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タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2017.10.19

新しい人づくりモデル「企業内大学」に挑戦しよう:若松 孝彦

OJT改革 部下が上司を選べる時代

 

クラウドで配信する映像は、紙のテキストに代わる存在となります。あたかも「東進ハイスクール」(通信衛星やインターネット回線で授業を配信する大学受験予備校)のように、講師が自分だけに語り掛けてくれる1対1 のコミュニケーションとなるため、受講生は授業に集中できます。また、クラウドを介して一人一人の受講状況を一元管理できるので、きめ細やかなフォローが可能になります。

 

先日、あるクライアントを訪問した際、社長が「社内アカデミーの動画が完成しました」と見せてくれました。動画に登場するスタッフの講義のうまさに感心されたようです。社長いわく、「うちの社内にもこのような才能(タレント)を持った社員がいたのですね」と。社員が講師を務めることが大きなポイントです。自身の動画が社内で公開され、モチベーションが高まることは容易に想像できます。「今後は、FC の加盟店の教育教材としても使いたい」とおっしゃっていました。

 

デジタルデータの“作品”として登場する機会を与えられた社員は、張り切って自分のスキルを棚卸しし、効果的な伝達の仕方などを工夫するでしょう。そしてアカデミーを人事処遇や評価制度と連動させ、大学のように単位制にすれば、想像以上のスピードと投資コストで企業内大学を設立することができます。

 

講師が各分野の社内プロフェッショナル人材なので、従来のOJT(On the Job Training)の構造的な欠点であった「部下は上司を選べない」という状況を大きく改善でき、「OJT 改革」を起こすことができます。

 

さらに企業内大学は、「採用ブランディング」の向上に有効です。ある中堅規模の建設会社は、「当社は中堅企業ながら企業内大学を持っています」と、就職活動を行う学生にブランディングしました。すると、応募者が増え、優秀な学生を採用することができたそうです。企業内大学をブランディングすることで、「人づくりに熱心な会社」という認知度は、間違いなく高まります。深刻な採用難を打開し、新たな人材を採用する有効な手段としても活用できるでしょう。

 

経営理念や方針の徹底ビジョンマネジメント

 

社内に大学を設立することは、「ビジョンマネジメント」においても効果を発揮します。私自身、トップビジョンや経営方針、コンプライアンス強化を図るコンテンツ、人事制度変更のアナウンスなどをクラウド上に映像で公開し、社内ビジョンを調整するインフラとして活用しています。

 

私が推奨しているのは、創業者の思いやビジョンをデジタルで残すこと。私たちも創業者・田辺昇一の講演の映像を全社員が自由に視聴し、触れることができます。創業者の思いを社内に残し、創業の精神、意志を語り継げるマネジメントです。

 

ビジョンマネジメントとして活用できる臨床事例は、大きく5 つあります。まず1 つ目は、「ビジョン」「経営方針」です。トップや部門長によるこれらの内容を、分かりやすく解説したメッセージを収録して社内アカデミーのクラウドへアップします。2 つ目は、「経営管理機能コンテンツ」です。例えば、人事制度など深い理解が必要な制度について、人事部長や総務部長が解説する映像コンテンツです。

 

3つ目は、「組織経営コンテンツ」。全社の各部門が、何をしている部署なのかを知らしめるものです。組織が成長すればするほど、社員が現場を知る機会も少なくなります。結果、コミュニケーション不足が発生します。

 

4つ目は「商品コンテンツ」です。重点ブランド商品のコンセプトや、新商品プロモーションなどをアップすることで、インナーブランディング価値が創出されます。

 

そして5つ目は「創業者やトップの思い」をテーマごとに残しておくことです。誰が、どのタイミングで入社しても、同じレベルで情報を共有化できます。

 

一人一人を早期に活躍させるためには、「新人だから」「若いから」「中途社員だから」と区別せず、自主性を重んじた教育機会を平等に与えるべきなのです。

 

日本の企業家やリーダーがアカデミーを設立する意義

 

幕末の私塾「松下村塾」は、吉田松陰が開塾者の叔父(玉木文之進)から引き継ぎ、明治期の日本を主導した人材を多く輩出しました。松下幸之助も「松下政経塾」を開塾し、政治と経済を通じて理想の日本をつくる理念のもと、多くの政治家、経済人を輩出しています。海外では、GE(ゼネラル・エレクトリック)が「世界初の企業内ビジネススクール」として、1956年に米国・ニューヨーク州クロトンビルに「リーダーシップ開発研究所」を設立した例が知られています。GE は年間10億ドル規模の資金を人材育成に投じ、経営トップは総時間の3分の1 を人材育成に費やしているそうです。

 

また前述した日本電産の永守氏は、2016年に「グローバル経営大学校」を開講しました。創業者の精神や経営理念の理解・浸透、経営者として必要な経営観や考え方・知識を磨き上げることを通じ、経営者を育成することが目的です。

 

「FCC アカデミー」も、各社のアカデミー同士で学び方改革を切磋琢磨できるネットワークを整備し、「ファーストコールカンパニー宣言」を目指す企業がチームや人材の生産性向上に取り組んでいく。そんな社会的活動に発展することを願っています。そのようなプロフェッショナル人材をつなぐインフラ的価値が、「FCC アカデミー」の意義、使命であると考えています。

 

デジタル時代になり、企業内大学を設立することが中堅・中小企業でも容易になりました。だからこそ、自社の“松下村塾”を目指し、学び方改革によって人材の能力を高め、生産性改革を進め、人材が活躍する組織やチームを構築する絶好の機会といえます。

 

企業内大学「FCC アカデミー」を創りましょう。人材不足・採用難の時代、大切な人材育成を公的な機関、学校だけに任せる経営は終わったのです。

 

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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