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【コンサル事例】

チームコンサルティング事例

クライアント企業とタナベコンサルティンググループのコンサルチームが取り組んだ経営改善の事例。施策と成果を紹介します。
コンサル事例2020.04.30

WITHホールディングス:保育士の就業意欲とスキル向上を果たした人事制度とアカデミーの導入

 

知育に力を注ぎ、保護者からの支持を集める

 

長年、電鉄関係の仕事に携わっていた新井実氏(WITHホールディングス代表取締役)が、埼玉県浦和市にあるJR北浦和駅の近くに小さな保育園を開園したのは2002年のことだ。進学校として知られる地域性も追い風となって事業は当初から順風満帆に進み、周辺地域に次々と保育所を開園。現在は東京、埼玉を中心に首都圏に65施設を有する保育業界有数の企業になるまで成長を遂げた。

 

成長の要因として、独自の保育方針が挙げられる。「素敵な人生を送るために」という経営理念のもと「、思いやりの心」「健康な体」「自主性と意欲」を育むことである。中でも自主性と意欲を育むため、同社は数々の施策を導入してきた。

 

例えば「こども会議」と呼ばれるディベート学習では、運動会で踊りたいダンスの協議など、子ども同士で意見交換をしながら決めていく術を学ぶ。さらに、オリジナル教材の開発やネイティブスピーカーが教える英語プログラムなど、知育にも力を注ぐ。

 

「保育園では、子どもの世話をする『保育』が中心。もちろん生活に必要なことを教える教育は行いますが、ディベートや英語学習、算数といった総合的な『知育』に取り組んでいるところはごくわずかでしょう」(新井氏)

 

こうした知育を重視した保育の在り方が保護者の支持を広げ、同社は大きく成長を遂げてきた。

 

 

WITHホールディングス 代表取締役 新井 実氏

 

 

「こども会議」の様子。話し合って解決する能力を磨く独自プログラムで、保護者からの注目は高い

 

 

選ばれる保育所を目指し人事・研修制度を整備

 

施設数が増えれば、運営する保育士が不可欠になる。従業員数1200名超のWITHホールディングスも、新井氏自らが合同説明会に出向くなど人材確保に全力を挙げてきた。

 

「保育士の有効求人倍率は高く、人材確保は難しいのが現実です。しかも保育士の9割は女性で、結婚・出産というライフイベントを機に退職するケースが多い。また、今は待機児童問題があるように保育所不足ですが、将来的には少子化によって保育所同士の競争が厳しくなるのは必至。そのためにも選ばれる保育所になることが不可欠です」(新井氏)

 

こうした課題に直面する中、WITHホールディングスが保育士からも子どもを預ける保護者からも選ばれる保育所になるために取り組んだのが、人事制度と社内教育システム「WITHアカデミー」の整備である。

 

人事制度では、不明瞭だった保育士のキャリアプランや将来像を明確化するため16等級に分かれた昇級制度を構築。同制度では人柄、部下や仲間と協力しながら仕事をしているかといった人事昇格要件をはじめ、各分野の技術の熟練度、保護者への支援体制という三つの側面から保育士のスキルを評価する。

 

「16もの等級に細かく分類したのは、保育士のモチベーション維持のためです。3~4等級しかなければ一つ昇級するのに10年近くもかかり、仕事に対する意欲が薄れてしまいかねません。さらに、保育士の昇級判断は直属の上司である園長だけでなく、保育所内に作った人事委員会のメンバーも加わることで、評価に公平性を保てる仕組みにしました」(新井氏)

 

そして、人事制度の整備と一緒に行ったのがWITHアカデミーの設立である。こちらは保育士のスキルアップを図る動画研修制度で、70種類以上に及ぶコンテンツの中から必要な研修を選び、いつでも視聴できる。ディベート学習の進め方など知育教育に関する技術向上研修もあれば、子どもと一緒に歩道を歩くときの注意点などを教える安全研修など内容はさまざまだ。

 

「全て音声付きの動画なので分かりやすい上に、保育士が隙間時間にタブレットなどでどこでも見ることができます。タナベ経営にも協力していただき、自発的に保育士が学べる環境を整えて、スキルを磨いてもらい、それが公平に評価される人事制度を一緒に導入したことで大きな効果を得ました。各保育所を巡回した時の保育士の目が、以前にも増して輝いていますから」(新井氏)

 

 

オリジナル教材を使った知育にも力を注いでいる

 

 

 

小学生以上を対象にしたサービスも充実させていく

 

新制度の導入で保育士のキャリアプランを明確化するとともにスキル向上の環境を整えることに成功したWITHホールディングス。この成功が、保育士の雇用や保護者の保育所選びにおいて大きなアドバンテージになることは間違いない。なぜなら保育士のモチベーションやスキル向上を図り、質の高い保育を提供することが、保護者の支持獲得に直結するからだ。

 

保育業界の転換期に向けて着々と布石を打つ新井氏は、今後の事業展開について次のように語る。

 

「少子化を考慮し、保育所をこれ以上増やすつもりはありません。最近は企業による事業所内保育所が続々と生まれていますが、そこに人材を送り出す派遣事業なども視野に入れています。また、当社では学童保育所や介護事業も展開しているので、人間の成長サイクルに合わせてさまざまな支援を行うサービスを考えていきます」

 

「素敵な人生を送るために」。その経営理念はぶれることなく、より幅広い人々を対象にした独自のサービスが生まれていくことだろう。

 

 

 

PROFILE

    • (株)WITHホールディングス
    • 所在地:埼玉県川口市飯塚1-2-16 3F
    • 設立:2002年
    • 代表者:代表取締役 新井 実
    • 従業員数:1246名(2019年12月現在)

 

 

 タナベ担当者より  

「人事制度とWITHアカデミーはセットで取り組むことが重要」

 

新井氏のこの言葉が印象的だ。人事制度で成長のためのステップを指し示すだけではなく、そのステップを上がるための学び方を同時に提供する。そのため、WITHグループが目指す高いレベルの保育を実現する保育士を、スピーディーかつ確実に育成できている。

 

競合・ライバルと差別化を図り、世の中のニーズに応えていくためにも、競争力の源泉となる「社員」を育てていく。この企業姿勢を貫き、同グループは社会課題の解決に挑んでいる。

 

タナベ経営
経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
井上 裕介

 

 

 

 

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