TCG Review

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多様化する事業承継における
「変わらない」価値判断基準
“絶対性”を承継するファミリービジネス
中須 悟

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2018年4月号
 
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タナベ経営
経営コンサルティング本部
副本部長 戦略コンサルタント 戦略財務研究会 リーダー

中須 悟 Satoru Nakasu
「経営者をリードする」ことをモットーに、経営環境が構造転換する中、中堅・中小企業の収益構造や組織体制を全社最適の見地から戦略的に改革するコンサルティングに実績がある。CFPR認定者。

 
全てのオーナー経営はファミリービジネスを選択すべきか? そこに一通りの答えはない。ただ、企業の目的は存続することにあり、長期的に経営を継続していくためには、ファミリービジネスが有効であるという説がある。
 
ファミリービジネスとして存続するというのは、所有と経営、またはどちらか一方を創業家が代々承継していくことを意味する。その対極にあるのは、M&Aで企業そのものをバイアウト(買収)することだろう。MBO(Management Buyout=経営陣買収)で親族外の役員や幹部に所有と経営を承継したり、IPO※(Initial Public Offering=新規公開株)により不特定多数の出資者を市場から募り、経営者を外部招へいすることも非ファミリービジネスであるといえよう。
 
ファミリーか非ファミリーかの選択を求められるのは、事業承継期である。現在、事業承継を行う企業数がピークに達しつつあることは言うまでもないが、一方で後継者不足も大きな課題となっており、そのような企業がファミリービジネスとして事業を承継していくのか否か、究極の選択を迫られているのである。いずれを選択する場合も、ファミリービジネスとは何かについて深く洞察し、一定の価値判断基準を得る必要があるだろう。
 

会社の存続を選んだある創業社長

「長年、経営の在り方を勉強してきたが、株は親族で継いでいくことに決めた」。ある中堅メーカーの創業社長は言う。その人に子どもはいない。事業経営は生え抜きの幹部に承継していくという。複数のブランドを展開する同社は、それぞれのブランド単位で会社を分割し、現幹部を各社の社長に据えて経営を任せ、グループで地域ナンバーワンに成長するというビジョンを掲げる。また、各事業会社の上に持ち株会社をつくり、創業家がその株主としてグループの所有を承継していく。事業会社の後継社長に株式を譲渡して独立させる選択肢もあったが、社長の結論は違った。
 
「そうしないとバラバラになる」。資本は経営者の思いを媒介する。創業者の理念は変わらないものとして一枚岩で承継していかないと、企業はそのカタチを失ってしまう。この社長は「理念を承継し、長期的に存続する」ことを選択したのである。
 

創業家が所有を手放すことの意味

ファミリービジネス研究の第一人者・日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授は、「所有は絶対に手放してはならない」と強く主張している。所有をいったん手放したら二度と戻ることはない、またそういった事例もないからだ。

所有を手放すというのは、どういうことか。ファミリービジネスにおいては、創業家の理念が伝承されていかないことを意味する。最近、経済紙をにぎわせている出光興産と昭和シェル石油の経営統合がよい事例かもしれない。
 
出光興産の創業者である出光佐三氏は「海賊とよばれた男」であり、外資系石油メジャーからの圧力にも屈せず、独立独歩で現在の事業の礎を築いた。その佐三氏が存命であれば、昭和シェル石油と経営統合することはあり得ないだろう。しかしながら、本稿執筆時点(2018年1月31日)において創業家が保有する議決権割合は28%で、いずれにしても合併などへの拒否権(議決権の3分の1)を持たない。資本の論理からいえば経営統合を避けられない状況にある。ここで両社が経営統合すべきかどうかの見解を示すつもりはないが、創業家が所有を手放すということは、創業者の思いを伝承することができなくなるということである。
 
 

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