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【メソッド】

梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2016.12.22

vol.16 明暗を分ける 社長と社員のコミュニケーション

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2017年1月号
経営者のコミュニケーション

2.手帳で“社内コミュ力”を確認

 会社は自社の利益追求だけでなく、地域や社会への貢献が大切だといった声をしばしば耳にします。地元でさまざまな役割を担おうとボランティア精神を発揮すれば肩書は増える。こういったことは社長の使命というか、宿命だと思っていたのですが……。

 若松社長は話を続けます。「もちろん社外のお付き合いも大事です。とはいえ、社外活動に翻弄(ほん ろう)されて、ほとんど社内にいない。社員が報告や相談をしたくても、社長の姿が社内に見えない。こんな状況は本末転倒と言わざるを得ません。社外での肩書は、多くてもせめて10以内にしていただきたい」

 一見「社交的」に見える社長が、実は社内の細々した業務を見て回るより、外へ行って「よ、社長!」と、無責任にチヤホヤ持ち上げられる方が「気分がいい」ということだったとしたらどうでしょう。社会貢献している気分を味わい、気楽に過ごすだけなら確かに問題です。

 社長の仕事はまず社業。社内を歩き、社員たちと言葉を交わし、疑問があれば尋ね、質問されれば答え、問題があれば共に答えを見つけ合う。社内コミュニケーションに時間がどれだけ使えるかは極めて重要なのですね。

 若松社長はさらにこう続けました。「経営者の手帳を見れば、その人が何に一番時間を割いているのか一目瞭然、問題点も見えてきます」

 社内コミュニケーションが適切に行われているか否かは手帳が物語る。社長でもない私が思わず自分の手帳を見直してしまいました。

3.社員を「お前」呼ばわりする社長は、「彼」呼ばわりされる

 ちなみに、若松社長は著書『100年経営・世紀を超えるマネジメント』(ダイヤモンド社)で「後継経営者として最もダメな典型例」を挙げています。

(1)Cさんは、一流大学を出て東京の一流企業で勤務後、父の経営する「大きくない会社」に社長候補として入社。大企業に比べると、会社も、社員も全てが「幼稚」に映った。自分の経営能力を棚に上げ、社員を見下すばかり。「社員のレベルが低い」「人材がいない」。社員のやる気はすっかり萎(な)え、最終的に社員から退任要求が出された……。まるでテレビドラマに出てきそうな話ですが、実在する人の話なのだそうです。

(2)いつのまにか「ワンマン社長」になった後継社長は社員の声に耳を貸さない「暴君」に。と同時に、社内コミュニケーションは消滅。会議は社長の一方的な指示、命令の伝達。部下はその間ひたすらメモを取るふりをする。

 社員は自分の頭で考えることを一切放棄し、社業は急速に衰える。結果的に事業承継は大失敗という、これも実際にあったケースだそうです。

(3)某後継経営者は、(2)と同様に「完璧に勘違い」し、自らの権力をかさに着て、社員たちを「お前」呼ばわり。独善的なリーダーシップを振りかざしていました。組織が 「良好なコミュニケーションで成立する」という当たり前の基本事項をわきまえなかった愚かな後継社長。社員たちは陰で「彼のやり方は、納得できない」と社長を「彼」呼ばわりしたそうです。

 分かる気がしますねえ。「お前」以上によそよそしい「彼」という響きは、「社員と社長」という関係が不成立である、との印象を強くします。「お前」と「彼」でしかない組織に未来などあるはずもないのです。コミュニケーション環境は呼び名にも表れるんですね。

 ただしお断りしておくと、私がお会いした受講生の皆さまは、(1)から(3)のケースとはまるで無縁な方々ばかりでした。

 後継経営者スクールは4月の新年度まで、あと2回続くようです。頼もしい、人望の厚い新社長さんのデビューが待たれます!


筆者プロフィール
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梶原 しげる (かじわら  しげる)

早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。

\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)
 

 

 

 

 

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