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【特集】

「戦略人事」へのアプローチ

多様な働き方を実現しつつ成果を出せるか。コロナ禍をきっかけに、この命題が企業の存続を左右する経営課題となった。未来を創る人材を確保・育成する「戦略人事」とは。
2021.10.29

独自のオンボーディングで従業員エンゲージメント向上:日本オラクル

事業拡大に伴い採用を大幅に増やしている日本オラクルは、社員の定着率やエンゲージメント※1の向上に高い成果を上げている。企業文化と自社の強みを生かしたオンボーディングの取り組みに迫る。

 

 

離職防止と早期戦力化を目指す

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環でクラウド利用を進める企業が増えている。IDC Japanが2021年3月に発表した調査結果によると、2020年の国内パブリッククラウドサービスの市場規模は、前年比19.5%増の1兆654億円。2025年には2020年比2.4倍の2兆5866億円に成長すると予測される。

 

この流れを追い風に、日本市場で業績を伸ばしているのが日本オラクルだ。クラウド事業の推進に伴って大幅に採用を拡大する中、オンボーディングをはじめとする独自の人事戦略が従業員エンゲージメントの向上に高い成果を上げている。

 

オンボーディングとは、「on-board(船や飛行機に乗っている)」から派生した言葉で、本来は船や飛行機の新しい乗組員・乗客に対して必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのこと。人事用語としては、新しく入社した人材の離職を防ぎ、早期に戦力化するための施策を指す。

 

例えば、業務やコンプライアンスに関する教育制度に加えて、年齢や社歴が近い先輩社員が上司とは別に新入社員をサポートするメンター制度、定期的な1on1ミーティングの実施、気軽に相談できる専用チャットルームの開設、テレワークの孤独感を緩和する「リモートランチ」など、それぞれの状況に合わせて各社とも工夫を凝らしている。

 

日本オラクルのオンボーディングとしては、先輩社員が新卒・中途社員をサポートする「バディー制度」、同社のクラウド型人事ソリューション「Oracle Fusion Cloud Human Capital Management (HCM)※2」の活用などが挙げられる。

 

 

※1…従業員エンゲージメント:従業員が自社のビジョンや方針に共感し、自発的に貢献したいと思う意欲や、自社への信頼・愛着を表す指標

※2…Human Capital Management:従業員を重要な経営資源の1つと捉え、組織内の人事・給与・評価・就業状況などあらゆる人材情報を統合的に管理する経営手法。または、その人材情報を管理するシステム

 

 

 

各部門が独自のオンボーディングを実施

 

企業における人材開発や社員教育と聞いて思い浮かべるのは、人事部門や総務部門だろう。しかし、日本オラクルでは、新人が配属される部門が権限と責任を持ってオンボーディングを実施する。

 

「各部門の独立性・自律性の高さが当社の特徴です。入社後は新卒採用であれば約2週間、中途採用の場合は1~2日程度の全社研修を実施していますが、それ以降は各部門が独自のオンボーディングを行います」

 

そう話すのは、人事本部長の一藤隆弘氏である。

 

自律的な組織カルチャー。これが同社の採用から育成、評価に至る人事戦略のベースである。もちろん、同社にも人事部はあるが、オンボーディングを主導するというより、各部門がオンボーディングをスムーズに実施できるような下地をつくる役割を担っている(【図表1】)。人事本部シニアマネジャーの寺尾直子氏は次のように説明する。

 

 

【図表1】日本オラクルのオンボーディングプログラム

出所:日本オラクル提供資料よりタナベ経営作成

 

 

「当社の場合、配属部門のマネジャーとメンバー、人事本部のビジネスHRがオンボーディングの3本柱です。オンボーディングをリードするのはマネジャーの役割であり、メンバーは新入社員を歓迎し、情報や経験を教える役割。それを支えるのがビジネスHRです」

 

具体例として、同社コンサルティングサービス事業統括部門のオンボーディング(【図表2】)について語るのはビジネスHRシニアマネジャーを務める内田友加氏である。この取り組みの中で特徴的なのは「相談体制の充実」。上司、ナビゲーター・サブナビゲーター、Employee Success(エンプロイーサクセス)、ビジネスHR、産業医の5つから、入社メンバーが相談相手を選べる仕組みである。

 

 

【図表2】コンサルティングサービス事業統括部門のオンボーディング施策

出所:日本オラクル提供資料よりタナベ経営作成

 

 

 

ナビゲーターは、簡単に言えば案内役。「社内のどこに何があるのか」「誰に質問したらいいのか」といった日常的な質問に答える役割であり、冒頭で述べたバディーに当たる。

 

「ナビゲーターは直訳すると『航海士』。社員が向かうべき方向へ案内していく役割です。1名の新入社員に対し、ナビゲーターとサブナビゲーターの2名を必ず付けています。独自の呼び名がある点も、部門ごとにオンボーディングが運用されている一例と言えます」

 

続けて、Employee Successについて内田氏は次のように説明する。

 

「Employee Successはコンサルティングサービス事業統括部門独自のチームです。ビジネスHRは社員の相談に乗ったり、全社視点から公平・公正な判断をしたりする立場ですが、このチームはどうしたら社員が幸せになるか、部門が成功できるかを考えます」

 

上司にはしづらい相談もあるが、窓口が複数あればどこかに相談できる。社員の定着率向上や早期戦力化を導く重要なポイントだ。

 

「特に新卒社員には、『相談しやすい窓口を選べるので安心して働いてほしい』と伝えていますし、社員も内容によって相談相手を変えています。『私には相談がなかったな…』と寂しい気持ちになることもありますが(笑)、他に相談できる場所があったということ。うまく機能している表れだと思います」(内田氏)

 

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