企業にとってサステナブルな取り組みには、4つのビジネスメリットがあると分析する。

 

「大きく分けて4つのメリットがあると考えています。1つ目は、『成長の加速』です。ユニリーバでは、パーパスを掲げてサステナビリティに早くから積極的に取り組んできたブランドは、他のブランドよりも早く成長しています。サステナブルな取り組みをしているかどうかを、商品を購入する上での選択材料にしている消費者が増えているからです。世界的なマーケティング会社であるカンター社の12年間に及ぶ調査でも、パーパスを持つブランドはそうでないブランドに比べて175%早く成長すると報告されています。

 

2つ目は、『信頼の向上』です。毎年実施するユニリーバの社員満足度調査では、94%が自社はサステナブルなビジネスだと実感し、93%が働くことに誇りを持ち、96%が自社製品を家族や友人などに勧めると回答しています。ロイヤルティーやエンゲージメントの高さは、まさに信頼の証しでしょう。

 

3つ目は、『コストの削減』です。当社では、環境対応のために節水や省エネ、パッケージ原料の削減などを進め、10年間で約1200億円のコスト削減を実現しました。そこで得た原資を、再生可能エネルギーや再生プラスチックの投資に充てることができています。

 

4つ目は、『リスクの低減』です。サプライチェーンでひとたび人権問題が起これば、ブランドの売り上げやイメージが大きく損なわれます。環境に負荷のかかる農業を続けた結果、原材料となる農産物の収穫量や品質が悪化すれば、製品をつくり続けることはできません。人権の取り組みを強化したり、環境に配慮した農園から原材料を仕入れたり、再生プラスチックへ切り替えたりすることは、道義上正しいだけではなく、レピュテーションリスク(企業やブランドに対するネガティブな評判が広まるリスク)や将来の調達リスクを減らすことにもつながるのです」(新名氏)

 

さらに、「信頼の強化、コストの削減、リスクの低減は目に見える成果となって表れている」と新名氏は続ける。

 

「USLPやユニリーバ・コンパスを通じて、サステナブルに取り組む姿勢が支持されているのは明らかで、企業成長を後押しする機運は間違いなく現れています。それをもっと明確にして、他社にまねされる存在になることが当社の役割だと考えています。

 

また、『サステナブルなビジネスモデルが企業の競争力や利益につながる』ということを実証していく中で、何をしているかをしっかりと説明することも重要です。私たちが何を目指しているかをステークホルダーに伝えて、良いことも悪いことも透明性高く報告することが大事でしょう。世の中を良くしていくことが、ユニリーバのパーパスですから」(新名氏)

 

 

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス アシスタントコミュニケーションマネジャー 新名 司氏

 

 

Column

社員が体現する「Doing well by doing good.」

ユニリーバが2020年に導入した「ユニリーバ・コンパス」には「未来に適合したスキルの再習得・向上トレーニング」%

 

 

 

 

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