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【特集】

教え方×学び方改革

「学費ゼロ」「教員不在」「テスト不要」「少人数制大学」。こうした〝あり得ない学校〞やスクールがいま、日本で続々と誕生している。従来の教え方と学び方を大きく変える、最新の〝ガッコウ〞にアプローチする。
2020.03.31

新しい価値創造を育む教育プログラム:ジュニア・アチーブメント日本

米国発の経済教育プログラムを導入し、小学生から高校生までの仕事観や進路選択、将来設計に寄与してきたジュニア・アチーブメント日本。ユニークな教育プログラムとその効果を探る。

 

 

協賛企業社員に業務指導を受ける子どもたち

 

 

新しい「職業体験」で子どもの成長を促す

 

ジュニア・アチーブメント(以降、JA)は1919年に米国で発足し、世界120以上の国々で活動しているグローバルな経済教育団体だ。企業の支援を受けて青少年に無償でプログラムを提供する非営利活動を展開している。

 

「子どもの頃から社会の経済活動を体験することで、社会の仕組みや経済の流れなどを知り、仕事に興味を持ち、進路選択や将来設計を行うための能力を育むプログラムを数多く開発しています。日本の学校教育は、算数や国語など学力を向上させることに重きを置いており、社会に出て生きる力を養う教育が欠如しています。何よりも大切なのは子どもが社会の仕組みを知り、生きていく力を養うこと。それを身に付けられるのがJAのプログラムなのです」

 

そう語るのはジュニア・アチーブメント日本(以降、JA Japan)の代表理事である佐川秀雄氏だ。2020年3月現在、東京・品川区をはじめ、京都市、仙台市、福島県いわき市がJA Japanのプログラムを導入し、毎年6万人を超える子どもがプログラムを通して社会を学んでいる。

 

品川区立の小中一貫校である品川学園の4階にあるドアを開けると小さな街が出現する。区役所、銀行、コンビニエンスストア、保険会社、新聞社など実名の企業名が書かれた店頭やオフィス(ブース)が目に入ってくる。ここは「スチューデント・シティ」と呼ばれるプログラムを実施するスペースで、品川区の公立小学校に通う小学5年生が経済社会の仕組みを学ぶために使う。

 

生徒は各学校で事前学習を行った後にスチューデント・シティを訪れ、銀行や保険会社などの“社員”になって仕事をする。仕事の報酬として、手に入れたシティ内のみで使える電子マネーは、銀行に預金したり、買い物をしたり、税金を納めたりして、経済活動の基本を体験できる。

 

各企業での仕事もリアルに行われる。例えば、セキュリティー会社に勤務する生徒は、コンビニに対して防犯カメラ設置のための営業活動を行うなど、普段の生活では体験できないBtoBのビジネスも体感できる。

 

また、JAの理念に賛同して協賛する企業が多く、スチューデント・シティでは各社の社員が子どもに業務を指導するといった支援も行う。協賛企業には、各業界を代表する大手企業から経済教育への理解が深い外資系企業までが名を連ねているが、京都や仙台、いわきでは地元を代表する企業の参加も多い。

 

 

 

 

JAのプログラム体験で意識が変化する子どもたち

 

JAを代表するプログラムがもう一つある。それが、中学2年生を対象にした「ファイナンス・パーク」である。スチューデント・シティでの経済活動をよりリアルに体験できるプログラムとして位置付けられており、スチューデント・シティと同様に専用スペースで行われる。

 

このファイナンス・パークでは、「個人情報カード」というものが全員にランダムに配布される。そこには年齢、結婚の有無、子どもの年齢、年間総収入、月当たりの税金や健康保険、年金などの支払額が明記されている。そのカードを持ちながら、住宅費、電気料金などの光熱費、食費、生命保険費、自動車ローン、外食費、貯蓄、旅行・レジャーなど17の支出項目について、どのくらい支出するかを選んでいく。そして毎月の収支を計算し、「生きていくために必要なお金」を知るというプログラムだ。

 

参加した中学2年生は住宅会社や旅行会社、生命保険会社などの企業ブースが配置されたスペースで、提示される商品・サービスを選び、自分の意思で生活プランを決めていく。

 

このように、JAのプログラムの特徴は、子どもの成長段階に応じて、実際の経済活動を分かりやすく経験させる点にある。

 

「生活プランを決めていく中で、高級車を購入して毎月のローン返済が家計を圧迫することになったり、低い年収にもかかわらず高い住宅を選んだり、旅行・レジャーで赤字になるケースがあったりと、お金の大切さをリアルに知ることになります」(佐川氏)

 

ファイナンス・パークの効果はそれだけではない。保護者への感謝の気持ちや人生観が育まれるケースも多々ある。パークの一角には、参加した中学生の感想文が貼り出されている。そこには「親が毎月やっていることが、こんなに大変だとは知らなかった」といった趣旨の感想が数多くつづってあった。

 

 

 

 

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