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メソッド2020.09.30

DXを通して既存のビジネスモデルを見直す:DX研究会

全ての企業にDXが求められる背景

 

2018年9月に経済産業省より「DXレポート」が発表されてから約2年が経過した。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉はよく聞くが、漠然としたイメージだけで具体的に何に取り組めばよいのか答えられる経営者は少ない。多くの経営者の方は、「既存事業が現状維持できているのに、実態のつかめないIT投資でDXを進める必要があるのか」という考えが多数を占めている。

 

DXに取り組むべき理由の一つにデジタルディスラプター(破壊的イノベーター)の存在がある。デジタルディスラプターとして浮かぶのは、Uber(配車サービス)、Airbnb(民泊サービス)、Netflix(定額制動画配信サービス)などがある。デジタル化が進んでいない、またはサービスのやりとりを徹底的にデジタル化して成功したことが共通点として挙げられる。

 

業務は基本的に自動化されており、利用者も提供者もアプリ・ウェブを介してサービスを受けられ、仲介事業者がいないため既存の事業者よりはるかに低価格でサービスを提供できる。便利で安価に利用できるため短期間で高いシェアを獲得し、既存プレーヤーの存在を脅かすことになった。

 

現代のビジネスシーンにおいて、デジタルディスラプターに市場を独占されないためには、既存事業が満たしている需要を一度否定し、顧客が持つ別の需要を満足させる取り組みを検討する必要がある。顧客が持つ別の需要と向き合うことは、イノベーションの第一歩であり、そこにデジタルの要素を織り込むことがデジタルディスラプターへの対抗策になる。

 

本稿では、DXに取り組むためのポイントと、取り組む際の留意点をご紹介したい。

 

 

DX=デジタル化ではない

 

DXについて誤解されているのは、「DX=IT・システムの導入」という認識である。

 

DXは小手先のデジタル化ではなく、既存のビジネスモデル全体を見直す活動だ。デジタルディスラプターから自社を守るだけでなく、新しいチャンスにもつながる。5年後、10年後に自社をどのような企業にしていきたいか、顧客にどのような価値を提供していきたいかを、デジタルの活用で戦略的に構築するプロセスがDXそのものなのだ。

 

そのため、DXの起点は必ず経営者であり、明確に描いたビジョンを実現する一つの「手段」として、デジタルを活用したビジネスモデルづくりを行う覚悟が何よりも重要である。代々築き上げてきたビジネスモデルを切り崩していくため、ステークホルダーからは批判もあるだろう。それでも変革するのは、単なるIT・システムの導入ではなく、デジタルを活用した自社のトランスフォーメーション(変化・転換)で競争優位性を確立するためだ。DXは、この強い意志に基づくものでなければならない。

 

 

 

 

旧態依然とした業務を疑い、
部分的なデジタル化から始める

 

日本情報システム・ユーザー協会が公表した「デジタル化の取り組みに関する調査」(2020年5月)によると、日本企業の9割が「レガシーシステム」といわれる老朽システムを抱えており(【図表1】)、「レガシーシステムの存在がデジタル化の進展への対応の足かせになっていると感じるか」という質問に対し、約8割の企業が「強く感じる」(29.9%)、「ある程度感じる」(47.2%)と回答している。

 

【図表1】業種によるレガシーシステムの存在状況

※四捨五入の関係で合計値は必ずしも100%にならない
出所:日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の取り組みに関する調査」(2020年5月)を基にタナベ経営が作成

 

 

次に、IT予算の80%が現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に割り振られていることが問題として挙げられる。ここでの問題は、古いサーバーやシステムを使っていることではなく、古い業務のやり方から変化できていないことにある。

 

現行のレガシーシステムを放置すると、2025年にはシステム維持管理費用が高額化し、IT予算の90%以上に達するといわれている。こうした「技術的負債」を抱えると、IT予算は「投資」ではなく「コスト」となり、戦略的なデジタル化が一層難しくなる。そうらないためには、「いつも通りの業務を当たり前に行う」という考えを捨てる必要がある。単なるデジタル化からどのようなステップでDXを推進していくのか、【図表2】を参考にしていただきたい。

 

【図表2】DX推進のステップ

出所:タナベ経営

 

最初のステップは、「デジタルパッチ」といわれる既存事業の部分的なデジタル化だ。RPA(デスクワークの自動化)やMAツール(マーケティング活動の自動化)、グループウエアの整備がこれに当たる。デジタルパッチは既存のサービスや業務の延長線上で考えればよく、着手しやすい。多くの企業がこのステップでとどまっていると思われる。

 

次は、「デジタルインテグレーション」といわれるリアルとデジタルの融合による既存事業の進化の段階で、ビジネスプロセスまで踏み込んだデジタル化を目指す。顧客接点におけるデジタルとリアルの融合をイメージしてもらえればよい。顧客体験の向上を目指し、既存のプロダクトやチャネルにデジタルの要素を融合させていく。

 

最後に、「デジタルトランスフォーメーション」として、デジタルを活用したリアルの変革段階を目指す。デジタルを活用した新しいビジネスモデルの構築と、新しいビジネスモデルを実現するための経営戦略も抜本的に見直す必要がある。

 

これらの取り組みは同業と横並びで進めるのではなく、経営トップの強いリーダーシップのもと、自社のビジネスモデルを見直す良い機会として継続的に取り組むべきである。継続的な取り組みに当たり、一つの指標としてIT予算のラン・ザ・ビジネスの割合を60%まで落とすことを目標とし、「デジタル=投資」を意識して自社の変革を行っていただきたい。

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