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【特集】

サステナブル農業

離農や高齢化に伴う担い手不足、耕作放棄地の拡大、食料自給率の低下といった問題に直面する日本の農業。作業の効率化・省人化や面積当たりの収穫量アップなどの課題を最先端の技術で支えるアグリテック企業の取り組みに迫る。
メソッド2021.03.01

革新・新連携×社会価値=持続的成長:阿部 和也

 

 

 

アグリ関連業界では今、「イノベーション」「社会価値の追求」によって、「持続的成長」が可能な新たなビジネスモデルを追求する動きが広がっている。

 

 

アグリ関連ビジネス、5つの構造的な課題

 

旧来型のビジネス展開がまだまだ多く残っているアグリ関連ビジネス。現場では構造的な課題として、次の5つが挙げられる。

 

1.減り続ける就農人口

 

農林水産省が2020年11月27日に発表した「2020年農林業センサス」によると、農業を主な仕事とする個人経営体の「基幹的農業従事者」は136万1000人。2015年の調査結果と比べて22.5%、39万6000人減少した。

 

わずか5年で、約40万人も減っているのが現実である。同省は農地の維持や活用策などを検討するために新設した「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」で、基幹的農業従事者は今後いっそうの減少が見込まれるとの見方を示した。

 

2.高齢化する現場

 

他の産業に比べると高齢化の進展も著しい。農業従事者の平均年齢は1995年に59.6歳だったが、2005年には64.2歳に跳ね上がった。2015年は67.0歳、2020年は67.8歳となっている。

 

また、現実的には「70歳を超えると、離農するか、統計対象とならない規模に経営を縮小する傾向にある」(農林業センサス統計室)という。

 

3.多段階の流通構造、最終的な生産者利益はわずか

 

多段階の流通構造が最終的な小売価格を押し上げているといわれている。【図表】は、キャベツ1玉1kgと仮定し、小売価格、各種経費などを試算したものである。これによると生産者利益はわずか19%しかない。

 

4.全国で増え続ける荒廃農地・耕作放棄地

 

農業現場での高齢化の影響もあり、荒廃農地や耕作放棄地は全国的に増え続けている。農林水産省によると、農地⾯積は2019年時点で439.7万ha(ヘクタール)となり、最大であった1961年に比べ約169万ha減少。また、1975年に13.1万haだった耕作放棄地⾯積は、2015年には42.3万haへと増大している。

 

5.新陳代謝が行われない(新規参入のハードルの高さ)

 

他の産業と異なり、農業は新陳代謝が進まない傾向にある。その要因は、新規就農のハードルの高さだ。

 

まず、農地の確保が難しい。何らかのツテがなければ、なかなか農地を使うことができない。さらに、水利権などでも新規就農者は頭を悩ませるという。農具や農業用機械の導入にも多額の費用がかかるため、自前で用意するにはハードルが高い。

 

また、収入が発生するまでには、どうしても長期間を必要とする。生産物にもよるが、農作物が実るには時間がかかる上、収穫しても販路がなければ現金収入を得られない。

 

 

【図表】キャベツ156円/1玉(1kg)の価格構造

出所:農林水産省「平成28年度 食料・農業・農村白書『特集1 日本の農業をもっと強く~農業競争力強化プログラム~』」(2017年5月23日)

 

 

 

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Profile
阿部 和也Kazuya Abe
タナベ経営 経営コンサルティング本部 副支社長。アグリビジネスモデル研究会 リーダー。金融機関を経てタナベ経営に入社。「企業は人なり」を信条に、現場を重視したコンサルティングを展開。特に、ビジョン構築、成長戦略の構築~展開の実践的なサポートが強み。業種を問わず、企業体質を革新する独自のノウハウを活かし幅広く活躍している。
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