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メソッド2020.10.30

BtoB企業の売り上げ減少に歯止めをかける:マーケティングコンサルティング本部

 

顧客リストを整備し顧客母数の拡大を目指す

 

2020年4~6月期の日本の実質GDP(国内総生産、2次速報値)が、前期比年率28.1%減となった(内閣府、9月8日)。この数値は、1955年の統計開始以来、最大規模の減少幅だという。事業の特性上、売り上げが好転している企業はあるものの、暗転している企業が圧倒的に多いのが現状である。

 

こうした環境下で、「営業しようにも、どこも相手にしてくれない」と企業の営業活動が低迷しているBtoB企業は少なくない。有事の時こそ、経営者や事業リーダーがリーダーシップを発揮し、社員の士気を高めることで営業活動を活性化させなくてはならない。

 

本稿では、その打開策の一つを紹介する。結論から言うと、社内にある顧客リストを徹底的に見直して整理し、営業母数を増やすことである。すでに行っている企業もあるだろう。だが、その徹底度はどうだろうか。顧客へのアプローチを現場の営業担当者に任せ、その報告だけを信じてはいないか。

 

例えば、次のようなケースに心当たりがないか、自らに問い直していただきたい。

 

①新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響で、現場の営業担当者のモチベーションが低迷しており、顧客へのアプローチ時に十分な営業能力が発揮できていない

 

②顧客管理は現場のメンバーに任せており、最近アプローチできていない企業がある

 

③目先の顧客への対応に時間を取られ、新規顧客にアプローチできていない

 

これらは営業担当者だけが悪いわけではなく、仕組み化できていないこと――つまり、営業という業務が属人化していることに原因がある。①~③のケースを回避し、効率的に顧客へアプローチするためには、次の三つのプロセスを順に踏んで対応するのが効果的だ。

 

(1)顧客リストの整備

 

まず、全ての顧客状況を把握する。把握している程度で、今まで受注に至っていない顧客まで把握できている企業は少ない。新型コロナ禍の影響でメイン顧客の売り上げが低迷している今だからこそ、顧客リストを整備し、再度アプローチできる顧客を探して顧客数拡大を目指す。

 

(2)人気商品の分析

 

自社で売れている商品を調査し、なぜ売れているのかを分析する。商品が売れている理由を調査することで、後述するメールマガジン配信にも有効活用できる。

 

(3)メールマガジンの活用

 

リストの整備と人気商品の分析が終われば、自社が保有している顧客に有効なメールマガジンを配信できるようになる。まずは一斉に配信し、全顧客に漏れなくアプローチすることが重要だ。

 

メールマガジンの内容は、単なる人気商品の案内にせず、分析から導いた顧客のインサイト(本音)・要望を盛り込んだ情報を主軸にすることが重要である。顧客企業の担当者は売り込み(営業)には否定的であるが、現在発生している困り事の解決策には敏感だ。ニーズに合ったメールマガジンを配信することで、一定数は反応を示してくれる。そこから営業担当者につなぎ、対面でのアプローチに移る。

 

 

 

 

全社的な視点で戦略を練る

 

これまでに述べた手順では、訪問営業だけではできないことを二つ行っている。

 

①訪問営業では把握できない顧客の要望を踏まえて案内している

 

②全顧客に一斉にメールマガジンを配信することで、時間や場所の都合上、訪問営業ではカバーできていない顧客にも案内できている

 

仮に、メールマガジンの問い合わせ率が5%であれば、全顧客数を1万社とした場合、500件もの営業活動に等しい結果を生み出している。マクロ(全社的)な視点から戦略を練ることで、効率の良い営業活動ができる。

 

また、メールマガジンは内容を変えることで、何度でも配信できる上に、各顧客企業に合わせた異なる訴求をすることで、前回とは違う結果が出てくる。

 

実例を紹介しよう。商社A社は、取り扱っている商品数が膨大で、販売する商品の自由度は高いものの、営業担当者個人の能力に頼る部分が大きく、個人によって売り上げ実績の差が激しかった。また、営業担当者が顧客をゼロから探して受注を新規獲得する形式を取っており、営業の効率が良いとは言えなかった。この現状を課題と捉えた営業企画部のB氏は、営業の仕組み化の第一歩として、先述したメールマガジンの配信を実践した。

 

 

顧客の課題に合ったメールマガジンで訴求

 

B氏はまず、顧客リストの整備から始めた。A社は顧客管理システムを導入していたが、各営業担当者が受注の際に顧客情報をシステムに登録し、受注処理を行っているだけだった。そこで、B氏は新規営業後に提案内容を登録するよう社内ルールを変更。過去に登録できていなかった顧客情報は、各営業担当者が持っている顧客リストを回収し、システムに入力した。

 

次に、人気商品の分析を行った。社内で売れている人気商品をグループ化し、何が売れているのか上位10グループを調べた。だが、上位の商品に共通する部分を推測しようにも、うまく絞ることができなかった。そのため、まずは「そもそも社内で売れているものが何か(=他社が何を必要としているか、何を購入しているか)」を分析。社内の人気商品が売れている理由をそれぞれ記したメールマガジンを配信した。

 

その結果、メールマガジンの配信数1万2000件に対し、780件もの問い合わせがあった。メールマガジンを配信した月の受注額は、前年同月に比べ1.3倍という結果になった。想定以上に問い合わせがあったため、1カ月では案件が処理できず、3カ月かけて対応を行ったという。

 

常にこのような「大成功」と言える結果を導けるとは限らない。だが、営業の結果を出しにくい今だからこそ、現場任せ、または現場への指示のみで対応するだけでなく、リーダーが先陣を切って、営業の仕組みづくりを行うことに価値があるのではないだろうか。

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