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【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

サステナブルなビジネスが“あたりまえ”になる日:ユニリーバ・ジャパン

 

 

「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」をパーパス(目的・存在意識)に掲げるユニリーバ。目指すのはサステナブルなビジネスの先駆者たることだ。経営リスクを減らし、持続的成長を目指すサステナブルな挑戦は、SDGs採択よりも早く始まっていた。

 

 

グローバルに推進したビジネスプラン「USLP」

 

ヘアケア・ボディケア製品である「Lux」や「Dove」。耳に慣れ親しんだその名は、190超の国々で25億人以上が愛用する消費財メーカーであるユニリーバのブランドだ。日本市場では、ユニリーバ・ジャパンがビューティー&パーソナルケア・ホームケア分野で事業を展開している。

 

グローバル企業として世界をリードするのは、事業規模や知名度だけではない。ユニリーバは創業以来、事業成長と持続可能性を両立するビジネスモデルを追求し、2010年から独自のビジネスプラン「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」(以降、USLP)を導入。「10億人以上のすこやかな暮らしに貢献」「製品ライフサイクルからの環境負荷を1/2に削減」「数百万人の経済発展を支援」という3つの約束を掲げ、バリューチェーンからの温室効果ガスなど環境負荷を減らし、健康・衛生で社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指している。(【図表】)

 

「USLPを導入し、13億人以上の衛生・健康に貢献できました。例えば、殺菌石鹸ブランド『Lifebuoy』では、石鹸を使った正しい手洗いを10億人以上に啓発し、民間企業における世界最大の取り組みとして、社会的に評価を頂きました。これまでに多くの成果を上げ、SDGsにも貢献できた一方で、グループ全体の業績も堅調でした」

 

USLPが導入されてからの12年間をそう振り返るのは、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスのアシスタントコミュニケーションマネジャー・新名司氏である。USLPの取り組みの起点は、ユニリーバがパーパスに掲げる「To Make Sustainable Living Commonplace(サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に)」にある。また、ユニリーバでは、商品ブランド別にもパーパスを掲げている。

 

例えば、Doveのブランドパーパスは「すべての女性が自分の美しさに気付くきっかけを提供する」。同社のDoveチームでは、2004年に世界各地の女性に対して「自分が美しいと思う人(容姿に自信がある人)がどれだけいるのか」を調査。結果はわずか4%だった。そこで2014年から、女性が自分自身と他人の幸福と平和について自ら考え、行動できる人になることを目的とするガールスカウト日本連盟と共同で、自己肯定感を育てるワークショップ「大好きなわたし~Free Being Me~」を開催。参加者からは、「もっと自分を好きになった」「外見を前向きに考えられるようになった」などポジティブな反響が相次いだ。また、この取り組みで「令和2年度 青少年の体験活動推進企業表彰」(文部科学省)審査委員会優秀賞も受賞した。

 

さらに、2017年の追加調査で日本の10代女性の自己肯定感が世界最低水準だったことを受け、2018年に東京・順心広尾学園で学生証の写真を撮影する企画を実施。友人から自分へのコメントを聞いた後に写真を撮影することで、やわらかく、その人らしい笑顔の学生証が出来上がった。また、この企画を動画にまとめた「ダヴ:リアルビューティーID」も制作した。

 

「『ダヴ:リアルビューティーID』では、『目が小さいから、肌の色が悪いから自分の外見が嫌い』と話す学生たちが、クラスメイトの目に映る自分の姿を知ることで、自分らしい魅力に気付いていく姿が描かれています。この動画は、制服や学生証といった日本の学校文化の中で特に響くものでした。市場の特性に合わせて消費者の方々の心に寄り添う施策を行うことで、より大きな反響が得られています」(新名氏)

 

 

道は自由でも向かう先は必ずパーパス

 

全社パーパスと各ブランド別パーパスの実現に向け、いかに目標を設定し、行動を起こすのか。「SDGs達成への取り組みを何から始めたら良いか分からない、と他社からご相談を受けることも多い」と新名氏は語る。

 

「自社ビジネスを通して、どのような社会課題に貢献できるか。その接点を探すことから始めるのが良いと思います。例えば、SDGs17のゴールの中でも、『住み続けられる街づくりを』はユニリーバのビジネスに直接関係ありません。でも、『すべての人に健康と福祉を』なら、自社ブランドの石鹸を使って手洗いの重要性を啓発することで直接貢献できます。ユニリーバは、自社のビジネスやブランドに近く、社会に働きかけができる分野を選んでいます。そして、向かう先は必ずパーパスです。何をするにしても、企業として、ブランドとしてのパーパスから外れることは絶対にしません。ただ、パーパスを実現するための道は1つではないので、Aという道を進み、違うと感じたらBの道へ進むことも当然あります」(新名氏)

 

同社においても、USLPを発表した直後から、全社員が同じ方向を目指せたわけではない。「こんなことできない」「将来の成長が見込めない」という理由で退職を決める社員もいたという。

 

そのような中、当時のユニリーバのグローバルCEOだったポール・ポールマン氏は、「USLPは、ユニリーバがこの先企業として長期的に成長を続けて生き残る唯一の道だ」と、USLPの発表後すぐ、15万人を超える世界中の社員へ決意と切迫感を持ってメッセージを発信した。

 

「企業にとって大きな変革だと社員に意識させるために、ユニリーバ・ジャパンでも映画館を貸し切りにして録画メッセージを上映しました。その後も、業務を通じて各部門・チーム・個人へと少しずつ浸透させていきました」(新名氏)

 

同社には成果を重視する人事評価制度があり、毎年個々に目標を立て、その成果によって賞与や昇進が決まる。明快な評価基準に沿って目標を落とし込み、達成を目指すことが個々の成長につながっている。だが、組織において部門や人に業務を細分化するほど、横のつながりや全社の動きが見えにくくなる。

 

そこでユニリーバ・ジャパンでは、半期ごとの全社会議や、毎月社長から社員に発信するレターにも必ずサステナビリティに関するメッセージを入れるなど、あらゆる機会を生かしてUSLPの重要性を伝えている。

 

結果として、「上司に言われたから」「指示された通りに動いただけ」といった受け身な姿勢ではなく、自発的に行動する社員が増えたという。新名氏は、「そのようなパッションのある社員に活躍の場を提供することも大事」と続ける。

 

2020年11月には、プラスチック使用量の削減やリサイクル促進の取り組みとして、日常の買い物で気軽にエコ活動できるエコポイントプログラム「UMILE(ユーマイル)プログラム」をスタート。小売店などの店頭で使用済み容器を回収することで、エコグッズや寄付、LINEポイントと交換できる。このプロジェクトを考えたのも、パッションのある社員たちだ。

 

「当社には、『サステナビリティに熱心な会社だから』と入社する社員が多いです。UMILEプログラムも、通常業務とは別に、営業部門の若手社員が有志を募って企画・推進しています。社内起業制度もあり、基本的にやりたいと手を上げた人が自ら予算も取り、やり切ってくれています」(新名氏)

 

 

【図表】成長とサステナビリティを両立するユニリーバのビジネスプラン

出所:ユニリーバ・ジャパン提供資料よりタナベ経営作成

 

 

自己肯定感を育てるワークショップ「大好きなわたし~Free Being Me~」。自分の外見に対する自信のなさから、さまざまなことに挑戦できない少女たちにポジティブな変化をもたらすプログラムを提供

 

 

 

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