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メソッド2020.09.30

高まりつつある“テレワーク離脱率”
「新しい就業様式」の確立を急げ


2020年10月号

 

 

 

 

7月26日、政府は新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、「社員のテレワーク率70%達成」を目指すよう経済界へ要請する意向を示した。“在宅7割”の要請は4月25日以来、2度目となる。これは緊急事態宣言以降、全国で導入が広がった「テレワーク」(【図表1】)を取りやめる企業が増加しているからだ。

 

 

【図表1】テレワーク(リモートワーク)の3類型

出所:総務省「2019年版 情報通信白書」

 

 

東京商工リサーチが7月14日に発表した調査結果(6月29日~7月8日実施)によると、テレワークを実施している企業の割合は3割(31%、4453社)にとどまり、「実施したが、現在は取りやめた」企業が26.8%(3845社)に上った(【図表2】)。前回の調査(5月28日~6月9日実施)ではテレワーク実施企業が過半数(56.4%、1万156社)に達していたから、約1カ月後には半数近くの企業が在宅勤務から“離脱”したことになる。

 

 

【図表2】テレワーク実施割合の推移

出所:東京商工リサーチ「『新型コロナウイルスに関するアンケート』調査」(第2~第3回、第5~第6回)

 

 

緊急事態宣言の全面解除(5月25日)後に新規感染者数が落ち着きを見せ、学校の再開やプロ野球の開幕など段階的に外出自粛が緩和されたため、多くの企業が勤務形態をコロナ前に戻したようだ。これは社内インフラの整備や職場の業務分担が不十分なまま急きょテレワークの導入を迫られ混乱し、コロナウイルス感染への不安は残るものの元の体制に戻さざるを得なかったとみられる。

 

一方、テレワーク実施中の企業に対し「従業員の何割が在宅で勤務しているか」を聞いたところ、最も多かったのは「1割」(21.9%)だった。次いで「10割」(16.5%)、「5割」(13.2%)などが続き、従業員の5割以上が在宅勤務中という企業が全体の半数(51.0%)を占めた。また在宅率が5割以上と答えた企業の割合を規模別に見ると、大企業が49.4%、中小企業は51.6%だった(【図表3】)。テレワーク実施率が低い中小企業(26.2%、大企業の実施率は55.2%)の方が、大企業よりも従業員在宅率は高かった。

 

 

【図表3】在宅勤務中の従業員の割合(企業規模別構成比)

※四捨五入の関係上、積み上げた数値と合計値は必ずしも一致しない
出所:東京商工リサーチ「第6回『新型コロナウイルスに関するアンケート』調査」(2020年7月14日)よりタナベ経営が加工・作成

 

 

ちなみに内閣府が発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(6685人が回答)によると、全国のテレワーク実施率は34.6%で、このうち約8割が継続利用を希望している。業種別に見ると「教育、学習支援業」(50.7%)が最も高く、次いで「金融・保険・不動産業」(47.5%)、「卸売業」(45.5%)、「製造業」(43.1%)などが続いた(【図表4】)。ただ、生産性の改善効果については、テレワーク実施率が高い業種で労働時間が減った以外に目立った変化は見られない。

 

 

【図表4】業種別・テレワーク実施率

※実施率には「基本的に出勤(不定期にテレワーク実施)」を含む
出所:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月21日)

 

 

内閣府の調査では、「テレワークの利用拡大が進むために必要なこと」についても聞いている。集計結果を見ると、「社内の打ち合わせや意思決定の仕方の改善」(44.2%)と「書類のやりとりを電子化、ペーパーレス化」(42.3%)が多く、次いで「社内システムへのアクセス改善」「顧客や取引先との打ち合わせや交渉の仕方の改善」「社内外の押印文化の見直し」などが続いた。

 

例えば、受け付けの電話番や注文書をファクスでやりとりするために出社する、または社外への持ち出しが禁じられている顧客情報を閲覧するため出社する、あるいは稟議書や請求書へ三文判を押すために出社する、といったケースも珍しくない。特に、BtoB(企業間取引)事業を手掛ける中小企業では昭和の時代の商慣習が根強く残っており、在宅勤務が単なる“自宅待機”になっている企業は多い。

 

とりわけ、コロナ禍のテレワークで浮き彫りになったのが「紙とはんこ」の弊害だろう。アドビシステムズの調査によると、テレワーカー500人のうち紙書類の確認や押印・署名でやむなく出社した人の割合が64.2%に上った(【図表5】)。また、中小企業経営者500人のうち72.6%が「はんこ文化が仕事の生産性を下げている」と考えており、74.7%が「捺印の慣習はなくした方がよい」と思っていることが分かった。だが、取引先との契約方法や法的有効性、セキュリティーの問題などにより半数(50.1%)の経営者が「慣習を撤廃することは容易でない」と考えているそうだ。

 

 

【図表5】はんこや書類確認で出社したテレワーカーの割合

出所:アドビ システムズ「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果」(2020年3月4日)

 

 

政府は2020年の目標として「テレワーク導入率を2012年(11.5%)比で3倍の34.5%」「雇用型テレワーカーの割合を2016年度(7.7%)比で2倍の15.4%」を掲げている。もともと政府のIT戦略(「世界最先端IT国家創造宣言」、2013年閣議決定)の一環で普及が進められていたテレワークは、「働き方改革」(生産性の向上)や東京五輪・パラリンピックのTDM(交通需要マネジメント)のツールとして注目され、今では感染症予防などBCP(事業継続計画)という役割も加わった(【図表6】)。日本で初めてテレワークが導入された1984年から36年の時を経て、導入効果はさらに広がりを見せている。

 

 

【図表6】テレワークの効果

出所:日本テレワーク協会Webサイトを基にタナベ経営が加工・作成

 

 

「在宅勤務に適した仕事がない」「勤怠管理ができない」「情報漏えいの不安がある」など、テレワークへの懸念の声は少なくない。しかし、現場と自宅の直行直帰やスマートフォンの出退勤管理アプリの活用、また社内システムのクラウドシフトなど着手可能な手段はある。テレワークの導入・定着に際しては、予算や手段の確保だけでなく、組織内部に絡み付いたしきたりの改廃、柔軟性に欠けた旧来型社員の意識改革なども必要だ。

 

 

※1984年にNEC(日本電気)が吉祥寺(東京都武蔵野市)で開設したサテライトオフィスが国内最初のテレワークとされる

 

 

 

 

 

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