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【対談】

チームブランディング:新しい“モノ語”をつくろう

タナベコンサルティンググループのコンサルチームがクライアントのブランディングやプロモーションを支援。プロジェクトの施策と成果を紹介します。
対談2019.08.30

イトーキ:工場内オフィスの“見える化”で「共創空間」を生み出す

 

工場に併設した事務棟は、効率化が進む生産現場に比べると改革が遅れがちである。イトーキは大阪・寝屋川工場で徹底した“見える化”を図り、社員の働き方を抜本的に見直すオフィス改革に取り組んでいる。

オフィスが変われば働き方も変わる

管理部門のオフィス改革は数多いが、工場のオフィス改革はあまり例がない。工場の生産ラインなどでは現場の改革・改善が従来から重要なテーマとなっていたが、生産現場に隣接するオフィス改革は、コスト面からもあまり重要視されていなかった。

イトーキは旧本社ビル(大阪市城東区)の売却に伴い、2018年6月に生産関連部門を寝屋川工場(大阪・寝屋川市)へ移転・集約することを決定。事業部制で各所に分散していた拠点を整理統合するとともに、ものづくりの現場に設計・開発・調達・生産技術・品質保証・知的財産などの機能を集めることによって、よりスピーディーな開発・生産を実現することを目指した。

そこで、寝屋川工場では社員の働き方を抜本的に見直すオフィス改革を進めることを決めた。オフィス改革を指揮した本部久雄氏(常務執行役員・生産本部 本部長)は「当社は、ものづくりの現場において業界ナンバーワンのQCD(品質・コスト・納期)を掲げています。しかし、新商品開発のプロセスややり方は旧態依然としたものでした。旧本社の売却と寝屋川工場への移転・集約を機に、プロジェクトチームを立ち上げて働き方の刷新を目指しました」と話す。

寝屋川工場のオフィス改革は、SDGs(持続可能な開発目標)という世界レベルでの大きな潮流を受けて政府が推進する働き方改革(外的要因)と、旧本社売却に伴う寝屋川工場への移転(内的要因)といった二つの要因を推進力に実行されたのだ。

若手社員で編成するプロジェクトチームを立ち上げ、理想のワークスタイルの議論をスタートさせたのは、2017年12月。メンバーは自らの本業を行いながら、2018年6月の移転に間に合わせるという制約の中で、数々の改革案をまとめた。

プロジェクトチームが取り組んだのは、従来の仕事のやり方を抜本的に見直すこと。日々慣れ親しんだ仕事の空間・時間の使い方や作業のやり方を変えることには、つい二の足を踏んでしまう。そうした社員の固定観念をどう打破するかに苦労した。

本部氏は「開発担当者はブースにこもって仕事をするのが当たり前と考えており、抵抗勢力となりました。しかし、私は多様な部署と知見を共有しながらスピーディーに開発し、かつクオリティーを向上させる『共創空間』をどうつくり上げるかが、重大なポイントと考えました。そこで、それぞれの仕事の『見える化』をどう実現するか、考えるようにアドバイスしました」と振り返る。

画期的な新商品を世に出すには、豊富なアイデアとスピーディーな開発が欠かせない。そのキーパーソンたちがブースから出て交わることで、新たな思考が生まれる。さらにアイデアを商品として形にするまで、サポートができるようなオフィスづくりを目指したのである。

 

会議室はガラス張りで、中の様子がよく見える。部屋にはカラフルなイスを配置し、打ち解けた雰囲気を演出

会議室はガラス張りで、中の様子がよく見える。部屋にはカラフルなイスを配置し、打ち解けた雰囲気を演出

 

大会議室(写真右側)をオフィス中央部に配置して、すべての打ち合わせを見える化。この大小会議室を囲んだ回廊式動線でインフォーマルなコミュニケーションを生む

大会議室(写真右側)をオフィス中央部に配置して、すべての打ち合わせを見える化。この大小会議室を囲んだ回廊式動線でインフォーマルなコミュニケーションを生む

コンセプトは「集中と協働」「ワクワク」

寝屋川工場5階のオフィスに入るとまず気付くのが、動線スペースは木目調のフローリング、働くスペースはカーペットと、明確に区別されていること。入り口付近の来客用の会議室はガラス張りの部屋でポップなテーブル・イスがあり、打ち解けた雰囲気がある。複数の打ち合わせブースも配置され、来訪者の動線は入り口付近で管理される。

その奥にはカフェ&リフレッシュスペースがあり、セルフサービスのコーヒーやお茶も完備。同スペース中央のヒノキ材のテーブルには、パソコンなどをLANにつなげるシートが置かれ、社内の打ち合わせだけでなく出張者のワーキングスペースとしても活用できる。カウンター下にはロッカーがあり、出張者の荷物を入れられる。

各従業員のデスクは、目線の高さまでしかパーテーションがなく、島型の配置だが、スペースにはかなり余裕を持たせた。ペーパーレス化に伴う文書管理のデジタル化により、背の高いキャビネットがスペースを区切ることはなく、全体が一望できるようになっている。

管理職のデスクは高さを調節でき、立って仕事をすることも可能だ。本部氏は「私は70%くらい立って仕事をしています。フロア全体を見渡せるし、社員が管理職の在席を確認できるメリットもあります。目線が合って気軽に会話に入れますし、代謝が良くなり健康にも良いですよ」と説明する。

フロア中央にはガラス張りのミーティング室があり、社内会議や部門間の打ち合わせはここで行われる。その隣にはスダレ(ストリングカーテン)で空間を仕切った打ち合わせスペースがある。会議や打ち合わせなど、人の動きが視認できるよう工夫されている。

コピー・プリンターは中央1カ所にまとめ、取りに行く手間を設けることで、紙の消費量を削減した。また、共有スペースを設けることで、ちょっとした交流を生む機会にもなっている。

さらに、集中して仕事ができるようパーテーションで区切ったスペースや、数人で打ち合わせができるテーブルを配置。必要に応じて人が集まり打ち合わせをし、また自席に戻るということが繰り返されている。

会議室や打ち合わせのスペースは、全て通信機器やインターネット対応であり、壁面はホワイトボードとして活用できるようになっている。

4階には試作や金型製作、耐久試験などができるスペースを配置。それまで分散していた各機能を集約することで、仕事のスピード感を格段に向上させた。

 

打ち合わせスペースでは、必要に応じて気軽にミーティングができる

打ち合わせスペースでは、必要に応じて気軽にミーティングができる

 

リニューアルした食堂。木目調の床、温かみのある照明やソファ席など、レストランのようにくつろげる空間へ一新

リニューアルした食堂。木目調の床、温かみのある照明やソファ席など、レストランのようにくつろげる空間へ一新

工場のオフィス改革も環境投資の観点で

こうしたオフィス改革は、プロジェクトチームが部門ごとに在席する日数や時間を調査して詳細にデータ化し、働き方への要望やアイデアをヒアリングした上で実現させた。コンセプトは、「選ぶ:集中と協働」「ワクワク」だ。とはいえ、改革は終わったわけではない。

本部氏は「オフィスには社員で組織する『自治会』があり、日々の清掃を行うとともに改善項目を検討しています」と話す。自分たちが働くスペースを、自ら良くしていく取り組みは継続しているのだ。実際、作業ブースに「使用中」「集中して仕事をしている」などと書かれたサインボードを設置するアイデアは、自治会から生まれたという。

また、今年(2019年)の5月中旬には、別棟にある食堂をリニューアルした。長テーブルにイスというスタイルだけでなく、ファミリーレストランのようなベンチシートや丸テーブルを配置。壁紙や床を張り替えることでイメージを刷新した。本部氏は「食堂やトイレへの配慮が、社員の定着率に直結します。従来は工場に付随する設備は、コスト部門としていかに費用を削減するかを考えました。しかし、社員の働き方・満足度を高め、優秀な人材をどう確保するかとの観点から、投資と捉えることが重要です」と指摘する。

こうしたオフィス改革は、働く社員の生産性にどう影響しているのか。開発部門を集約し生産現場と隣接させたことで、タイムロスは大幅に削減。また、本部氏は「全体の生産性は向上していますが、個人の部分はまだ分かりにくいのが現実。ただ、離職率や体調不良での休業率、働く時間のコンパクト化、有給休暇の取得率は少しずつ改善しています」と話す。

そして「若い社員ほど、いろいろ考えて悩んでいる。また、技術職ほど『職人』となって仕事を隠しがち。上下・横・斜めのコミュニケーションを図り、いかに見える化できる環境をつくるかがポイントとなります」と強調する。

寝屋川工場の改革は、イトーキの他工場への横展開を図るだけでなく、情報発信の拠点としても活用されている。工場の生産ラインの見学だけでなくオフィスや食堂の見学も積極的に受け入れている。オフィス改革を提案するイトーキのモデルケースとして機能しているのだ。

寝屋川工場5階のオフィススペース。入ってすぐのリフレッシュスペースは、打ち合わせや出張者のワーキングスペースとして活用。

寝屋川工場5階のオフィススペース。入ってすぐのリフレッシュスペースは、打ち合わせや出張者のワーキングスペースとして活用。

 

管理職のデスクは高さを調節でき、立って仕事をすることも可能

管理職のデスクは高さを調節でき、立って仕事をすることも可能

 

イトーキ 常務執行役員 生産本部 本部長 本部 久雄氏

イトーキ 常務執行役員 生産本部 本部長 本部 久雄氏

PROFILE

  • ㈱イトーキ
  • 所在地:東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋三井ビルディング(本社)
  •     大阪府寝屋川市昭栄町17-5(寝屋川工場)
  • 創業 : 1890年
  • 代表者:代表取締役社長 平井 嘉朗
  • 売上高:1187億円?(連結、2018年12月期)
  • 従業員数:2007名(2018年12月末現在)
  • 問い合わせ先 : itk-ir@itoki.jp

 

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