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メソッド2020.06.30

現場代理人の働き方を変え、生産性を高める:大裏 宙

 

 

 

【図表】現場代理人の業務実態調査

出所:筆者作成の資料を基にタナベ経営が加工・作成

 

 

建設現場の働き方改革は喫緊の課題

 

2019年4月に施行された「働き方改革関連法」により、多くの業界で働き方の見直しが進んでいる。適用除外とされていた建設業についても、5年の猶予期間を置いた2024年4月1日から、年5日の有給休暇取得の義務化や時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間)が罰則付きで適用される。これまで実質的に“青天井”だった建設業の時間外労働が、初めて法的に規制されることになる。

 

しかし、国内建設現場の人材不足は解消されていない。人手が足りない中、1人当たりの労働時間は減らさなければならないという矛盾に直面する建設関連企業の多くは、まず何から手を付ければいいのか分からず、戸惑っている。生産性をどう高めていくか、早期離職を防ぎ、人材を育成していくにはどうしたらよいか。建設現場にとって喫緊の課題である。

 

私は、こうした課題を抱える建設会社において「建設現場の働き方改革プロジェクト」を推進してきた。改革のポイントは、負担が年々増すばかりの現場責任者(現場代理人)の働き方改革だ。本稿では、現場とバックオフィスが協力し、会社一体となって成し遂げた「働き方改革」と「生産性改革」の取り組みを紹介する。

 

 

現場業務を「数値化」「見える化」

 

私がコンサルティングをした中堅建設会社の課題と改善のステップを次に挙げる。

 

【課題】

 

(1)生産性の改善
引き合いはあるが、人手不足で「案件の取り逃がし」が発生。いかに限りある人材で出来高を上げるかが課題であった。

 

(2)案件の大型化
案件の規模が大型化しており、従来の「現場代理人がほぼ全ての業務を担う体制」が通用しなくなってきた。

 

(3)人材難
慢性的な人材不足に加えて、早期退職が続いていた。

 

これらの課題に対し、第一ステップとして、実態調査により浮上した現場の働き方の問題点を整理し、改善の方向性を決めた。主なポイントは次の通りである。

 

【改善のポイント】

 

(1)業務の棚卸し
現場代理人にしかできない業務(コア業務)と、代理人以外にも対応可能な業務(一般業務)を整理した。

 

(2)現場の実態調査
現場代理人が何の業務にどれだけの時間を費やしているかをつかむため、専用スマートフォンを導入し、業務内容を15分おきに2週間にわたって調査し統計をとった。(【図表】)

 

(3)現場でのヒアリング
私が現場を訪問し、インタビューを実施。現場の「生の声」から問題点を抽出した。

 

(4)改善テーマの設定
分析結果を踏まえ、「急ぎ改善すべき業務」「改善効果の高い業務」など、優先度の高い改善テーマを設定した。

 

第二ステップとして働き方改革プロジェクトを立ち上げ、業務効率化に向けた具体策、役割分担、アクションプランを策定・推進した。まず、現状の業務フローを整理し、あるべき業務フロー(新業務フロー)を設計。新業務フローの実行に向けた行動計画を策定し、同フローのテスト導入結果を基にマニュアルを作成した。そして最後に全社展開し、成果を検証した。

 

 

専用スマートフォン(ろじたん)

ウェブで設定した一定の時間間隔で音や振動により通知

出所:日通総合研究所

 

 

「やめる」「改める」業務を決める

 

成果検証の結果、次の改善効果が見られた。

 

まず、現場代理人の業務が分業・効率化されたことで、現場代理人が一つの工事が竣工後に次の工事に取り掛かるまでの期間が2カ月から0.5カ月に短縮された。その結果、生産性(現場代理人1人当たりの工事請負額)は1.25倍に向上した。

 

同社では、現場代理人が竣工後、次の現場へ移るまでに時間を要していた。それは、竣工後のさまざまな書類作成や事務処理、施主対応など、多岐にわたる業務を抱えていたためである。しかし、その業務の多くは「現場代理人以外でも対応可能な業務」であった。

 

働き方改革プロジェクトにおいては、これらの業務の進め方を見直し、やめること、改めることを決め、分業化、簡素化、標準化、IT化などを実行した。

 

例えば、竣工図面の作成である。現場代理人は図面作成に約1カ月をかけており、改善を求める声が多く上がっていた。そこで、本社にCADオペレーターを採用。工事が進行している間、図面の変更が生じるたびに、リアルタイムで現場代理人からCADオペレーターへ依頼し、図面を修正するスタイル(分業化)へ変更した。

 

結果、現場代理人の業務は軽減され、竣工図面の作成時間や品質も均一化することができた。現場代理人の業務負荷の軽減が進み、あるべき形へと標準化を進めた結果、生産性向上につながったのである。

 

 

「まずはやってみる」マインドを持つ

 

さまざまな企業の業務改善に関わってきた中で感じるのは、改善が成功するかどうかの分かれ道は、「まずはやってみよう」マインドを全社で持てるかどうかにかかっている、ということだ。

 

改善が進まないのは、改善の方向性は見えているものの、実行段階で「やり方を変えるのは面倒でうまくいくか分からない。だから、今のままでよい」という考え方が経営幹部の根底にあるケースである。この場合、往々にして改善は進まない。

 

一方、改善が成功するのは「やり方を変えるのは面倒、うまくいくかも分からない。だけど、まずはやってみよう」という第一歩を踏み出せるケースである。こういう企業は、取り組むスピードが速く、高速でPDCAが回る。結果として現場が変わる。

 

「働き方を変えたい」「現場を改善したい」「体質強化を図りたい」とお考えであれば、ぜひ小さな取り組みでもよいので行動に移すことから始め、変革への一歩を踏み出していただきたい。

 

 

 

 

Profile
大裏 宙Hiroshi Ohura
外食産業における店舗出店・改装業務を経験後、タナベ経営に入社。さまざまな実務経験を生かした現場重視の実践的なコンサルティングを信条とする。綿密な市場分析と実体験に基づいた事業戦略構築、事業立案を得意とし、顧客とともにマネジメントの改善や事業改革に取り組み、企業の成長を支援している。
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