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コンサルティング メソッド

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メソッド2020.05.29

「働き方改革」を実現する人材育成:石橋 達也

 

 

 

 

 

時間をかけ社員の成長を促す

 

コロナショックの衝撃は大きく、影響を受けていない企業はないだろう。従来の業務体制やビジネスモデルで対応できない企業が多く、働く社員もさまざまなストレスを抱えながら業務を行っている。

 

こうした状況で経営を継続するに当たって、企業には正しい判断基準を持つことが求められている。東日本大震災時の経験を踏まえ、事業を止めない手だてを考えつつ、第一に顧客と社員、その家族の安全を考え、次に業績対策とすべきだろう。二次的な影響を考えると経済を止めたくはないが、それを回すのは「人」だということを前提に置くべきである。

 

いま、各社とも従来の働き方を変え、テレワーク(在宅勤務)の導入、会議の縮小(ビデオ会議への移行)、シフトワーク(時差出勤)などに取り組んでいる。今回のパンデミック(感染症の世界的大流行)より前から、長時間労働の慢性化、人口減少に伴う働き手不足、生産性向上などが課題となっていた日本において、現状をチャンスに変えるには、従来の仕事を見直し、「働き方改革」を進めていくことが重要だ。

 

働き方改革とは、柔軟な働き方をすることによって、限られた資源で成果を生み出すための取り組みである。実現に向けて企業が実施すべきことは、タナベ経営が主催した2018年度経営戦略セミナーの「生産性カイカク戦略」でも提言した「ビジネスモデル革新」「戦略投資」「人材育成」の3点である。

 

現在の経営環境下において、ビジネスモデルを大きく革新することは難しく、価値提供の仕方を変えていく他ない。戦略投資については、成長事業への投資判断は難しいが、コロナショックをきっかけに内部的投資判断が進み、仕事の進め方を変えるための投資は進むだろう。

 

問題となるのは「人材育成」だ。人材育成は一朝一夕で何とかなるものではない。時間をかけて成長を後押しする必要がある。生産性を上げていくために避けて通れないのが人の成長であり、その成長が企業競争力の源泉ともなる。働き方が変わっても成果を上げ続ける生産性の高い組織になるためには、個の力を伸ばす人材育成を止めてはならない。

 

 

自社の戦略を推進する人材を育成

 

では、どのように人材を育成すればよいのか?まずは、自社の「育成制度」が整備されているかを確認いただきたい。

 

育成制度は人事制度の一翼を担う重要なシステムである。しかし、人事制度を評価と賃金を決めるシステムと捉え、育成制度とは関係がないと考えている企業が多い。効果的な育成制度を作成・実行するためには、「社員がどのように育ってほしいか」を理念やビジョンから定義付け、「自社の戦略を推進していく人材」として育成することがポイントである。育成計画を立てるために、次の三つの視点を持っていただきたい。

 

(1)原点から見る人材像
経営理念・ビジョンなど自社の原点と言える部分から、どのような人材が求められているかを見つめ、社員に不足しているものを見つける。

 

(2)現状から見る人材像
現状の評価制度から社員の弱点を分析し、課題を抽出する。

 

(3)未来から見る人材像
自社が進むべき道、つまりこれから取るべき戦略を実行・推進していくためにどのような人材が必要かを見いだし、そのギャップを明らかにする。

 

この視点で求める人材像を定義し、その人材像をベースに鍛え上げる重点課題を明確にして育成方針をつくる。そして、この方針に合わせて育成方法とスケジュールを策定していく。ポイントは、「誰」を対象とし、「いつ」「どのように」育成を行うのかという観点で策定することだ。

 

 

 

 

人材が成長しやすい企業環境づくり

 

次のポイントは、社員自身が成長しようとする意欲、モチベーションである。モチベーションは本人の気持ち次第ではあるが、それを待っていては育成できない。「社員にやる気がない」と言う前に、社内のモチベーションを上げる環境をつくることが重要だ。

 

モチベーションを上げるためには、次の三つの要素が必要である。

 

(1)コミットメント
まずは、「何のために働くのか」を定義付けることが重要だ。自社で働く「意味」とも言う。自社がどこを目指していくのか、社会的使命は何か。経営理念やミッションを明確にし、目標に向かわせる必要がある。

 

その上で、組織の意思決定に意見・提案ができる仕組みと目標を設定する。働く意味と向かうべき方向が明確になり、それがモチベーションへと変わっていく。

 

(2)刺激
危機感や高揚感といったものだ。切磋琢磨し合えるライバルづくりがファーストステップと言える。ライバルをつくることで正しい危機感を高め、行動へのドライブをかける。

 

また、組織で生きていく上で重要な「存在価値」を高めることも忘れてはならない。「組織に必要とされる」状態を感じることで、高揚感や貢献の実感を持てる。

 

ある企業は毎年、全社員を集めて表彰式を行っている。社員の中からMVPを決め、顧客や家族の感謝の声を届ける場面をつくっているのだ。心に刺激を与えることでモチベーションを高めることができる。

 

(3)成功イメージ
自身が成長している実感を得て、「もっとステップアップしたい」と思う成長願望をモチベーションに変える方法である。業務での小さな成功体験を積み重ね、それを評価として「見える化」することで少しずつ目標に近づいていることを実感できる。

 

 

継続が何よりも重要

 

最後のポイントは指導方法だ。企業における指導方法の主体は、職場で実務をさせることで成長を促すOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:職場内研修)である。Off-JTも必要だが、OJTでの指導が中心になることは間違いない。

 

仕事を教えていくためのポイントは、知識の場合、①学ぶ気持ちにさせる、②知らないことを探求させる、③説明する、④確認させるという順番。技能の場合は、①習う準備をさせる、②作業の説明、③実際に作業をさせる、④完成したものをフィードバックするという順番が望ましい。

 

時間はかかってしまうが、インプットからアウトプットの流れで一つ一つ教えることが重要である。

 

育成計画を立て、モチベーションを上げる環境をつくり指導する。そして、それを継続することが人材育成の基本だ。「人が育たない」「モチベーションが上がらない」と嘆く前に、まずは成長できる環境を整えること。そして、それを地道に継続することが人材育成の近道となる。

 

人材育成を継続することは難しいが、手を止めれば働き方改革も生産性向上も遅れていく。働き方が急に変わってしまっても、一人一人が働く意味を持ち、モチベーションを維持できる環境にあれば人は育つ。その環境をつくり続けることが、これからの企業に求められている。

 

 

※通常業務から一時的に離れ、集合研修などを通して人材を育成する手法

 

 

 

 

 

 

Profile
石橋 達也Tatsuya Ishibashi
戦略・人事コンサルタントとして、事業・経営戦略の構築、人を生かし育てる人事制度、社員教育の実績を中心に各企業の業務改善に取り組む。また、ミッション・ビジョン経営研究会サブリーダーとして、各社の理念・ミッション経営の推進やビジョン構築を行っている。
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