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【特集】

マネジメントDX

海外では「ビジネスの成果に貢献する付加価値部門」と位置付けられるバックオフィス部門。だが、日本では「下支え部門」という認識が根強く残るのが現状だ。バックオフィス業務の無駄を洗い出し、最新のデジタル技術によって改善を施すためのシステム再構築メソッドを提言する。
2022.02.01

DX推進で収益不動産のリーディングカンパニーへ:プロパティエージェント

 

マンション、オフィス受付、決済サービス、施設入場など、全て「FreeiD」の顔認証だけでサービスを受けられる“1億総顔認証時代”を目指す

 

 

「売上高1,000億円/時価総額1,000億円」を中期目標として掲げる東証1部上場のプロパティエージェント。DX推進によって事業拡大と経営の効率化を図り、ビジョン実現を目指していく。

 

 

経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定

 

「不動産と不動産サービスの価値を創造、向上し、社会を進化させ、人の未来を育み最高の喜びを創出する」を経営理念に掲げるプロパティエージェントは、2004年の創業以来、18期連続で増収増益を続ける成長企業である。

 

現在は主力事業である不動産開発販売に加え、物件管理からリースに至る一貫した不動産サービスを展開。さらに、中古収益不動産のマッチング事業や顔認証プラットフォーム事業、不動産クラウドファンディング事業といった新分野に参入するなど事業領域を拡大しており、グループ売上高は275億2300万円(2021年3月期)に上る。

 

競合の多い不動産業界にあって同社が成長を続ける秘訣は何か。代表取締役社長の中西聖氏が理由として挙げるのが、「DXによる効率化」と「不動産関連事業におけるエリア戦略」の成功である。特に、DXについては2021年9月に経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定されるなど、先進企業として多方面から注目を集めている。

 

DX推進に当たって、同社が2つの柱として注力するのが「事業の成長戦略」と「社内の構造改革」だ。前者(事業の成長戦略)は、DXを活用した新規事業創出であり、不動産投資型クラウドファンディングサービス「Rimple」(リンプル)や顔認証IDプラットフォームサービス「FreeiD」(フリード)などがある。

 

特に、FreeiDによる顔認証は、マンションの入室やオフィスの受付をはじめ、決済サービスや施設入場など幅広い領域への活用が期待されている。同社が開発するマンションをはじめ、外部のホテルやアミューズメント施設などへの導入が広がっていることから、「2024年に会員数100万人」を視野に入れている。

 

一方、後者(社内の構造改革)は、社内のビジネスフローやビジネスプロセスを効率化するDXを指す。アナログからデジタルへの移行による情報の一元管理やKPI(重要業績評価指標)の可視化、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)の最適化などを進めており、工数とコストの大幅な削減によって1人当たり生産性と売上高、利益率の向上を目指していく。

 

 

DXは成長戦略の注力領域

 

2020年以降、コロナ禍の影響でDXへの関心が高まっているが、同社がDXを導入したのは2016年のこと(【図表1】)。「規模拡大を目指すには、属人的な営業スタイルから抜け出し、仕組みとシステムで回る営業組織に変える必要がある」と考えた中西氏は、営業部門にSFAを導入し、見込み客管理のデジタル化や適切なタイミングを通知してセールスを促す仕組みを構築していった。

 

 

【図表1】プロパティエージェントのDXへの取り組み

出所:プロパティエージェント資料よりタナベ経営作成

 

 

さらに、2018年にはDXを成長戦略における注力領域と位置付けて全社的な取り組みに着手。例えば、Zoom商談やIT重説(重要事項説明)、電子契約の導入などによって商談の完全オンライン化を実現する一方、バックオフィスにおいても社内コミュニケーションメッセージツールへの移行や社内稟議・申請書の完全電子化、採用書類(履歴書・職務経歴書)の電子データ受領の開始といったデジタル化を積極的に進めていった。

 

コロナ禍をきっかけにDXを始めた企業が多い中、この時期に、同社が積極的にDXを推し進めた理由を中西氏は次のように語る。

 

「不動産事業である以上、リーマン・ショックのような危機への準備をしておくべきだろうと考えていました。2018年と言えば、国内景気は不動産業界も含めて活況を呈していましたが、どんなリスクが起きても対応できる組織を目指すならば、BS(バランスシート:貸借対照表)のスリム化やコスト削減が不可欠です。

 

それにはデジタル化が最良の方法ですし、他社との差別化を図ることもできる。また、将来の成長にもつながると考えました。その直後にコロナ禍に直面しましたが、デジタル化していたこともあって大きな影響を受けずに済みました」(中西氏)

 

早い時期からDXに取り組んだことで、コロナ禍においても安定した成長を続ける同社。だが、「2016年ごろは、建物管理や賃貸管理、経理などの各部門が契約されたお客さまの個人情報を入力している状況でした。中には、同じ名前を8回入力しなければならないケースもありました」と中西氏は振り返る。

 

そうした状況を解消するために取り組んだのが、社内のあらゆる文書の電子化だ。紙の文書をデジタルに変えることで、文書を探す時間が大幅に削減できたほか、書類をコピーして郵送する手間やコストもなくなった。さらに、「あらゆる文書を電子化することで、省スペース化につながります。当社の場合、オフィス内のキャビネットを90%超削減できました」と中西氏。このように、DX推進は誰もが納得する成果を上げている。

 

また、新規事業の中古収益物件のマッチング事業は、バックオフィスのDX化が成長を支える好例だ。

 

不動産業界には、物件の値段や間取りなどの情報が1枚にまとめられた「マイソク」と呼ばれる資料がある。物件を探す際に必ず目を通す資料だが、同社の場合、「月40件の物件を仕入れるために2000枚以上のマイソクを確認していた」(中西氏)という。同社は、この気の遠くなる作業をデジタル化した。

 

具体的には、マイソクの画像をデータ化し、同社が設定する条件に合致しない物件が自動で除外されるようシステムを構築したことで、社員が確認すべきマイソクの大幅な削減に成功した。その結果、従来は1人当たり月10件の仕入れが精一杯だったが、現在は月20件以上の仕入れが可能になっている。(【図表2】)

 

 

【図表2】自社開発の仕入自動化システムの仕組み

出所:プロパティエージェント資料よりタナベ経営作成

 

 

「2020年に中古収益物件のマッチング事業をスタートする以前から、デジタル化を進めていたおかげでスムーズに事業展開することができました」(中西氏)

 

実は、この仕組みは新築物件以上に中古物件事業で高い効果を発揮する。なぜなら、全戸が1回の査定で済む新築マンションと違い、中古マンションの場合は1戸ずつの状態や条件が異なる。このため、全ての物件を査定する必要が生じるのだ。

 

特に、同社が設定する査定項目は60以上あるため、人の手でやるとなると膨大な時間と労力が掛かってしまうが、デジタル化によって2倍以上の仕入れを実現。バックオフィスDXが新規事業の成長につながった、DXの手本のような事例と言えるだろう。

 

 

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