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特別対談 インフラ・イノベーションが強くて豊かな国をつくる
京都大学大学院 教授 藤井 聡 氏 × タナベ経営 山本 剛史

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2021年2月号

 

 

京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 教授 博士(工学)
京都大学レジリエンス実践ユニット長
藤井 聡(ふじい さとし)氏

 

 

公共事業不要論がメディアなどで声高に叫ばれる中、「インフラ投資削減は国家の衰退を招く」と警鐘を鳴らすのが、京都大学大学院の教授で都市社会工学を専門とする藤井聡氏だ。国内のインフラ・イノベーションの現場を見てきた藤井氏にインフラ投資の重要性を伺った。

 

 

縮小するインフラ投資
20年でピーク時の半分に

 

山本 タナベ経営は、地域の社会インフラの担い手として活躍する企業に学ぶ「建設土木の新規事業、ヒト、社会インフラづくり研究会」を全国で開催しています。インフラ事業は国や地域の基盤をつくる重要分野ですが、ここ20年で公共事業関係費は約半分へ縮小されるなど、厳しい環境が続いています。

 

藤井 そもそもインフラ事業は投資案件に含まれます。中でも、土木分野のほとんどは公共投資で公的資金が使われていますが、その効果は投資した年に返ってくるわけではありません。効果が出るのは5年後、10年後、15年後という場合もあるため、有権者の理解を得にくい構造となっています。

 

山本 そのせいか、公共工事を削減して社会保障を充実させるべきといった世論が強くなっています。

 

藤井 社会保障はすぐに効果が出やすいですから。ただ、公共投資をしっかりと行わないと国民の暮らしは良くなりません。目の前の豊かさや経済のみを優先してインフラ投資をないがしろにすると、将来、非常に深刻なしっぺ返しが待っている。そうした性質を持っているのが公共投資です。

 

これを社会心理学では「社会的罠」や「ソーシャル・フェンス(社会的障壁)」と言いますが、短期的な利益にばかり着目していると、結局は大損をしてしまいます。それが「罠」という表現の意味するところです。効果がすぐに表れにくい社会インフラはその罠に掛かりやすい構造を持っています。ですから、短期的な視点だけでなく、理性的になって長期的、広域的な視点から考えていく必要があります。

 

山本 実際、インフラ投資によって、町や地域経済が大きく発展した事例は多くあります。藤井先生はそうした事例について全国を取材し、著書『インフラ・イノベーション』(育鵬社、2019年)にまとめておられます。印象に残っている事例はありますか。

 

藤井 いくつもありますが、福島県・小名浜の港湾イノベーションは、比較的小さな公共投資によって地域が大きく発展した印象深い事例です。

 

いわき市の海岸に位置する小名浜は、もともと小さな漁村でしたが、近くの常磐炭田で豊富な石炭が得られたため、政府は小名浜港に石炭の積み出しができる公共埠頭を整備しました。それをきっかけに、民間投資で工場ができ、鉄道インフラが整備され、さらに企業立地が促進。その後、石炭を生かした火力発電所も建設され、政府によってさらなる港湾投資が行われたことで、化学や金属関連の工場が立ち並ぶ港湾都市へと発展を遂げました。

 

山本 インフラ投資によって産業が立ち上がり、民間投資が促されて町が発展していった好例ですね。

 

藤井 おっしゃる通りです。ただ、面白いのはこの先です。ご存じの通り、エネルギー環境の激変によって日本が石炭の輸出国から輸入国に転換すると、日本各地の炭鉱は衰退の一途をたどります。常磐炭田も例外ではなく閉鎖に至りますが、小名浜は残されたインフラを活用して「石炭を輸入する港」に方向転換。インフラ投資の追加によって港湾が整備された結果、現在は石炭輸入における国内の最重要港湾に位置付けられています。

 

また、輸入石炭を目指して大小さまざまな火力発電所が周辺に整備された結果、首都圏、ひいては日本の産業・エネルギーを支える電源供給地としての役割を果たすまでに発展しました。

 

 

 

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