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Vol.69 地ならしと開墾を目指す

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2021年6月号

 

 

大きくかじを切った4代目

 

値段は、5500~8250円(税込)。天然のアイによって染められたパンツとしては、とても安い。しかも同社によると、この藍染め、元となる糸を20回も藍液に繰り返し浸けてから織って完成させているそうです。

 

最初はよわいを重ねた藍液に浸ける。そうすると、ごく淡い色に染まります。次に、だんだんと若い藍液に浸けていく。若い藍液であるほど糸は濃い藍色を帯びていきます。

 

こうして糸を20回染めると、経年変化しても、白くなることなく良い風合いに育っていくとも聞きました。なるほど、濃い藍色があせても、淡い藍色が残るからですね。質を考えると、やはり、このイージーパンツは安いと思います。

 

野川染織工業は、先述したように100年を超える歴史を有する企業で、現在は4代目が社長、そして息子である5代目も家業に入っています。

 

ここで、私には2つ、同社に尋ねたいことがありました。1つはこうした伝統工芸の世界は年々厳しさを増しているのではないか、という話。もう1つは、そこをどうやって打開しようとしているのかという話です。

 

4代目の野川雅敏氏によると、1990年ごろの年商は3億円近くあったそうですが、近年は半減程度。2020年にはそこから2割減と言いますから、現在は1億円強の売上高にまで下落しているということです。

 

しかし、雅敏氏はこう言い切ります。「無理して売り上げを負うことをきっぱりとやめました」

 

それはどういうことか。

 

「伝統産業というのは、この時代、どうやっても売上高はそう伸びるものではないのです」(雅敏氏)

 

確かにそうとも捉えられそうですが、だからと言って経営に支障が出ては元も子もないですよね。

 

「2000年代に入ってから、私は『地ならしと開墾』に注力することを決めました」と雅敏氏は言います。地場産業で大事なのは「人」であり、売り上げを追い過ぎると、人を育てることに意識が回らなくなるという判断だったそうです。

 

雅敏氏は「人の育成」と「新商品開発」を意識し続けました。冒頭でお伝えしたたももぱんつは、その過程で商品化したものでした。雅敏氏にはもう1つ、このように動き続けた理由があったとも語ります。

 

「その先を想定していたからです。つまり、息子がいつかここに帰ってくるということです」

 

事業継承のための「地ならしと開墾」であったという話です。

 

 

 

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