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vol.16 タイ進出の難しさ
三田村 蕗子

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2017年1月号
 
※本コラム「ワールドワイド トレンド」は、アジア編・ヨーロッパ編・米国編の輪番で毎月掲載しています。
 
成否を分ける決め手は何か
 
 
タイにはたくさんの日本企業が進出している。製造業から始まって、外食、サービス、小売りなど、業種はさまざまだ。各社は、市場開拓を狙ってタイに乗り込み、事業を営んでいる。
ジェトロ(日本貿易振興機構)が実施した調査(調査期間:2015年1~3月)によれば、タイに進出している日系企業は4567社に及ぶ。そのうち、製造業が全体の47.0%、サービス業が49.5%という構成だ。これらの数字が示すように、街に出れば日本語の看板が、スーパーマーケットや百貨店に行けば日本語のPOPが目に飛び込んでくる。事情を知らない人が見れば「タイに進出した日本企業は大成功している」と思うかもしれない。
事実、成功を収めている企業も多いが、その裏では失敗して撤退を余儀なくされ、タイから姿を消す日系企業もまた多い。日本で何百もの店をチェーン展開している大企業の中にも「不首尾」組がいる。日本と同様のチェーン展開を目標に掲げながらも、タイの消費者の支持を思うように獲得できず、店舗展開のスピードも上げられず、売り上げも店舗数も目標には遠く及ばない――。そんな企業が目につく。
タイで成功を収める日系企業と、なかなか成果を出せない日系企業。両者を分けているものは何なのか。今回は、タイで事業を軌道に乗せるための条件、失敗の理由や背景について探ってみたい。
 
 
タイ人の金銭感覚をつかもう
 
失敗に陥る原因として考えられるのは、企業がタイをよく理解していないことである。
まず、タイは親日国で町中に日本語が氾濫している。そのため、タイを初めて訪れた日系企業は「これなら自分たちのビジネスはすぐにうまくいく」と考えがちだ。「所得が年々上昇し、中間層が着実に増えているため、多少高価でも売れるだろう」という発想に陥りやすい。
また、メード・イン・ジャパンの製品に対して「安全・安心で信頼できる」というイメージを持っているタイ人が多いため、「日本製なら何でも売れる」「タイには日本製に並び立つようなクオリティーの製品はない」「日本製の独壇場だ」といった安易な考えも見受けられる。
そして、富裕層が日本とは比べ物にならないほどの富を有し、金に糸目を付けずに派手な購買行動を繰り広げていることから、「富裕層になら受けるはずに違いない」と考える。
こうした考えは全て誤りだ。
確かにタイ人はメード・イン・ジャパンを高く評価しているが、だからといって、それは100%の成功を約束する切り札にはならない。所得が増えているといっても、大卒の初任給は2万バーツ(6万円)程度。1万バーツ(3万円)以下の給与で働くタイ人が圧倒的に多い中で、本格的にローカルの需要を獲得しようと考えるなら、まず価格設定について真剣に吟味しなければならないだろう。
そもそも、日本とタイでは物価が全く違う。為替レートでは現在、1バーツ=約3円。しかし、タイで販売されている商品やサービスにただ3をかけただけでは、タイ人の価値観を理解することはできない。
タイ人のリアルな金銭感覚を知るには、バーツの数字を3倍にするのではなく、10倍にして考えてみるといいだろう。日系企業のタイ進出を支援する会社を運営しているタイ人が教えてくれた法則である。
例えば、タイにおける大卒の初任給2万バーツ。この数字に10をかけると20万になる。これを「円」の単位で捉えるのだ。同じように、スターバックスで100バーツのカフェラテであれば、10をかけて1000円と認識したい。外資系コーヒーチェーンで飲むカフェラテに対するタイ人の感覚を日本的に捉えると1000円になるということだ。
これだけの価格のコーヒーをおいそれと飲めるだろうか。よほど財布に余裕がある層でなければ、スターバックスのカフェラテには手を出せない。これが一般的なタイ人の金銭感覚だ。
100バーツの商品は、為替レートで換算すれば約300円だが、タイ人にとっては1000円ぐらいの価値がある。500バーツだったら5000円。このように、「10倍の法則」で考えると、日本の製品がタイではとんでもなく高価格となることが実感できるだろう。
 

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