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Vol.69 地ならしと開墾を目指す

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2021年6月号

 

 

現代の野良着を世に広める

 

こうして、伝統工芸の世界にありながら社の体質を変えることに専念した雅敏氏に言わせると、売上高は減っているものの、社としての体質は以前よりもむしろ強固になったそうです。

 

「少数精鋭ですが、ベテランの職人が引退しても、次の世代が育ってきました。いまそれが花開いているという段階です」(雅敏氏)

 

ここからは5代目の野川雄気氏に話を聞いていきましょう。

 

2018年、メーカー勤務を経た雄気氏は家業に入りました。父である雅敏氏が地ならしした状況を生かし、雄気氏はBEAMSをはじめとした企業との協業に着手し、成果を収めています。現代の野良着と表現するにふさわしい商品をセレクトショップなどと組むことで、さらに世に広めていきたいという狙いです。

 

雄気氏はこう語ります。「装飾品や芸術品ではなく、庶民がこぞってまとった野良着の文化を引き継ぐような商品をつくり続けたいんです」

 

ここは極めて大事な部分ですね。恐らく同社にとっての根幹部分でしょうし、そこには丈夫で肌ざわりの優れた藍染めである必然性が確実にあるわけですから。

 

 

伝統工芸の原点回帰

 

別の表現を用いれば、4代目の雅敏氏から5代目である雄気氏に受け継がれたのは「伝統工芸としてのありようを原点回帰させる」という意識であるかと思います。つまり「庶民の藍染め」に戻すという姿勢です。だからこそ、普段使いに好適なイージーパンツや、シーツなど毎日のように肌に触れる商品を作る理由がそこにあると解釈できます。

 

その上で大きな武器となるのが、糸を20回にわたって染めるという同社ならではの流儀でしょう。地域のものづくりに人々の関心が寄せられ始めた今、「ここだけは譲れないと踏まえた技法」は消費者の心に刺さるはずです。野川染織工業が、高度成長期からバブル期、そして平成不況の時期を過ぎても、この技法を決して捨てなかったことが、まさに今生きてくるのではないかと思うわけです。

 

売上高を無理に追わず、しかしながら体質を強靭化することは忘れない。そして、商品の必然性がより伝わるような新しいものづくりに挑む。伝統工芸の世界がどう次の時代まで元気でいられるか、そのヒントを得た取材でした。

 

 


筆者プロフィール

北村 森(きたむら もり)
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。

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