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これからの「採用戦略」を考える
大森 光二

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2019年6月号
 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 戦略コンサルタント 人材採用研究会 リーダー
大森 光二
Kouji Oomori

人事・組織に関する課題解決を中心としたコンサルティングに従事。前職での人事部門責任者の経験から、現場の社員にまで浸透するための仕組みづくりを重視している。「人材が最大の企業価値」であるという考えのもと、企業と個人のWin-Winを目指し、コンサルティングを展開している。

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エース人材の流出による危機

 
「実は、将来を期待していた〇〇課長が来月いっぱいで退職となりました」
 
将来を嘱望された30歳代後半から40歳代のエース人材の離職の話を、2018年後半から多く耳にするようになった。これまでの転職市場とは異なる流れが生まれている。
 
2019年3月20日付の日本経済新聞の一面に「スタートアップ転職、年収720万円超上場企業越え」との記事が出ていた。「ITスタートアップへ転職した人の数は過去2年で2.5倍に増えた」とも書かれている。その背景として、「働く人の価値観の変化」「寿命が延びて人生100年時代を迎えている」「年齢を基準としない労働市場の変化」などが挙げられ、40歳代であっても、あと20年以上は元気に働ける時代の価値観の変化がうかがえる。
 
エース人材の流出に対する危機感は企業によって大きく差があるものの、そのような人材が流出した場合には採用で補おうと考える企業が大半である。しかし、現実としては次のような問題が内在している。
 

【エース人材の流出の問題】
・エースとして活躍していた人材と同レベルの人材を採用できるか?
・その人材を採用するための期間やコストはどれくらいかかるのか?
・同レベルの人材が配置されるまでの期間は誰が業務をサポートするのか?
・エースが抜けた社内の空気を回復するためにはどうするべきか?

 
このような問題が起きている中で、採用のみに目を向けて問題に対する手を打ちきれず、第二、第三のエース人材の離職につながっているケースも出てきている。前述の記事にあるように、優秀な人材がスタートアップ企業などに流れている状況からも、企業選びのポイントが大きく変化しており、かつて企業にとどまることが多かったエース人材であっても、離職をする恐れが出てきていると言える。
 
そのような離職が続くと、業績どころか企業の存続まで危ぶまれる可能性が出てくる。そこで、これからの「採用」を考える際のキーワードとして次の3点が挙げられる。
 

【採用を考える際のキーワード】
1.企業の透明性を高める
2.人的資本の最適化を図る
3.採用力を高める

 
 

企業の透明性を高める

 
新卒採用であっても中途採用であっても、人が集まる企業の特徴として「透明性」の高さが挙げられる。ここでいう企業の透明性とは、入社前後の「ギャップがない状態」であり、「自分が思った通りの仕事ができている状態」を指す。
 
本特集で取材をさせていただいた東山産業(P.15)では、学校とのパイプを生かした採用を成功させている。そのポイントは「学生に対する透明性」と「学校に対する透明性」に他ならない。
 
例えば、学生・学校に対しては次のような取り組みを行っている。
 

【学生に対しての取り組み】
・説明会時に参加学生に対して決算書を開示している
・OBやOGとの交流機会を持ち、人事担当者が席を外した状態でざっくばらんに話をしている
・聞きにくいことも聞きやすいように質問を促し、不安を払拭した状態で入社に至っている
【学校に対しての取り組み】
・初回訪問時に、先方担当者に対して決算書を開示している
・紹介をしてもらった社員が退職をした場合には、必ず報告を兼ねて訪問している
・3カ月に1回のペースで訪問し、全ての就職課担当者に会って自社の変化状況を常に伝えている

 
これらの取り組みによって、学校や学生との信頼関係が強固に結ばれ、採用の成功につながっている。また、リファラルリクルーティングで成功を収めているネクステージグループ(P.11)は、社員が知人に対して自社を紹介する会社説明資料の透明性を高めている。説明資料には次のような記載がある。
 

【会社説明資料】
・時間外労働時間、有給休暇消化率
・人材の定着率
・人事制度(賃金イメージ)

 
入社前に聞いておきたい点が明記されており、ネガティブと捉えられる面まであえて打ち出している。リファラルリクルーティングにおいては、会社の正直な姿勢に共感した人材や、入社前から労働時間や休みのイメージを持った「覚悟のできた人材」が入社を決めるというメリットがある。
 
現在の労働市場において、転職回数や年齢制限などの基準を設けている企業は以前に比べて少なく、機会があれば転職することは難しくない。そのため、入社前に聞いていた情報と入社後の状態にギャップがあると離職につながりやすく、良い情報も悪い情報も口コミ効果によって大きく影響を受ける。
 
採用が難しい現在において、確実な採用手法となる「人が人を呼ぶ」採用を成功させるためにも「透明性」が重要となる。
 
 
 

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