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未来ビジョンを実現へ導く中長期経営計画「ESFアプローチ」
村上 幸一

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2021年9月号

 

 

【図表2】長期ビジョン×中期経営計画策定

出所:タナベ経営作成

 

 

激変する世界の中でより際立つ不変の価値観、理念とビジョン

 

企業を形作る組織は、経営のバックボーンシステムという体系によって機能的に運営されていく。理念を最上流に位置付け、未来のビジョン、それを実現させる長期ロードマップ、中期経営計画という形で構成される。そして、その中期経営計画に即して落とし込まれたものが年度方針、年度計画となる。

 

企業は創業者の意思によって生まれ、その設立の趣旨や目的は理念として明文化される。理念は根源的な存在意義であり、企業哲学であり、半永久的に変わらないもの(Eternal)である。そこを原点・出発点として、自社の進むべき未来を指し示したものが長期ビジョンである。

 

10年以上先を見据えた未来への指針は環境変化によって、安易に揺らぐものであってはならない。さまざまな変化や逆境があったとしても揺るがない企業として、その未来に向かう確固たる意思(Solid)を込めたものこそが長期ビジョンとしてふさわしい。

 

その半面、長期ビジョンを実現させる企業としての論理的な中期経営計画は、環境変化に応じて柔軟に(Flexible)変化させなければならない。つまり、不変の(Eternal)理念、確固たる(Solid)長期ビジョン、柔軟な(Flexible)中期経営計画という意思と構成が重要となる。時間軸としては、理念が半永久、長期ビジョンが10~20年、中期経営計画が3~5年が目安となる。

 

当社のクライアントで、未来の予見が困難であるため、創業50年以上の業歴の中で今まで中期経営計画を立案したことがなかったメーカーがあった。事業承継のタイミングで、新社長のもと長期ビジョンと中期経営計画を初めて策定し、全社に発信したものの、その直後にコロナショックが起こり、発信した中期経営計画を見直さなければならなかった。

 

しかし、その社長は「このタイミングで初めてビジョンと中期経営計画を打ち立て、全社員に発信できたことがとても良かった」と言っていた。理由は、全社で進むべき未来の方向性をビジョンとして明示していたため、100年に1度のパンデミックで社会経済が混乱する中、現在の中期経営計画推進が後ろ倒しになったり、足元の施策を変更したりすることがあっても、社内でのベクトル統一が図られていたおかげで組織的な混乱はなく、業績へのインパクトも軽微なもので済んだためである。まさに、意思としての確固たる(Solid)ビジョンが組織と社員に安定感をもたらし、中期経営計画を柔軟(Flexible)にアップデートできた素晴らしい事例である。

 

「未来は予測できないため、中長期計画は策定しても意味がない」という理由で取り組まない企業は多く、一理あるように思える。しかし、企業の使命は未来予測ではなく、未来のおいてどのような姿でありたいか、理念に基づく使命は何かという意思が本質である。中期経営計画のない年度方針、年度計画は、「昨対何%」という積み上げの思考から脱することが難しい。そうすると、投資判断や戦略施策も近視眼的になりやすい。

 

また、長期ビジョンに準拠しない中期経営計画は、柔軟に修正や変更を加えるたびに、当初の長期的な目的から外れてしまい、柔軟を通り越して、場当たり的になりがちである。そうすると、社員の目線も目先の数値目標の達成だけに注がれ、その目標達成の目的や中長期的な戦略意識などを見失っていく。その目標達成の先にあるものの共有があるからこそ、エンゲージメントも生まれる。ビジョンやエンゲージメントがなければ、単にノルマという受動的でネガティブなものの域を脱しない。

 

永久的(Eternal)な理念を原点・出発点として、10年程度先の未来を確固たる(Solid)意思で長期ビジョンとして明文化し、3年の中期経営計画であれば3回転で、5年の中期経営計画であれば2回転で、そのビジョンを実現可能なものとして柔軟(Flexible)かつ論理的に策定していく。これがESFアプローチである。

 

 

 

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