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【特集】

サステナブルロジスティクス

なくてはならない基幹産業・物流業。働き手不足、業界特有の業務効率の悪さ、労働環境の悪化などが大きな課題となっている。持続可能な物流のため知恵を絞る企業に迫る。
メソッド2020.07.31

持続可能な物流をつくる:土井 大輔
ビジョン・経営計画の見直しの必要性:番匠 茂

ビジョン・経営計画の見直しの必要性

 

業種・業態・業界で業績影響度の差こそあれ、コロナショックが顧客・消費者の価値観を大きく変えるきっかけになったのは間違いない。今までの当たり前が当たり前でなくなった。顧客・消費者の価値観が大きく変わったということは、ビジネスのやり方も変える必要があるということだ。われわれは自社のビジネスモデル(顧客×商品×提供方法)、マーケティング戦略、営業戦略、人事処遇制度、採用戦略などの変更・見直しを迫られているのである。

 

今回のショックを受けてビジョンや経営計画を見直す際に大事なことが2点ある。

 

1点目は「シフト」である。2008年リーマン・ショック、2011年東日本大震災、2016年熊本地震、2018年西日本豪雨、そして、2020年コロナショックと、近年は頻繁に想定外の経済危機・自然災害に直面している。今後もこのような有事を想定した強い経営(特に収益性・安定性)を行わなければならないという覚悟(意志)が必要である。

 

変化した価値観に合わせて、ビジネスモデル、ドメイン、顧客(業界・業種)基盤、商品・サービス基盤などをシフト(リスク分散)しなければならない。タナベ経営創業者の田辺昇一は常々、「卵は一つの籠に盛るな」と言っていた。つまり、リスク分散のことだ。自社の将来のありたい姿を再度、構想・再構築する必要がある。

 

2点目は「効率を追い過ぎない」ことである。効率的に取り組み、成果につなげるのはビジネスの大原則だが、こういった不況期のビジョン・経営計画の見直しにおいては、効率を重視し過ぎると実行、取り組みが遅くなる。

 

転換期には道なき道を創る必要がどうしても出てくる。大切なのは、迷いながらもまずは実行すること。回り道し、後戻りしながらも、そういった取り組みがその後の成果につながるのである。

 

だから、迷っていても始まらない。まずは実践・実行あるのみだ。そして、高速でPDCAを回し、試行錯誤しながら進むのが結果的には一番速いのである。結果を出している会社とそうではない会社の差は、考え方と実行スピードの差である。この認識に基づき、トップ自らが「人と組織」を動かす必要がある。

 

タナベ経営は常にクライアント企業と一緒になって、市場・経営環境、ビジネスモデル設計、ライバル分析、自社の強み・弱み、商品基盤などを分析し、企業の3~5年先のあるべき姿・経営計画・重点施策などをディスカッションし、将来を一緒にデザインしてきた。こういった時期だからこそ、自社の存在価値(われわれは何のために存在し、何をもって貢献するのか)を再度見つめ直していただきたい。そして、ビジョン・経営計画の見直しを行い、下期(2020年10月以降)に向けてのチャレンジ目標を設定し、それに向かって実行計画の立案をお願いしたい。

 

 

 

持続可能な物流を可能にする「共創」

 

 

K社は地方都市にある日用品ファブレスメーカーである。主に中国から仕入れた商材を販売店に出荷しているが、近年、供給体制に異常を来たしている。

 

K社は輸配送機能を有さず、外部委託している。特に販売店への直送が特徴で、評価も高かった。しかし、当該エリアは特にドライバーが不足しており、運送事業者が十分に確保できなくなりつつあった。年末にはやはり便が確保できなくなり、販売店に約束した供給が大幅に滞った。

 

これは一時的なことではない。K社は外部委託している運送事業者から「次の物流の波動極大期に対応できるか分からない」と言われており、抜本的な解決が求められている。

 

2018年に日本生産性本部が発表した「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」によると、日本の運輸業の労働生産性は米国の43.0%、日米のサービス品質の違いを調整した場合でも52.6%にすぎないという。つまり現在無償で行っている付帯サービスを有償化しても、米国の半分程度の労働生産性しかないのである。

 

そもそも米国と日本の差異は何か?最大の要因は、ドライバーの待機時間である。

 

日本の場合、輸配送時間以上に輸配送先で待機する時間が長くなることが珍しくない(総時間が倍になれば、価値は半減する)。対して米国の場合、ドライバーの責任範囲は輸配送に限られる。往路で運んだ貨物や荷物はトレーラーごとに切り離され、復路では別のトレーラーにトラクタ(運転席、けん引側)を切り替えて即座に移動することが可能だ。

 

日本型物流の良い点は、荷主の要望に細かく対応したサービス体制である。しかし、その「部分最適」が、「全体最適」を大きく阻害することもある。

 

K社の場合、運送事業者はK社と周辺企業の出荷時間の要望に細かく対応しており、時間の重なりが多く発生した。結果、積載効率の悪い庸車が必要以上に発生し、キャパオーバーしたのである。運送事業者はK社にも時間変更の要望を出していたが、K社は販売会社の心証悪化を恐れ、本気で取り組めずにいた。

 

「リアルなマテリアルの消費」は、今後も経済活動の重大な基盤であることは変わらない。であるならば、物流を止めてはならない。しかしながら、ECの増加やドライバーの需給ギャップを考えると、これまでの日本型物流を維持することは現実的でない。

 

今後の改善ポイントは「物流の存続」を機軸に、サプライチェーン上の各プレーヤーが「ちょっとずつ譲り合う」ことだろう。例として、

 

・差別化するための物流条件を、単純に物流事業者に押し付けない
・共同で物流改善を行う際に、社内情報を過度に隠さない
・部分最適(自社都合)でなく、全体最適(物流の維持存続)で考える

 

などが挙げられる。「共創」とは協力して新たな価値を創造することである。K社は物流条件でなく、販売店への商品企画力の訴求を戦略に組み入れた。まずは自社が何を譲れるか、言い換えれば「物流条件の何を割り切り、代わりにどんな強みを磨くのか」を考えることから始めていただきたい。

 

 

【図表】ビジョン・経営計画を見直し、個人レベルの計画・行動へ落とし込む

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 本部長代理
物流経営研究会 リーダー

土井 大輔
Daisuke Doi

大手システム機器商社を経てタナベ経営に入社。製造業、卸売業、小売業、サービス業、建設業など幅広い業種に対し、事業戦略立案や新規事業開発などの戦略テーマから営業力強化、マニュアル整備などの戦闘テーマまで対応する。各業界において「物流・ロジスティクス」が企業競争力を高めると確信し、「物流経営研究会」のリーダーとして活躍中。

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 副支社長
物流経営研究会 サブリーダー

番匠 茂
Shigeru Banjyo

長年にわたる営業部門での経験を生かし、各企業の経営コンサルティング、幹部人材の育成などで活躍中。特にトップ・幹部と一体になった実践的な取り組みにより、クライアントへの熱い思いをベースに進化を実現。数多くの成長企業を支えている。

 

物流経営研究会

本研究会は物流の価値をさまざまな着眼点から研究し、最終的に「ヒトが集まる物流会社を創る」ことを目的としています。「ワクワクする会社」に進化するために、何をすべきか一緒に研究していきましょう。

 

 

 

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