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【特集】

ラーニングカルチャーの創造

常に学ぼうとする文化(ラーニングカルチャー)がある企業は、人材育成の投資効果が高く、好業績を維持しやすい。その文化はどのように形成されるのか、事例からひもとく。
2019.12.16

社員が自律的に学ぶ文化を創造する:タナベコンサルティング

 

皆さんの会社・組織・チームに、自律的に新しいことを学び、柔軟に取り入れ、変化することを恐れない「ラーニングカルチャー(学習文化)」はあるだろうか ?

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人材開発のトレンドは「学習と開発」

変化の激しい昨今においても持続的に成長し続けている企業の共通点は、「ぶれない軸を持って変化し続ける」ことに尽きる。「ぶれない」のに「変化し続ける」とは、理念やミッションという譲れない価値観を軸としながら、それを実現するための戦略・戦術・手段は、時代や外部環境の変化に応じて変えていくという意味である。

では、企業が変化し続けるために必要な要素は何か。それは「学習」である。皆さんの会社・組織・チームに、自律的に新しいことを学び、柔軟に取り入れ、変化することを恐れない「ラーニングカルチャー(学習文化)」はあるだろうか。ラーニングカルチャーとは、「社員が自律的に学び・教え合う社風・文化」のことである。

世界最大級のHR(人材開発)イベント「ATD国際会議」で発信された近年の提言やセッションテーマを見ると、人材開発の世界的なトレンドが「教育(Education)」ではなく、「学習(Learning)」や「開発(Development)」であることが分かる。膨大な量の知識・知見・スキルを強制的に「教育」するのではなく、自発的な意識による「自律学習」を促すという考え方が主流になっているのだ。

「働き方改革」が叫ばれる日本国内においても、学習・開発の視点に立った人材開発は今後外せない。本稿で「教育」ではなく“学習”という言葉を使っているのも、そのためである。

新入社員などキャリアの初期段階では一定レベルの「教育」が必要かもしれないが、画一的な内容を上から目線で一方的に「教える」のではなく、自らが「学び、習う」ことを支援していく視点が求められている。

「ラーニングカルチャー」 を創造する三つのポイント

 

1. 経営トップの意思表示と資源配分

経営トップの意思なしにラーニングカルチャーを創ることは極めて難しい。経営トップ・幹部、リーダーが、普段の言動から自律的に学ぶ姿勢を示し、それを見た社員が倣うことで、少しずつカルチャーが創造されていく。加えて、人材育成に経営資源を適切に配分する必要がある。

経営理念や社是で「企業は人なり」とうたいながら、実際は人材育成に適切な経営資源を配分できていない企業は多い。だが、社員が危機感を持って自律的に学ぶようなカルチャーが、何もせずに自然に醸成されることはまずない。つまり、経営資源の配分について、トップが明確に意思決定をする必要がある。人材開発がうまくいかない企業は、ここを曖昧にしているケースが非常に多い。

ある中堅企業では、重点テーマを人材育成に決定すると同時に、新設した人材開発部門の責任者として、営業部門のエース人材を異動させた。これを見た社員は、経営トップの本気度を瞬時に理解した。

人事異動は「人財」という極めて貴重な経営資源の再配分であり、経営トップの明確な意思表示になる。この会社のトップは、「エースが抜けるのは営業現場にとって厳しいことだが、会社の未来を創る活動に集中してほしい」と、営業と人材開発を兼務させなかった。この中長期的な判断は、経営トップにしかできない。

2.人材開発への参画意識

企業における教育は、階層別・年次別・職種別などで設計された研修プログラムを対象者に受講してもらうタイプが一般的である。教育体系をきちんと組み、抜け・漏れなく研修を提供するのも、全体の底上げをするためには大切だ。しかし、従来の受動的な教育は問題が多く、投資対効果が低いと言わざるを得ない。(【図表】)

「受講する」という仕組みだけでラーニングカルチャーを創造していくことは難しい。重要なのは、「自社の人材開発に社員がどれだけ参画するか」という視点、つまり「アクティブラーニング」の機会をどれだけ創出できるかである。講義など受け身型の学習を極力減らし、社員同士で討議をする、体験する、教え合うといった能動的な学習をどれだけ提供できるかがポイントになる。

また、社員の意識を「教育=会社が与えてくれるもの」から、「学習=自分たちで学ぶ場・テーマ・内容を創っていくもの」に変革する必要もある。研修などに積極的に参加するだけでなく、「研修コンテンツ自体を社員が考えて創り出す」ように変えるのである。

紹介したトップ産業の「TOPアカデミー」は、社員がカリキュラム設計からコンテンツの制作までを主体的に行っている好例だ。アクティブラーニングの観点から見ても、決められた内容を受講するだけでなく、自分が教える側(講師)になるという環境は、学習効果を高めるのに大いに役立つ。

また、社内講師が増えるほど、自社の人材開発への参画意識が高まり、互いに学び、教え合うラーニングカルチャーが創造されていく。そうなれば、年長者が若手に教えるだけでなく、ベテラン社員が若手社員から学ぶという構図も生まれてくる。

出典 : 厚生労働省「能力開発基本調査(2018年度)」(2019年3月29日)

出典 : 厚生労働省「能力開発基本調査(2018年度)」(2019年3月29日)

 

3.テクノロジーの活用

日進月歩の勢いで進化し続けるラーニングテクノロジーの活用も欠かせない。ここでは、必須のキーワード3点をお伝えする

① インタラクティブ

「対話型の」という意味である。教える側が一方通行で知識を伝達するのではなく、教える側と学ぶ側が双方向コミュニケーションを通じて学習を行う。通信環境やUI(ユーザーインターフェース)が大幅に改善されている現在、できることは増えている。

UMUテクノロジージャパンのようなサービスを活用すれば、ゼロから考えるよりも圧倒的に速く、質の高いインタラクティブなプラットフォームを創ることができる。また熊本大学の公開講座では、集合研修はほとんどが対話型である。事前課題の提出や、参加者同士のコミュニケーションをウェブ上で事前に行うため、研修ではリアルで集まらなければできないことに時間を割ける。

② マイクロラーニング

モバイルで手軽に、数分で視聴でき、隙間時間を活用できるマイクロラーニングは、「社員が自分でコンテンツを制作できる」「収録・修正コストが限定的」というメリットも相まって、自律的な学習の手段として見直されている。

また、膨大なマイクロラーニングコンテンツを受講者に合わせて最適化するアダプティブラーニングの考えも広く認知され始めている。「あなたのキャリア開発に最適な学習プランはこれです」と簡単に提案してもらえるようになれば、学習のパーソナライズ化はさらに進んでいくだろう。

製造現場で、高い技術を持つ人材が作業を行っている場面を動画で収録し、テロップを付けて、全社員がいつでも、どこでも見られるようにするといったことが簡単にできる時代である。自社独自のノウハウの共有、知的財産のナレッジ化という意味で、従来のeラーニングと大きく異なる。

③ VR(バーチャルリアリティー)

社員の研修でVRを活用する企業もある。体験・体感した方が理解は早いが、実際に体験するのが難しい内容はVR向きだ。例えば、建設現場ではさまざまな危険があるが、それを安全に体験することは極めて難しい。しかし、VR技術を活用すれば、リアルに近い疑似体験が可能になる。

接客業などでもVRが活用され始めている。繁忙期やクレーム対応などを疑似体験し、より早くレベルアップして人材育成の投資効率を高めるのである。アクティブラーニングの観点からも極めて合理的である。

トヨタ自動車の代表取締役社長・豊田章男氏は、「ライバルは、もはや米グーグルのようなIT企業である」と語っている。すでに「業界」という垣根がなくなりつつある今、異分野・異業種からの参入は当たり前と心得るべきだ。

こうした中、今までの成功体験に縛られて素直に学ぶことを忘れ、従来のやり方に固執する人材ばかりでは、企業は早晩立ち行かなくなる。新たな情報に触れる機会、異業種から学ぶ機会、新たな知識をインプットする機会。そして、それらをアウトプットして社内に還元する環境や、そうした人材が活躍する場を整えることが急務である。逆説的ではあるが、自律的に学ぶ文化は、活躍する場があってこそ醸成される。学んだことを発揮できる環境があるからこそ、人は学ぼうと思うのだ。

加えて、人は何歳になっても学ぶ必要がある。「リカレント学習(学び直し)」がトレンドになっていることからも分かるように、経営幹部やベテラン人材であっても、過去の経験と蓄
積だけで戦うのは非常に危険である。実績があり、経験豊富なリーダーこそ積極的に学び続け、その情報を発信することで、自社にラーニングカルチャーを培っていただきたい。

人材育成研究会

人材開発を効果的・効率的・魅力的に進化させる手法や、研修などの効果を検証・分析し、現場改善や価値向上につなげるポイントを学べます。

 

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