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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2021.07.01

デザイン思考による戦略策定とレジリエンス戦略推進のポイント:槇本 康範

 

 

 

 

ロジックの先に答えがない時代

 

企業経営の課題は大きく2つに分かれている。1つ目は、自社の置かれた状況に対して制度・仕組みを整えていく課題。人事制度の見直しや情報集約システム・管理会計の導入などで、仕組みや体制を整えていく必要がある。2つ目は、「時代に合わせて自社の商品・サービスをどのように変えていくか」という事業面の課題。前者が「守りの課題」、後者が「攻めの課題」とも言える。

 

守りの課題は、経営の原理原則にのっとり、着実に実行していくことが重要である。企業・売上規模、拠点展開など、各社固有の状況に対して発生する経営課題は、景気が良くても悪くても発生する課題だ。

 

次に攻めの課題だが、これは売り上げが成長しているかどうかが1つの目安となり、また中期経営計画の達成状況も重要な指標となる。さらに、競合他社が先進的なサービスを提供している場合など、自社を取り巻く環境を判断した上で対策を検討することが重要だ。

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、企業経営におけるこれまでの常識は崩れ落ちた。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による社会構造の急速な変化に対し、どう取り組んでいくべきか悩む企業は多い。

 

コロナ禍の現在、顧客や社会と自社の間に価値観のズレを感じることはないだろうか?経営コンサルティングに従事する筆者は今、ロジック(論理的思考)では解決策が見つからない時代になりつつあるように見える。

 

 

 

 

 

 

 

企業課題を解決に導く3つの思考

 

このような環境で経営課題を見いだし、解決に導く3つの思考法を紹介する。1つ目は、「マーケティング思考」である。経営戦略を検討する際、多くの企業はマーケティング的な発想を軸に戦略を組み立てていく。SWOT分析を用いて、進むべき方向性と戦略オプションを検討していく。

 

2つ目は、「ブランディング思考」だ。企業・商品・店舗・技術・人材などをブランド化し、顧客から最初に声が掛かる関係づくり(ファーストコールカンパニー)を目指していく。「ブランドは利益であり、長期的に企業が存続していくための条件である」とタナベ経営は提言している。

 

3つ目は、「デザイン思考」である。デザイン思考とは、米のスタンフォード大学のハッソ・プラットナー教授が提唱した思考プロセスで、共感・定義・概念化・試作・テストの5段階で区切られる。新しい可能性を発見する問題解決のプロセスと言える。

 

デザイン思考では、企業の課題を抽象的に考えることが求められる。抽象度を上げて解決策を検討することで、より幅が広く奥の深い選択肢を持てるようになる。結果、通常の論理的思考では出てこなかった解決策を生み出すことができる。

 

今後、企業はデザイン思考で自社の経営課題と向き合うことが必要な時代になってくる。ロジックではなく、感情・感覚を優先させるデザイン思考の特性こそが、戦略策定・推進時のポイントになっていくからだ。デザイン思考を用いることで、自社の進むべき方向性を、より社会課題にフォーカスしていくこともできるだろう。ロジックの先に答えが見つからない場合の、新たな課題解決の手法として活用いただきたい。

 

 

レジリエンス戦略を推進する

 

タナベ経営では、2020年11月の「経営戦略セミナー」以降、「レジリエンス戦略」という言葉を軸に経営コンサルティングを行っている。簡単に言うと、レジリエンス(復元力)によって、コロナ禍で落ちた業績を反動に回復していくことを本年度の目標にしようという提言である。前述したデザイン思考と併せて取り組んでいただきたい。

 

レジリエンス戦略を推進していくためのポイントは、「規律」と「スピード」の2つだ。

 

規律とは、「統制」と「徹底」にある。規律のある組織は強い。経営理念も「考え方の枠組み」であり、規律を形成する要素の1つである。企業がある程度の成長段階に入ると、規律以外の判断基準を優先して良いと考えられている。だが、コロナショック後のスタート年である本年は、方針・指示・命令の徹底が可能な「規律ある組織」の確立こそが業績回復への近道だ。

 

もう1つの着眼点であるスピードにおけるポイントは、「判断のスピード」と「実行のスピード」の2つ。「遅い判断」「スピード感のない実行力」は最悪のケースである。

 

判断する時間と実行に移すまでの時間を短縮することにより、残りの時間で新たな施策を打つことが可能となり、結果として企業競争力が高くなる。特に、顧客接点数をKPI(重要業績評価指標)に設定し、2倍にすることを目標にすれば、成果は大いに変わってくるだろう。

 

ここまで、企業危機をチャンスに変えるデザイン思考の考え方と、レジリエンス戦略推進のための2つの着眼点を紹介した。時間を意識しながら有事に強い企業体質を構築することが重要である。コロナ禍をばねに、企業体質の変革を実現し、飛躍していただきたい。

 

 

※自社の社内リソースと自社を取り巻く外部要因を照らし合わせて分析し、今後挑戦できる市場領域や解決すべき事業課題を見つける手法

 

 

Profile
槇本 康範Yasunori Makimoto
戦略立案・企業再建の分野を中心に、中部地区における数多くの有力企業コンサルティングで実績を残す。特に、製造業の戦略策定、事業展開においては独自のノウハウを持ち、新市場の開発・開拓で多くの成果を上げている。昨今は、事業承継に伴う後継体制コンサルティング、大企業・中堅企業のコンサルティングも多く手掛け、収益構造と体質転換のスペシャリストとして活躍している。
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