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【特集】

体験価値の設計

企業の存在意義や社会的責任が、ビジネスを考える上で欠かせなくなった今、経営はどう変わる必要があるのか。顧客だけでなく、全ステークホルダーの「体験」を価値あるものに変え、行動変容を促すことによって企業価値を高める「体験価値の設計」を提言する。
2022.04.01

“究極の顧客体験”を一途に追求しファンの熱量を高める:ヤッホーブルーイング

看板製品「よなよなエール」をはじめとするヤッホーブルーイングのクラフトビール。つくり手の思いや活動とともに、ファンの心を捉えている

 

 

製品の在り方を顧客とともに考える

 

ECや宴の経験から、佐藤氏はブランドと顧客の関係性を独自の視点で語る。「ブランドとお客さまの関係は、人と人の付き合いに似ています。最初に『初めまして』と自己紹介し、より深く語り合って友人から恋人に。結婚するときには、互いに向き合う目線から、同じベクトルの未来を見つめて家庭を築いていきます。当社のファンイベントも、同じなのです」

 

この「初めまして」に該当する一例は工場見学だろう。製造工程やテイスティングセミナーを体験できる「よなよなエール 大人の醸造所見学ツアー」で、ブランドや製品の味わいに込めた思いを伝える。次のステップは「よなよなエールの超宴」。イベント会場でファン同士やスタッフが交流し、より近しい存在になる。

 

さらに、同社と顧客が同じベクトルで未来を見つめるための、斬新なイベントを2018年に始動した。「よなよなこれから会議」だ。日本に、多様性ある豊かなビール文化を創り出せるか。クラフトビール市場を拡大し、楽しく幸せな人生を届けられるか。自社のミッションを未来志向で考えるイベントには、公募した熱量の高いファン50名が参加した。社内の企画会議さながらに、課題解決や目標達成の力になろうと考え、顧客がそれぞれの提案を発表した。

 

「自分の結婚披露宴でテイスティングセミナーを実演された方や、自ら幹事となって宴を実現した方もいます。とてもユニークですし、私たちのやりたいことと、ファンがその方らしいやり方でできることの重なりを見つける挑戦です。『お客さまは神さま』とは安易に思わず、対等な立場で、ファンの方々も私たちも楽しく、ミッション達成に向けて一緒に歩いて行ける関係が理想です」(佐藤氏)

 

会議ではあえて、中期経営計画や数値目標もオープンにした。本気でミッションの実現を目指すからこそ、同社のメッセージの発信が参加者の心に響き、健全な関係を築いていけるからだ。自社の姿をさらけ出すことで、熱量をさらに高めたファンが、CXの向上へと自走し始めている。 

 

 

 

製品の在り方を顧客とともに考える

 

ヤッホーブルーイングには「ガッホー文化(『頑張れヤッホー』の略)」と呼ばれるフラットな企業文化と、その中で組織・スタッフ全員が「究極の顧客志向」を目指す風土がある。そうした中でEX(従業員体験価値)が絶えず生まれる環境こそ、ファンとの絆づくりの原動力になっている。実際、国内の「働きがいのある会社」ランキングで6年連続のベストカンパニー、2021年度はアジア地域のベストカンパニーにも選ばれた。

 

「採用時からミッションの理解・共感を大事にしています。年齢や役職、キャリアに関係なくニックネームで呼び合い、チームで動くことで個性を生かし、多様性を併せ持ち、イノベーションを生み出す。会社が掲げる方向性や中期目標に向けて、自ら考え行動して達成していく、とてもフラットな組織です。仕事を楽しみつつ、切磋琢磨し、型にはまらない。そんな『知的な変わり者』として誰もが働きがいを実感するカルチャーが、究極の顧客志向の推進力になっています」(佐藤氏)

 

所属ユニットの業務だけでなく、多様な社内プロジェクトに2割、自己啓発に1割と、スタッフ個々のリソースを配分している。仕事を楽しみつつ能力を発揮し、成長もできる仕組みを確立しているのだ。実際、よなよなエールの超宴もユニット横断型のイベントとして多様な社員が参画したことで実現・成功し、ファンとの濃密な接点を持つチャンスになった。

 

もう1つ、同社のユニークな制度が、管理職の登用方法である。ユニットディレクターなどの管理職は立候補制であり、立候補者のプレゼンテーションや質疑応答を経て、全社員の投票をもとに決まる。候補者にとっては、立候補を通じて経営課題や企業価値向上への意識を高める経験となり、社員も未来を任せるリーダーを自ら選ぶという意思決定を下す経験をする。「自社についてより広く深く考える機会になり、結果として、自社をもっと好きになる」と佐藤氏は語る。

 

採用時の「初めまして」から企業文化に出会い、徐々に馴染み、EXが高まるプロセスは、CX向上のプロセスによく似ている。さらに「今後は、製品やサービスのコラボ以上に、ミッションに共感し合う企業同士がCXでつながる取り組みが広がる」と佐藤氏は語る。

 

「すでに、日本航空の会員約3000万人対象の共同イベント『呑みにマイル』を開催しています。これは、全国へフライトし現地で宴を開く日帰り観光ツアー。参加者は30~40歳代の知的好奇心、可処分所得の高い方が中心です。日本航空の会員層と当社のファン層が重なっていたこともあり、CX向上につながったと思います。また、両社スタッフからも『楽しかった!』との声が上がっていて、EX向上にもつながっています。BtoCだけでなくBtoBの可能性も生まれた機会であり、これからが楽しみです」(佐藤氏)

 

EXを重んじる社風があるからこそ、社員はCX向上に本気で取り組むことができる。その結果として、健全で持続的なエンゲージメントを築くことができるのだろう。

 

 

※働きがいのある会社研究所(GPTWジャパン:Great Place to Work® Institute Japan)が世界共通基準で企業と従業員の双方を調査。マネジメントと従業員の間に「信頼があり、一人ひとりの能力が最大限生かされている会社」を、「働きがいのある会社」と定義している

 

 

PROFILE

  • (株)ヤッホーブルーイング
  • 所在地:長野県軽井沢町長倉2148
  • 創業:1997年
  • 代表者:代表取締役社長 井手 直行
  • 従業員数:177名(2022年2月現在)
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