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メソッド2020.02.28

人材成長を加速させる「フィードバック」:大山 賢一郎

 

 

 

フィードバックに対する理解の必要性

 

総合人材サービス企業・アデコグループの日本法人である「アデコ」(東京都千代田区)が2018年に行った調査によると、ビジネスパーソンの6割が会社の人事評価制度に不満を持っており、その不満の理由として3番目に挙がったのが「フィードバックが不十分(または仕組みがない)」だった。

 

今、人事評価制度に不満を持つ人材の転職が相次いでいる。そこで、多くの企業が重要視し始めたのが「フィードバック」だ。フィードバックとは、上司(監督者)が部下に対して行う人事評価結果の説明や助言などを指す。実施理由はさまざまだが、大別すると次の四つが挙げられる。

 

一つ目は「採用難」。民間企業の大卒求人倍率(2020年3月卒)は1.83倍と前年をわずかに下回ったが、リーマン・ショックの影響から倍率が大幅に低下した2010年卒以降では2番目の高さと、依然として高水準で企業の新卒採用難が続いている。

 

もちろん、厳しい状況下であっても人事担当者は積極的に採用活動を展開しなければならない。ただ、不足人材をすぐに手当てできない現状では、今いる人たちをいかに成長させるかが重要となる。そして、人の成長に大きく寄与するのが人事評価のフィードバックなのである。

 

二つ目は、「人事制度改革」である。年功序列が一般的だった時代に比べ、降格人事が盛んに行われ、役職定年や再雇用制度なども導入されたため、年長の部下、元上司の部下などの扱いに悩むリーダーやマネジャーが増えている。

 

正しいフィードバックの方法を理解しなければ、部下とのコミュニケーションがうまくいかず業務に支障を来し、最悪の場合はリーダーやマネジャーの退職につながりかねない。

 

三つ目は、「ダイバーシティー」(多様性)への対応である。以前は男性の正社員だけをマネジメントしていても問題がなかった。だが、現在は人材が多様化し、女性社員、障がい者、性的少数者(LGBT)は当然のこと、外国人労働者の成長も促していかなければならない。よって性別、立場、文化など個々の事情を踏まえた人材育成が必要となる。

 

四つ目は、「コンプライアンス」(法令順守)への対応である。現在の40歳代、50歳代は「精神論」「根性論」で鍛えられた人が多い。「今の私があるのは先輩の厳しい指導(今日でいうパワハラ)があったおかげ」だと考える人もいるだろう。しかし、いまやその考えも通用しない。法律はもちろん就業規則や職場ルール、倫理規範を守りながら、どのように人材を育成すればよいのか悩む人が少なくない。

 

そうした人材育成の関わり方への悩みを解決し、企業の成長を大きく後押しするのがフィードバックである。

 

 

 

 

人事評価の目的

 

そもそも人事評価にはどのような目的があるのか。フィードバックの話に入る前に、その点について触れておきたい。

 

人事評価の目的は主に三つある。

 

1.業績貢献度や能力を公明正大に判定する(査定)

 

2.納得感の高い報酬・地位・権限を与える(処遇)

 

3.査定と処遇が成長を促し活躍につなげる(育成)

 

どれも大切なことだが、最も大切なものは三つ目の人材育成である。例えば、フルコミッション(完全歩合制)の業務委託契約で働く外資系企業のフリーランス人材であれば、この三つのうち査定が最も重要となろう。しかし、一般の企業における人事評価は査定と処遇によって社員の成長を促し、活躍のステージへとつなげていく制度でなければならない。

 

 

 

 

【図表】目標設定の着眼点「SMART」

 

 

フィードバックには「事前準備」が大切

 

「フィードバックは時間が最も重要」だと考えている人が多い。1時間程度の面談時間を確保すればフィードバックは成功するというものだ。しかし、実際は「事前準備」が最も重要である。理想的なフィードバックの8割は、事前準備で決まると言っても過言ではない。ここでは、五つの事前準備に焦点を当て説明する。

 

(1)人事評価表の確認

 

リーダーやマネジャーは、被評価者(部下)の評価内容を十分に理解しなければならない。「会社の評価だから仕方がない(だから受け入れよ)」では、部下の不満は募る一方だ。まずは、リーダー・マネジャーによる部下の評価と、上位評価者(経営陣)による評価結果の相違に着目し、上位評価者の判断に納得する。その上で、なぜそのような評価になったのか、リーダー・マネジャーが自分の言葉で部下に説明ができるまで理解を深める必要がある。

 

(2)具体的事実を押さえる

 

評価の根拠となった具体的事実について、「状況」「振る舞い」「影響」などを押さえる。ここをしっかりフィードバックしないと、部下は改善することができない。

 

例えば、「A君は営業活動が足りない」ではなく、上期の営業成績について(状況)、主要得意先への訪問件数が月平均3回に達していない(振る舞い)。よって営業成績が前年同期比30%ダウンしている(影響)――というように、漠然としたイメージではなく具体的事実を話すと説得力が増す。

 

(3)成長した点を認める

 

同時に、評価期間中に部下が成長した点もしっかりと押さえ、努力と成長を認めることである。これも状況、振る舞い、影響という三つの項目で押さえ、具体的に伝える。

 

とはいえ、中には成長した点が見当たらないという部下もいるだろう。その際は、ぜひ次の三つに注意し、成長した点を見つけ出してほしい。

 

1.急成長した社員と比較しない

 

2.わずかでも改善していれば成長と捉える

 

3.悪い点が普通のレベルになっただけでも成長と捉える

 

(4)次期目標と成長課題の設定

 

次期の目標は、フィードバック面談の中で部下本人と擦り合わせを行い、決定することが望ましい。リーダー・マネジャーは、面談前にどのような目標を設定するのか考慮しておくべきである。その着眼点として四つの要素、「SMART」(【図表】)に基づいた目標設定を心掛けてほしい。

 

最後に、「フィードバック面談シート」を紹介したい。これは、私がフィードバック前に作成を推奨しているもので、伝えるべき要点の整理や話の抜け漏れを防ぐためのシートだ。「1.リラックスできる話題や評価期間で成長した点」「2.部下の自己評価(必ず最後まで話を聞く)」「3.評価期間における事実(感情を交えずに伝える)」「4.目標設定(部下に話をさせる)」「5.フォローアップ」の五つの項目を並べ、それぞれに記述欄を設ける。ぜひ、このシートを活用して有意義なフィードバック面談に臨み、部下の成長に生かしていただきたい。

 

 

 

 

 

 

Profile
大山 賢一郎Kenichiro Ohyama
企業の成長発展に向けた人事処遇制度の構築および運用サポートを手掛ける新進気鋭のコンサルタント。クライアントの生産性向上に大きく寄与し、経営者、従業員ともに多くの支持を集めている。
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