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選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

FCC FORUM 2021

タナベコンサルティンググループ主催「ファーストコールカンパニーフォーラム2021~DX価値を実装する~」(2021年6~8月、オンデマンド開催)の講演録。デジタルを軸に、サービスやビジネスモデル、業務プロセス、組織風土を変革し、競争優位性を発揮する要諦を提言します。
研究リポート2021.10.01

大都
金物屋からEコマースでビジネスモデルをDX

日本最大級のDIY工具通販サイトを運営

 

タナベ経営・山本(以降、山本) 大都の会社概要をお聞かせください。

 

山田 当社は創業84年の老舗企業です。私は3代目の経営者で、社員からは「ジャック」と呼ばれています。当社は全スタッフがイングリッシュネームで呼び合う文化があり、役員も「トニー」や「ジョニー」と呼ばれています。直近の売上高は54億5000万円(2020年12月期)、社員数は25名。2021年にベトナムで立ち上げた子会社にも7名の社員がいます。

 

ビジネスモデルは非常にシンプルで、工具メーカーや塗料メーカーの商品・情報をEC(インターネット通販)でユーザーに提供しています。この「DIY FACTORY ONLINE SHOP」は取扱アイテム数が約150万点以上の日本最大級のDIY工具通販サイトです。ECサイト、物流システム、物流センターなどビジネスのポイントになるところは全て自前で運営しています。当社がEC事業に参入したのは2002年で、それから19期連続で増収を達成しました。

 

山本 EC事業へ参入する前には、どのような事業を手掛けてこられたのですか。

 

山田 創業以来、おの、かんな、はさみといった工具の卸売事業を続けてきました。私は妻が先代の一人娘であった関係から、1997年にリクルートから当社へ転職。すでに厳しい状況だった卸売事業を手伝いながら、新規のEC事業を立ち上げました。

 

2004年に卸売事業からの撤退を決め、古参社員15名が退職。EC事業の売り上げがほとんどを占めた2011年に私は代表取締役に就任し、2012年には卸売事業から完全撤退してEC事業に一本化しました。2013年には新卒の第1期生が入社し、独自の組織化を推進しています。

 

そして、2014年には「体験できるリアルDIYショップ」というコンセプトでリアル店舗の「DIY FACTORY OSAKA」をオープン。翌年にはグロービス・キャピタル・パートナーズの大阪第1号案件として資金調達が決定し、「DIY FACTORY FUTAGOTAMAGAWA」もオープンしました。しかしながら、リアル店舗とアプリサービスの事業からは2019年に撤退しました。

 

 

「創業84年のベンチャー企業」として、25名の社員と共に、ビジネス・組織・顧客体験などのトランスフォーメーションへ挑戦している

 

 

コロナ禍でも4カ月連続で最高月間売上を更新

 

山本 DIY分野に特化したEC事業を推進しておられますが、そこに着目した理由を教えてください。

 

山田 3代目の私は、インターネットを通じて一般ユーザーに販売するビジネススタイルに変えましたが、仕入れ先の工具メーカーや塗料メーカーは創業のころからお付き合いいただいている会社がほとんどです。2002年というECの初期段階でその可能性に気付き、売り方をシフトしたのが大きな成功要因だと思います。

 

山本 山田社長は自社を「創業84年のベンチャー企業」と称されますが、どのようなところがベンチャーなのでしょうか。

 

山田 私の代で卸売事業からEC事業へ全面転換したので、第2創業のベンチャー企業と定義できると思います。現在でも社員の平均年齢が31歳くらいで、社内にはベンチャー気質がみなぎっていますよ。「世の中を変えるのはよそ者、若者、馬鹿者」と言われますが、リクルートから転身してきた私自身、そして大都で働く社員は皆、工具業界を変革しようという心意気で事業に取り組んでいます。

 

山本 卸売事業からEC事業へ転換する中で、「潮目が変わった」と感じたポイントはありますか。

 

山田 大都に入社した当時は卸売事業が100%で、私はトラックを運転して工具や塗料をお客さまの店舗に配達する業務を5年間続けました。

 

そんな私への「これからはネット通販の時代」という友人のアドバイスが、EC事業を始めるきっかけになりました。その翌日にはパソコンを購入し、昼間はトラックに乗り、夜はパソコンに向かって作業を続ける日々。「EC事業は伸びる」という手応えを感じたのは2004年あたりです。2008年には、売上高は互角ながら収益はEC事業の方が圧倒的に高くなりました。

 

例えば、卸事業は450円で仕入れた商品をホームセンターに500円で卸し、ホームセンターはその商品を1000円で販売するといった構造ですが、EC事業では450円で仕入れた商品に1000円の値付けをしても売れますから、収益率が高まるわけです。それに伴ってキャッシュフローも潤沢になったため、卸売事業では主体だった約束手形での取引を全廃しました。

 

山本 コロナ禍の影響はいかがでしたか。

 

山田 先ほど話しましたように、リアル店舗をオープンしたものの赤字が続き、2019年にアンテナショップとしての役割は果たしたと判断して閉店しました。かなりの経営資源を投下したので閉店には大きな抵抗がありましたが、もし閉店の決断が半年遅れていたら、感染拡大の影響を大きく受けて数千万円に及ぶ損失が出たと思います。

 

一方、コロナ禍で巣ごもり需要が生まれ、DIYで住まいを快適にしようという動きが活発化。ECを使えば外出せずに買い物ができるという利点も重なり、2020年3月から4カ月連続で最高月間売上を更新しました。

 

 

 

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