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【特集】

体験価値の設計

企業の存在意義や社会的責任が、ビジネスを考える上で欠かせなくなった今、経営はどう変わる必要があるのか。顧客だけでなく、全ステークホルダーの「体験」を価値あるものに変え、行動変容を促すことによって企業価値を高める「体験価値の設計」を提言する。
2022.04.01

組織に「デザイン」で横串を通す:ビズリーチ/Visional

【図表2】田中氏が考える「デザイン」

出所:Visionalグループ提供資料よりタナベ経営作成

 

 

デザインで組織を横断し働く人のキャリアインフラを目指す

 

デザインをあらゆる部門、プロセスに入れていく。そのために同社がまず着手したのは、デザイン組織を各事業部から独立させてデザイン本部の直下に入れることだった。デザインを浸透させるために、デザイン組織を切り離す――。一見、矛盾しているように感じるが、一度デザイン本部に集めることで、「各プロジェクトのファンクションや事業フェーズに最適な人材をアサインする」(田中氏)ことが可能になった。会社として実現したい姿を想定し、そこから逆算して人的資源や技術資源を適切に配置することで全体の推進力を上げたのだ。

 

「まずはトップダウンでデザインを入れる形でスタートしました。事業フェーズや人の成熟度、組織の成熟度に応じて適切な人材を入れながら、デザインのプロセスを導入していく。全事業部に対して細かく横串を通しながら、デザインの考え方を浸透させています」(田中氏)

 

事業部からデザインを切り離すのではなく、各事業部にデザインという横串を通していくマトリックス型組織に組み替える(【図表1】)。定量ドリブンに傾きがちな事業部からデザインが独立することで、ぶれることなくユーザーの課題や価値をプロダクトやプロセスに反映しやすくなる。

 

これはブランドコントロールにもつながる利点である。経営に近い田中氏がトップを務めるデザイン本部が組織を横断することで、バラバラになりがちな品質やプロセス、人材マネジメントに一貫性をもたせることができるのだ。

 

一方、企業である以上、数値目標を追うのは当然のこと。ものづくりとビジネスのバランスをいかに取るかが課題になるが、田中氏は「デザイナーやエンジニアがビジネス感覚を持つこと、逆にビジネス側はものづくりを理解することが必要」と話す。

 

「定量的な考え方とデザインの考え方は相反すると考えられがちですが、デザイナーやエンジニアがものづくりの世界にとどまるのではなく、定量的な考え方やビジネス感覚を持つことも必要だと思います。経営にデザインが入る理由もそこにあります。ビジネスとユーザー、プロダクトのバランスを取りながら最適な経営判断をすることが大事だと考えています」(田中氏)

 

2020年、グループ経営にかじを切ったVisionalは、翌21年にホールディングカンパニーが東証マザーズへ上場。産業のDXを推進する企業グループとして、事業領域を広げながらさらなる高みを目指している。その過程で、ビズリーチは「すべての人が『自分の可能性』を信じられる社会をつくる」という新たなミッションを策定。働く一人一人が自分らしいキャリアを築いていくために必要なインフラ「キャリアインフラ構想」を打ち出し、次のステージに向けて走り続ける。

 

「キャリアインフラを実現するには、今ある事業をベースに2階建てのビジネスモデルに発展させる、あるいは全く新しい価値を創造していかなければいけません。そこにはデザインが必要です。これまではデザイン本部がある程度、指揮を執りながら人の力でプロセスをつくり込んできましたが、パフォーマンスが出てくるとそのプロセスが開発や考え方の型になり、現場の型になっていきます。デザインの思考やプロセスが、息を吸うように自然とできる状態になれば到達できると考えています」(田中氏)

 

事業や商品・サービスのパフォーマンスを上げ続けられるかどうかは、企業の適切なデザイン活用にかかっている。

 

 

PROFILE

  • Visionalグループ
  • 所在地:東京都渋谷区渋谷2-15-1 渋谷クロスタワー12F
  • 設立:2020年
  • 代表者:代表取締役社長 南 壮一郎
  • 売上高:286億9800万円(グループ計、2021年7月期)
  • 従業員数:1466名(グループ計、パート・アルバイト含む、2021年7月現在)

 

 

 

 

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