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【特集】

営業DX

コロナ禍をきっかけに、営業現場にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せている。デジタルの活用で、いかに生産性と勝率を上げていくのか。進化するセールステックの事例と、データを価値に変えるデータサイエンティストの育成について紹介する。
メソッド2020.10.22

DXで優れた顧客体験をつくるべき理由:藤原 将彦

部分的なデジタル化ではなく、全体最適なエコシステム化を目指す

 

今まで以上にデジタルテクノロジーがビジネス・生活に浸透していく中、企業ではデジタル戦略を踏まえたビジネスモデル設計が不可避となる。すでにデジタル専任部署を設置したり、プロジェクトチーム・委員会などを立ち上げ、自社のデジタル化に取り組んでいる企業は多いものの、自社のビジネスモデル・顧客価値向上に合致したデジタル投資ができている企業は極めて少ない。

 

デジタルツール導入の実態として、「シェアが高いから」「経営トップが勉強会で知ったから」「ランニングコストが安い・無料だから」といった理由でアプリケーションを導入しているケースが多い。現場では、デジタルツールの数は増えたが、顧客価値や生産性の向上につながっていないケースが散見される。

 

デジタル社会においては、デジタルとリアルの境界線がなくなり、それぞれのメリットを享受しながら補完し合うことで、今まで以上の商品・サービス、顧客価値・顧客体験(CX)を提供することができる。これからのデジタル投資に当たっては、「IT導入アプローチの変化(所有から利用へ)」「ゴール設計(三つの推進レベル)」「デジタル戦略を担う機能バランス」を押さえ、部分的なデジタル化ではなく、全体最適なエコシステムの構築を目指さなければならない。

 

【図表1】IT用語一覧

 

 

1.IT導入アプローチの変化(所有から利用へ)

 

SaaS※2を代表するクラウド型アプリケーションを提供する企業が増えたことで、企業にとってITシステムは「所有するもの」から「利用するもの」に大きく転換した。クラウド型アプリケーションは、初期投資が少なくセットアップの手間が少ないため、低コストで導入・運用できる。その結果、中堅・中小企業が低コストで大企業並みのシステム環境を構築できる時代となった。

 

進んでいる企業は、クラウド型ERP※3と各業務領域における最適ソリューションのSaaSを統合し、低コストで柔軟性の高いシステムをスピーディーに確立している。

 

2.ゴール設計(3つの推進レベル)

 

デジタル戦略は大きく3つの推進レベルに分けられる。レベル1は、「既存ビジネスの部分的デジタル化(デジタルパッチ)」、レベル2は「リアルとデジタルの融合による既存ビジネスの変革」、レベル3はデジタルトランスフォーメーションによる「デジタルを使った事業・価値の創造」である。どのレベルを目指すのかを明確にすることで、投資判断基準が明確となる。

 

3.デジタル戦略を担う機能バランス

 

2のゴール設計を踏まえ、「デジタルを使った事業・価値の創出」「業務プロセスの改革」「データ活用・データ関連事業」の3つの機能を、どのような推進体制でバランスしていくかを設計しなければならない。

 

デジタル戦略を加速度的に進めている企業では、この3つの機能を明確に機能分化している。【図表2】の事例の場合、ホールディングス会社に「デジタル・デザインラボ」を設け、既存事業にとらわれず、AIやIoTを駆使しながら、近未来を見据えた新しいデジタル事業を創出。事業会社では「業務プロセス改革室」で、RPA※4を中心とした既存事業のデジタル化(デジタルBPR※5)を推進している。また、別事業会社ではデータの収集・分析とデータ関連事業の創出を担っている。

 

 

【図表2】デジタル戦略を組織で機能分化した事例

 

 

 

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Profile
藤原 将彦Masahiko Fujihara
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 WEBデジタル研究会 リーダー。クライアント視点でのコンサルティングスタイルで、企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を中心に活躍中。また、新規事業開発・推進においても、前向きな情熱を持って取り組み、クライアント企業の成長エンジンづくりに貢献している。
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