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選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

FCC FORUM 2021

タナベコンサルティンググループ主催「ファーストコールカンパニーフォーラム2021~DX価値を実装する~」(2021年6~8月、オンデマンド開催)の講演録。デジタルを軸に、サービスやビジネスモデル、業務プロセス、組織風土を変革し、競争優位性を発揮する要諦を提言します。
研究リポート2021.10.01

大都
金物屋からEコマースでビジネスモデルをDX

取引先を巻き込んでDXを推進

 

山本 EC事業を展開する過程で苦労されたことを教えてください。

 

山田 最大の課題は「当社がDXを進めても、取引先がそれに対応できない」という状況の改善でした。工具や塗料の業界は古い体質なので、当社がEDI(電子データ交換)を使ったオンライン発注を提案しても、多くの取引先は「今まで通りの電話やファクスでの注文がいい」と、否定的な考えでした。

 

そこで当社のスタッフが発注現場に赴いて、パソコンの画面を見ながら操作や確認の仕方を説明すると「ファクスよりずっと楽!」と納得してくれました。5、6年かかりましたが、1社ずつ現場での説明を積み重ねた結果、現在は発注の99.9%がオンラインです。これによって業務を効率化できました。

 

また、オンラインを使った商談にも取引先は当初、難色を示していました。しかし、コロナ禍でオンライン商談の必要性が高まったこともあって、当社スタッフのレクチャーへ熱心に耳を傾けてもらえるようになりました。現在は各社で月1回のオンライン商談を実施しており、時間やコストの節減につながると好評です。

 

山本 DXを成功させる要因は何だと思われますか。

 

山田 インターネットを使ったビジネスには商圏という概念がありません。世界中のユーザーを相手にビジネスができる半面、世界中の企業が競合相手になります。このような環境では、まずユーザーから見つけてもらうことがポイントになります。それに必要なのが、ネット検索を行ったときにウェブサイトを上位表示させるSEO(検索エンジン最適化)対策です。当社でも研究に励み、さまざまな対策を施しています。

 

発信も重要な要素です。自社のサイトにたどり着くSNSやウェブメディアなどの経路を探り、そこに影響を及ぼすTwitterやInstagramなどに情報を発信していきます。

 

山本 特に発信に関して、大都のメディア戦略は非常に優れていると思います。

 

山田 2015年に自社のDIYメディアサイト「Makit!(メキット)by DIY FACTORY」をオープンして、DIYで使う工具や塗料の商品や使い方、役立つ知識などを紹介しています。また、「GreenSnap(グリーンスナップ)」という植物SNSのアプリも提供し、1日4万枚ほどの植物画像が投稿されています。

 

山本 ちなみに、大都の取り扱うアイテムはどれくらいあるのですか。

 

山田 現在、取り扱っているアイテム数は約150万で、DIY関連のサイトでは圧倒的な商品数を誇ります。ECにおいては、商品数が増えるほど売り上げは伸びます。

 

山本 Amazonや楽天市場などは意識しますか。

 

山田 当社はAmazonや楽天市場にも出店しています。よく「競合関係にあるのでは?」と聞かれますが、当社は「日本のDIY市場におけるシェア」をKPI(重要業績評価指標)にしていますから、Amazonや楽天市場などに出店しないと業界全体のシェアを伸ばせません。「出店料は広告費」と割り切り、「“Amazon経済圏”や“楽天経済圏”におけるDIY分野でNo.1」を目指し、実現させています。

 

本社の壁には、社員や取引先の方々によるサイン&メッセージがびっしり。
中にはアマゾンジャパン社長、ジャスパー・チャン氏の直筆メッセージも

 

 

“リアルへの揺れ戻し”に対応した「暮らし方改革」

 

山本 これからのビジョンをお聞かせください。

 

山田 ここ数年は「働き方改革」が取り沙汰され、2020年からコロナ禍によって生活様式が一変しました。私は「暮らし方改革」が起きていると考えます。

 

働き方改革は「とにかく働く時間を短縮しろ」と上から目線で押し付ける半面、「空いた時間はこのように使いましょう」といった提案がありませんでした。ところが、コロナ禍で緊急事態宣言が発出されてリモートワークが浸透すると、郊外生活者や2拠点生活者が急増するなど、余暇や家族に対する意識が以前と大きく変わってきました。

 

この流れの中で、当社は「『自分たちの暮らしを自分たちでつくる』というムーブメントをさらに加速したい。そのために必要なのは、ユーザーとのリアルな接点ではないか」と考えています。“リアルへの揺れ戻し”が起き、人々はリアルを求める――。このような状況が起きると考え、リアルなイベントやコーチングなどにしっかりと取り組むつもりです。リアル店舗の再開も視野に入れています。

 

山本 欧米に比べて日本のDIYはレベルが低いと聞きます。

 

山田 その通りです。例えば、自分で壁紙を貼ったことのある日本人は5%しかいないと言われます。一方、パリで暮らす人の60%は壁紙の貼り替え経験者だそうです。

 

ただし、昨今は日本においてもDIY需要が高まっており、壁関係だと当社でもしっくいは昨年より6倍くらい売れています。要因として考えられるのは、まず、リモートワークなどで家にいる時間が長くなったため、自分で壁の貼り替えをやってみようと思う人が増えたこと。もう1つは、YouTubeでしっくいの塗り方を検索すると、驚くほど多数の画像が出てきます。誰かに無料で教えを乞うことができるデジタル環境がDIYを加速しているのですね。

 

山本 2002年にEC事業を立ち上げてから約20年が経過しました。これからの20年をどのように見ていますか。

 

山田 時代が進化するスピードは加速していると感じます。米国では、著名な研究者が算出した10年後のEC化率(インターネットで買い物をする比率)を1年で達成したそうです。私たち経営者もそれくらいのスピード感を持って物事を考えなければならないと思います。中小企業が大手企業に勝る数少ない要素はスピードですから。

 

特にDXにはスピーディーに取り組むべきです。それに必要なのは、トップの決断です。

 

私はかつてコミュニケーションがあってこそチーム運営が成り立つと考え、リモートワークを禁止していました。しかし、子どもが生まれるスタッフの強い要望でリモートワークのトライアルをやってみると、業務をデジタル化することでパフォーマンスを落とすことなく、家族との充実した時間を過ごせることが判明。新型コロナの緊急事態宣言発出に合わせて全社でリモートワークに踏み切りました。DXのような新しいことに挑戦するには、トップの迅速で確固な決断が必要です。

 

山本 貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

 

 

山田 岳人(やまだ たかひと)氏
大都 代表取締役

 

 

 

PROFILE

  • (株)大都
  • “DIYを文化にする”を合言葉に、ECサイト「DIY FACTORY」、メディアサイト「Makit!」を展開。1937年に創業した当初は工具卸業だったが、同社代表取締役・山田氏の入社後、2002年にEC事業を立ち上げたことで、ホームセンター向けBtoBからデジタルを通じたBtoCへとビジネスモデルの転換を実現した。「創業84年のベンチャー企業」として、ビジネス・組織・顧客体験などのトランスフォーメーションを推進している。2020年7月テレビ番組「カンブリア宮殿」に出演。

 

 

Interviewer

山本 剛史(やまもと つよし)
タナベ経営 執行役員
ドメインコンサルティング大阪本部長

 

 

 

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