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vol.2 価値を守り、伝える
——ブルネッロ・クチネッリ
安西 洋之

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2015年11月号
※本コラム「ワールドワイド トレンド」は、アジア編・ヨーロッパ編・米国編の輪番で毎月掲載しています。
 

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クチネッリ氏と筆者  ©satoshi hirose


 
 
 
ブルネッロ・クチネッリというイタリアの高級ファッションブランドがある。カシミアのセーターが数十万円で売られ、あるブランドコンサルティング会社の格付けによれば、フランスのエルメスと同格に位置付けられている。
長い歴史があるわけではない。創立年は1979 年だから、30 年余りで、このステータスを勝ち取ったことになる。年商はおよそ450 億円、従業員数は1000人程度。ミラノ証券取引所に上場しており、売り上げの80%が北米と欧州で、残りの20%が他の地域だ。
 
 
2015 年7月、私は同社の本社があるウンブリア州コルチャーノ市のソロメオという村で開催されたルネサンス祭りを見学した。小さな中世の丘上都市のいくつもの街角にテーブルが置かれ、ルネサンス時代の衣装を着た男女が料理をサービスする。
客は近郊の住民や観光客だ。
広場には職人仕事の商品を売る屋台が並び、その周りではルネサンス音楽を奏でるグループがある。食事をしていると中世の詩人、ダンテ・アルギエーリを模した男性がやって来て箴言を放ち、食卓に笑いを残して去っていく。
ルネサンスのパフォーマンスもかくやと思わせる、強烈な存在感が満ちあふれている一晩だった。
 
この祭りは、毎年7月末に1週間にわたって行われ、すでに30 年続いている。始まりは、ブランド創業者のブルネッロ・クチネッリ氏の企画アイデアだ。
一人一人が仕事の分担で細切れにされない、一人が全てをこなすルネサンス工房の発想を、今の世界に復活させたいとの願いが込められている。
 
 
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ソロメオのルネサンス祭り


 
 
1985 年、同社はソロメオに本社を移した。街は当時、廃れた状況にあった。それを経済的に繁栄させて人の往来を増やし、建物や広場を修復して、劇場など文化施設も充実させたのだ。
2年前にはニットや庭づくりの職人を育成する学校もスタートしている。
 
多くの日本企業は市場で「狭く高く」売った経験が少ないために、現在、そのすべを知ろうと懸命になっている。中間価格帯の市場が縮小し、低価格帯と高価格帯で覇権を握ることが大きなテーマになっているが、低価格帯の多くは巨大企業の勝負どころである。「広く安い」マス市場への準備は、中小企業にとって敷居が高い。
「狭く」売るのは中小企業でもいけるのではないか、と考えがちである。しかしB to B で特殊な技術を売りにするならいざ知らず、B to C で「高く」売るのは未知の地平である場合が多い。
 
日本企業は「付加価値を付ける」と念仏のように唱えるが、それがどういう意味を持つのか、なかなか理解できないのである。
日本企業はブルネッロ・クチネッリを知るべきだと、私が考える理由はここにある。
 
 

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