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vol.17 コミュニケーションの基礎作法
安西 洋之

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2017年2月号
 
雑貨や家具の市場におけるイタリアの強み
 
この趣旨を今度はイタリアに適用してみよう。
 
イタリアが海外市場で高く評価される領域は、まさしく雑貨や家具である。フェラーリのような車もあるが、高級車であり技術製品である。ファッションもメード・イン・イタリーの象徴だが、この世界はデザイナーのブランド力が強過ぎるので、本稿では外しておく。食べ物は情報発信地の文化を重んじるというマナーが基本的には受け手にあるので、これも別枠にしておこう。
 
さて、雑貨や家具は日常世界で使われるので文化性が高い。文化性が高いとは、地域に根付いている習慣や感覚、あるいは気候といった要素により配慮を要するということだ。
 
ミラノでは毎年4月にデザインウイークが開催されるが、中心はこのジャンルである。2016年の国際家具見本市(ミラノサローネ)は、6日間の期間中に約37万人の来場者があり、うち70%近くが海外からだった。同時に市内各所で1000以上のデザインイベントが行われ、推定で50万人以上を動員する大規模なものだ。
 
国際見本市の出展の70%がイタリア企業であることから、メード・イン・イタリーあるいはイタリアデザインの人気が海外市場で高いと判断できる。
 
なぜ日本のこの種の製品は市場で弱く、イタリアが圧倒的に強いのだろうか。
 
第1に、西洋的生活様式は世界に標準スタイルとして普及しているため、各国の生活シーンでも機能上の問題はない。リビングルームのソファはどこの国でも使えるが、日本のこたつは当面、限られた市場での販売しか期待できない。
 
かといって、欧州の人が日本メーカーの椅子やクローゼットを買う理由もあまりない。いわゆるオリエンタルテイストを強調したもの以外、遠いところからの輸送で経費がかさんだ高額の製品を買う動機がないのだ。言うまでもないが、オリエンタルテイストの家具はニッチである。
 
第2に、過去の学習量がまるっきり違う。50年以上にわたって輸出をしてきた数々の企業には、蓄積されたデータやノウハウがある。それらは人材の転籍によって多くの企業に共有され、デザインビジネスの成功例を記した書籍にも事欠かないのである。対して日本のメーカーのデータはゼロに近い。
 
第3として、過去に築き上げたメード・イン・イタリーのブランド力により、外国人がイタリアに対して求めている像がイタリア企業にかなりはっきりと見えている効用がある。
 
だからローカリゼーションとは、海外市場がイメージするイタリア(すでにイタリア国内にはほとんど存在しないタイプもある)に合わせることが重要なステップになる。必ずしも市場の伝統的な文化に合わせることを意味しない。
 
戦略的に伝統を作り出す気概を持つ
 
一方、日本企業は耐久消費財で「多機能」「高品質」をセールスポイントに置いて実績を築いた自負が強い。日本の精神性として「細かい点に丁寧」を自らのアイデンティティーに置いてきた。陶芸などの世界でいう「魂を込める」との表現を工業製品に対しても適用するのが、あるいはできるのが日本の製品の強みであると考えてきた。しかしながら、それら以外のことで日本の製品の強みを語ってこなかったために、多機能でも高品質でもアピールできなくなった今、参照できるモデルが見当たらない。
 
ことに雑貨や家具の世界で、そのモデルの欠如が苦戦の原因になっている。「細かい点に丁寧」は大切な要素であるが、それだけでモノは売れない。機能や使い勝手が適切であり、かつ価格が妥当であるならば、どうしても文化性がテーマになる。
 
ところが、日本のどのような文化性が海外市場で評価されるのかというデータがない。分野の異なる家電や自動車のデータは使えない。ほとんど何もデータがないところで雑貨や家具は市場進出を試みているのだから、寛大な目で見れば、多くはうまくいかなくて当たり前なのだ。
 
それなのに無理をして文化色を出そうとする(「すがりつく」と言ってもよい)から、どうにも独り善がりの様相を帯びることになる。慌ててはいけない。冷静になる必要がある。
 
どこかに日本文化の「正しい教科書」があるわけではない。伝統といわれるものは、実は戦略的に過去のいくつかの事実の組み合わせによる、そう遠くない昔の発明品であることもある。
 
自分で戦略的に伝統を作り出すくらいのつもりで、自社の製品コンセプトを作り直していく余裕が必要なのかもしれない。そして、じっくり作ったものを発信していくべきだ。

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