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未来ビジョンを実現へ導く中長期経営計画「ESFアプローチ」
村上 幸一

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2021年9月号

 

 

【図表1】ESFアプローチ

出所:タナベ経営作成

 

 

100年に1度の出来事が毎年起こる世界に生きている

 

2020年から2021年にかけて、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい、私たちの日常生活や社会・経済活動に大きなダメージを与え、その影響は今も続いている。今まで一般的でなかった“パンデミック”という言葉が、日常的に使用されるようになった。世界規模のパンデミックは1918~1920年のスペイン風邪以来ということであるから、まさに100年に1度の緊急事態だと言える。

 

私たちが思い起こす近年の大きな出来事としては、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故、リーマン・ショック、それに連鎖した世界金融危機などが挙げられるだろう。産業界においては、第三次産業革命とも呼ばれるIT革新や、自動車の常識を覆すCASEがある。いずれも100年に1度と表現されるような、大きな変化やインパクトである。

 

テレビや新聞などで比喩的にも使用される「100年に1度」が、なぜ数年に1度程度の頻度で多発するのか。

 

視点は2つある。1つは、単純に分野が異なるためである。世の中は、社会、経済、政治、科学、産業など多数の分野で構成されている。研究や知見が深まるに従い、それらのカテゴリーが細分化されたり、拡大したりしながら多様化していく。多様化した各分野において100年に1度の出来事が起きれば、毎年のようにそれを体験しているような感覚になる。

 

経済の視点で見ると、国が定める産業分類は中分類でも99種ある。例えば、自動車製造業は中分類「輸送用機械器具製造」の中の小分類の1つ、「自動車・同付属品製造業」に過ぎない。このことからも、自動車業界全体で見た場合、先ほどのCASEのような革新が多発する理由がお分かりいただけるだろう。

 

そして、もう1つの要因がボーダレス化である。ボーダレス化は、文字通り「境界がない」ことを意味する。ITの急速な進化が主導する形で、世界からあらゆるボーダーが消失してきている。国境、製造業と小売業といったサプライチェーン区分、販売者と消費者の情報差など、マクロ・ミクロを問わず、ボーダレス化が進んでいる。

 

これによって、地球の裏側で起きた金融危機が世界経済を揺るがしたり、遠い国の不況が自国の失業率を上げたりすることになる。当初はほとんど無関係だったITが小売業や出版業界などを窮地に追い込み、自動車業界の変革にも多大な影響を与えている。

 

つまり、分野分類の多様化が進む一方、ボーダレス化が進んでいるため、遠くの世界や分野の変革が自分の領域にも影響を与える可能性が高くなっている。多様化とボーダレス化がシナジー効果を発揮しながら、さまざまな分野で「100年に1度」を多発化・加速化させていると言える。

 

そして今、予測不能な変化の激しさは「VUCA」という言葉でよく表現されている。VUCAはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉の頭文字で構成されているキーワードだ。

 

ただ歴史を振り返れば、現代だけがVUCAというわけではなく、激動激変の時代は数多くあった。現在は、ボーダレス化によって、今までは一般には分からなかったさまざまな事象が可視化されることで多様なVUCAを知覚・体感するようになり、そのスピードも加速している。つまり、「VUCA加速化の時代」という捉え方がより適切であろう。

 

「ダボス会議」として知られる「世界経済フォーラム」において、世界的に著名な有識者が毎年「グローバルリスクトップ10」を発表する。そのリストを2019年以前へ10年程度さかのぼってみても、上位は、異常気象、気候変動、自然災害、戦争・紛争、水資源枯渇などで、パンデミックという言葉は出てこない。今回のコロナウイルスの世界的流行によって初めてパンデミックが上位にランクインされている。つまり、当然のことながら、専門家や有識者といえども、誰にも未来のことは予見できないということだ。100年に1度の変革が多発し、VUCAが加速化する時代に、私たちは生きている。

 

※Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字を取った次世代の自動車像を表す造語

 

 

 

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