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【メソッド】

梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2017.06.30

vol.22 「なぜか信用される人」はどこが違う?

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2017年7月号

今後の道を上司に相談したとき

当時の私は、局アナとして会社に残るか、フリーとして独立するか決めかねていました。「うちの事務所に来ないか?」と誘ってくれる所もいくつかありました。迷った末、思い切って直属の上司Tさんの所へ相談に行くことにしました。

上司といっても、普段は冗談を交わし合う先輩後輩という感じで接してくれる人でした。

大部屋のほぼ真ん中で、うずたかく積み上がった書類を前にネクタイをゆるゆるに緩め、ワイシャツをヒジの所まで腕まくりして作業を続けていたTさんは、私を見ると陽気に一言声を掛けてきました。

「どうしたの? 女にでも振られたか?」

いつも通りの軽口です。

「あのー、ご相談が」

普段とは違う私の切羽詰まった気配を感じ取ったTさんは、「分かった!」ときっぱり言うと、どこかに電話を入れ「5階の応接が空いている。行くか?」と仕事をその場で切り上げ、スッと立ち上がりました。

部屋に入ったTさんは、ネクタイを締め直し、背広の上着をキッチリ羽織り、居ずまいを正したところで、いつになく落ち着いた声で語り始めました。

「何か、あったか?」

この先の詳細については省略しますが、この時の「お前の話はキッチリ聞くぞ!」という誠意あふれる対応が、今でもしっかり脳裏に焼き付いています。彼の立ち居振る舞いは、誰に対してもこんな感じだったようです。私の仲間たちも、何かというとそのTさんに相談に乗ってもらっていたようでした。

場面に応じて硬軟使い分けつつ、部下たちに対しての「誠実な立ち居振る舞い」は、ブレないのです。

「話を聞くぞ」というタイミングでは必ずネクタイを締め上げ、上着を着て、姿勢を正し「全て聞くから何でも言ってくれ」という迫力のせいか、上司としての人望は抜群でした。

その後、Tさんは関連会社の社長として転出し、退職。80歳を過ぎた今では、当時の仲間や部下たちとゴルフや麻雀を楽しむハッピーリタイアメントを満喫しています。

私はといえば、独立自営の道を選び、Tさんのように「良き上司としての立ち居振る舞い」で部下たちの尊敬を集める機会を得ることはありませんでしたが、「人に対するときの立ち居振る舞いの心得」の一部は、学ぶことができた気がしています。

「おごらず」「高ぶらず」「そらさず」目の前の人の話をしっかり聞くぞ、という立ち居振る舞い。

部下や年下の話にはとりわけしっかり耳を貸そうと、態度で表す立ち居振る舞いをT さんから学べた幸せを、あらためてかみしめました。


筆者プロフィール
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梶原 しげる (かじわら  しげる)

早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。

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