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【特集】

マネジメントDX

海外では「ビジネスの成果に貢献する付加価値部門」と位置付けられるバックオフィス部門。だが、日本では「下支え部門」という認識が根強く残るのが現状だ。バックオフィス業務の無駄を洗い出し、最新のデジタル技術によって改善を施すためのシステム再構築メソッドを提言する。
2022.02.01

「3ない」「3レス」を実現:りそなホールディングス

りそなグループでは、2003年から経営再建の一環としてオペレーション改革を進め、店舗における事務量を半減させるなど業務効率を向上させた。この成功を基盤に、ユーザー視点に立ったDXを推進している。

 

 

「変革のDNA」を共通の意識としてDXに取り組む

 

 

事務の在り方を見直したオペレーション改革

 

コロナ禍が続く中、リモートワークへの対応とともに、バックオフィス業務の効率化、そして新たな価値の創出につながるDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みが各社で進んでいる。しかし、「既存のバックオフィス業務に手を入れるのは容易なことではない」との声が現場から上がることは珍しくない。

 

そこで注目したいのが、りそなグループが2003年の経営再建時から取り組んできたオペレーション改革だ。同グループが経営資源をリテール分野に集中するとした経営計画に基づき、銀行業務における事務の在り方を根本的に見直す試みである。

 

当時、JR東日本(東日本旅客鉄道)からりそなホールディングスに転身した細谷英二氏が、会長に就任して断行した経営改革は、「りそなの常識は世間の非常識」という信念の下、店舗レイアウトや事務プロセスなどを抜本的に変えるものであった。平日午後3時の閉店が常識だった銀行界において、夕方5時の閉店を実現したほか、休日対応の拡大などを通じて銀行業のサービス業化を促進。迅速で正確なサービス提供による利便性と信頼性の向上を図る一方、ローコストでの運営体制を通じて、経営再建の道筋を付けたのである。

 

「2003年当時、りそなグループに約2兆円の公的資金が投入され、実質国有化という深刻な状況の中で、全従業員が危機感を共有しつつ、サービスを『お客さまの目線で捉え直す』という方針でオペレーション改革を進めました。以降、改革が進む過程で『変革のDNA』を共通の意識としており、今後、挑戦していくDXについても同じ思いで取り組んでいく考えです」

 

そう話すのは、りそなホールディングスのプロセス改革部グループリーダーである橘吉則氏だ

 

オペレーション改革の当初、その主眼は「3ない(窓口で待たせない、印鑑を押させない、書類を書かせない)」「3レス(書類を減らすペーパーレス、現金のやり取りを減らすキャッシュレス、事務作業を減らすバックレス)」を中心とした店舗改革であった。来店したお客さまをできる限り待たせないように、総合受付やクイックナビ、コミュニケーションブースなどを設けた。来店者にとって負担であった長い待ち時間や煩雑な手続きを排除し、3ないを実現したのである。

 

ATMを併設したクイックナビでは、税公金の納付や振り込みなどの手続きができる。また、一部の手続きをキャッシュカードのみを利用して完結できることから、印鑑の持参や書類の記入が不要となり、業務効率と顧客サービスの両方を向上させている。「この仕組みにより、結果的に3レスという銀行業務の効率化につながった」と橘氏は語る。

 

 

【図表1】ステータス管理プロセス

出所:りそなホールディングス提供資料を基にタナベ経営作成

 

 

ステータス管理プロセスでペーパーレスに

 

オペレーション改革に着手した際、「事務量を2分の1」にし、「従来の2分の1のコストで従来の2倍のサービスを」という目標を掲げ、実際に、営業店の事務量を半減させた。

 

同社では、窓口で受け付けたお客さまの処理を後方の社員がサポートするという従来の態勢を見直し、「業務サポートオフィス」というミドルオフィスに集約・処理する仕組みへの変更を行った。クイックナビ導入などによる効果と併せ、営業店の事務が約4割減少するなど大きな効果があったが、一方で「書類」を運搬して処理する態勢であったため、バックオフィス業務全体のさらなる効率化が課題であった。

 

この課題に対し、2010年から順次展開した「新営業店システム」にて、「ペーパーレス化」によるバックレスの取り組みを拡大。店舗と合わせて後方事務体制の見直しを図った。

 

「従来は輸送車両で書類を事務センターに運んで処理していたのに対し、エントリー端末という装置を用いたイメージ伝送を行うことで、ペーパーレス化を推進した」と橘氏は話す。

 

エントリー端末の導入後は、「ステータス管理プロセス」として、事務プロセスを「受付」「データ作成」「取引管理」「クレンジング」「完了」という5つのステータスに分類し、各プロセスの標準化、⾒える化を行った(【図表1】)。また、同⼀処理・チェックは1回のみとし、各ステータスでのチェック項目を明確にした。加えて、データ作成とチェックは原則システム処理としたのである。

 

給与振込事務プロセスでは従来、延べ3日間を要していたが、「ステータス管理プロセス」では受付後に即時処理が可能となった。

 

一方、「新住宅ローンシステム」を用いた住宅ローン業務の改革では、案件単位でプロセスの進捗状況をシステムで管理するとともに、業務へのデータ活⽤と、拠点間でのデータ共有が可能な仕組みを確立した。審査スピードが向上したほか、審査結果の通知の迅速化や、契約時間の短縮、取引・決済時間の短縮を実現することができた。

 

また同社では、製造業における工場と同様に「生産管理」という考え方・運営手法をミドル・バックオフィスに導入。CREの取り組みと合わせ、バックオフィス業務の効率的な運営を実現し、人員の削減につなげるなど、さらなる改革を推進してきた。

 

 

 

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