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土木イノベーター

建設後50年以上が経過する道路橋は2033年に6割以上、トンネルは4割以上。「インフラ老朽化」という課題を抱える日本において、新たな技術開発や仕組みの構築で人々の生活と産業を支える「インフラ革新企業」の取り組みと、インフラ・イノベーションの在り方に迫る。
2021.01.29

建設業界の常識を覆す:丸高工業

 

騒音問題も作業の標準化と同様に、徹底的に原因から調べました

 

 

課題だった騒音問題にも着手

 

もう1つ、改修工事には大きな課題がある。建物を使用しながら騒音の出る工事を行わなければならないため、営業区域や時間が制約されるのだ。例えば、商業施設では休館日や夜間の作業を強いられ、作業員が集まらずに工事が長期化する。ホテルも宿泊客がいない時間を利用して工事をするが、場合によっては騒音のため工事をするフロアの上下階を売り止めにしなければならない。

 

工事の長期化によるコスト増大や営業機会の損失などを軽減したい。そんなニーズは以前からあったが、解決する術が建設業界にはなかった。その解決策として丸高工業が打ち出したのが「サイレントシステム」だ。

 

「騒音問題も作業の標準化と同様に、徹底的に騒音の原因から調べていきました。すると、騒音には、空気を伝わる『空気伝播音』と、壁などの固体を伝わる『固体伝播音』の2種類があることが判明しました。そこで、各作業時にどんな音がどこから出ているのかを分析・検証し、騒音の元を改善するようにしたのです。その具体的な解決方法が工法の見直し、さらに工事で使用する工具やビスなどの改良です」(髙木氏)

 

調査の結果、改修工事の騒音作業は131種類。同社はそれら1つずつの解決策を探っていった。代表的なものは、外壁タイル撤去やインパクトドライバーによるねじ締め付け、タッカーによる天井施工などだ。

 

外壁タイルは従来、電動ピックなどでタイルを砕いて撤去していたが、「タイルメクリックス」というタイルを挟んでめくり取る工具を開発。また、高速でねじを締め付ける時に騒音が出るインパクトドライバーや天井タッカーには、独自の消音化の機構に改良するなどの工夫を凝らした。さらに、工具の改良だけではカバーできない空気伝播音は、「サイウォール」と呼ばれる消音仮囲いを使って軽減する方法を導入している。

 

 

 

自社で占有せず業界に広める

 

人が「騒がしい」と感じるのは70dB(デシベル)以上と言われており、従来工法のインパクトドライバーや天井タッカーなどを使う工事も同様の値を示していた。ところが、同社のメクリックスや消音ドライバー、消音タッカーなどを使用すると、普通の会話レベルと同じ60~40dB以下まで下がることが実験で証明された。

 

「工事の音は『聞きたい音』ではないため、60dBだと不十分。サイウォールと消音工具を組み合わせることで音が聞こえないレベルである40dB以下にすることができます」(髙木氏)

 

こうした工具は、製造業で工具開発をしていた人材を採用して基本設計と試作をし、工具メーカーなどの協力を仰ぎながら作るという。

 

「現場での試験施工とそこで出た問題点や課題の解決、工具の改良を繰り返すので、完成には2~5年かかります。現在開発した工具は約40機種。今後も新たな消音工具を開発し続けていきます」(髙木氏)

 

消音施工や工具を活用したサイレントシステムは、ホテルなどの売り止めフロアを減らすことに成功し、改修工事に伴う機会損失を大きく軽減した。また、騒音が原因のクレームを大幅に減らすなどの効果も上げている。

 

丸高工業は独自に開発したサイレントシステムや消音工具などを自社で使うだけでなく、広く活用できる事業を展開。消音工具はレンタルのニッケン(東京都千代田区)を通して広く同業他社でも活用されている。また、サイレントシステムを活用した工事計画の立て方や施工方法についても、リニューアルイノベーション協会などを通して同業他社に広める活動を行い、大手不動産会社や設計事務所、大手・中堅ゼネコン、1次協力会社などが興味を示している。

 

建設会社の枠を超え、工具メーカーや建設コンサルタントとしての業務が増えている同社だが、今後の事業展開について、髙木氏は次のようなビジョンを掲げる。

 

「熟練工の高齢化や人手不足は当社だけの問題ではありません。また、改修工事が増える時代に突入しているので、工事の生産性向上も業界全体の課題と言えるでしょう。その課題解決に作業の標準化やサイレントシステムは必要不可欠だと考えていますので、自社だけ良ければいいという発想ではなく、施主はもちろん全ステークホルダーにも役立つよう、情報をオープンにしています。サイレントシステムを業界のスタンダードにしていきながら、生産性向上に不可欠な工事の自動化にも、外部の企業や公的機関と連携しながら挑戦したいと考えています」

 

建設業界の常識を覆してきた丸高工業の挑戦は、新たな局面を迎えている。

 

 

丸高工業 代表取締役 髙木 一昌氏

 

 

PROFILE

  • (株)丸高工業
  • 所在地:東京都品川区大井1-47-1 NTビル3F
  • 設立:1954年
  • 代表者:代表取締役 髙木 一昌
  • 売上高:35億1056万円(2020年3月期)
  • 従業員数:80名(2020年12月現在)
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