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「他楽」の理念を実現するおいしい健康食
竹屋旅館

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2021年6月号

 

 

 

 

健康レシピは大事だけど、つくる人を育てることも必要だ――。そう気付いた瞬間からオープンイノベーションへとかじを切り、医食の専門家「メディシェフ」を育成する日本医食促進協会を設立。課題が山積する日本のヘルスケアの現場に、みんなが幸せになる「食のNext Standard」を創り出す挑戦が始まっている。

 

 

食卓を囲む皆を笑顔に「駿河湾レシピ」を開発

 

二日酔いでも食べたくなる、おいしい「朝カレー」。ホテルクエスト清水の人気メニューは、大手ホテルチェーンの進出で顧客を奪われた危機感の差別化戦略から生まれた。

 

「お客さまの行動を観察すると、チェックアウト時の表情が一番暗かったのです。サービス業として、笑顔で出発してもらうために、何ができるか。前夜のカレーの残りっておいしいし、元気になるよね。そんな社員の声が最高のヒントになりました」

 

笑顔で語るのは、同ホテルを運営する竹屋旅館の代表取締役社長・竹内佑騎氏。メガバンクを退職し、家業の承継に向けて「朝カレー」に挑んだ4代目である。その姿勢を見た地元の医療機関から、2010年に糖尿病患者の健康食を開発するオファーが届いた。専門外のため受けるか悩んだが、創業以来の経営理念「他楽」の精神にかなうと、挑戦を決めたという。

 

「お客さま、社員と家族、取引先や地域の方々。他の人を楽な気持ちにして楽しませる『ほからく』を大切にするおもてなしで、何ができるかを追求してきました。食のバリアをなくすことも、他楽につながります」

 

ホテルシェフと開発した健康食を患者の食事会に提供した竹内氏は驚いた。食後すぐに血糖値が下がっただけでなく、患者が涙を流して喜んでいたからだ。だが、竹内氏の心にはうれしさよりも悔しさが込み上げた。

 

「その料理は、お世辞にもおいしいとは言えない料理でした。健康とおいしいが反比例するのは仕方がないと決め付けていましたが、『そうじゃない』と思ったのです。同じ感想を持ったシェフは、大学で栄養学を学び始めました」(竹内氏)

 

おいしいもの、食べたいものを制限なく食べられるように、重視したのは健康のエビデンスだ。患者に安全なカロリー・糖質・塩分を医師や栄養管理士に教わり、地元の新鮮な健康食材を掘り起こし、調理法を研究。2年の歳月をかけてフルコース料理「駿河湾レシピ」を完成させた。

 

喜んでもらえると満を持して患者へ提案に行ったところ、再び驚きが待っていた。だが今度は、料理に手を付けない患者たちの「私たちのことを何も分かっていない!」という厳しい声だった。ぼうぜんとする竹内氏に、1人の患者が心情を吐露した。

 

「『食事制限で最もつらいのは、おいしくない料理を我慢することではなく、家族と食事をするときに独りだけ違うメニューになることか、自分に合わせてみんなが食べたいものを食べないこと』だと言われました。疎外感や気遣いを感じさせ、分断を強めてしまっていた。求められていたのは『おいしい糖尿病食』ではなかったのです。『おいしさやワクワクする楽しさは、誰も孤独にしないシーンから生まれる』。そう教わって、私たちの今があります」(竹内氏)

 

その後、駿河湾レシピは患者と見守る家族、みんながおいしく味わえる料理へとターゲットを拡大。「おいしくて、健康」と口コミで広がり、健康意識の高い顧客が増加した。今では40~60歳代の女性や高齢者夫婦など、9割を健康な顧客が占める。

 

「駿河湾レシピ」は一番人気のメニューとなって事業化を果たし、念願の差別化戦略に成功した。また、提供の場をホテルの外へ広げ、料理と観光を楽しむケータリングサービスが好評を博している。

 

 

ホテルクエスト清水
誰もが楽しめる新しいフルコース料理「駿河湾レシピ」。スイーツも低糖で、カロリー700kcal、糖質40g、塩分3g以下の適量に抑え、地元・静岡のおいしい健康食材を提供している

 

 

 

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