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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2020.01.31

人材定着までを見据えた採用戦略には組織風土の改革が必要:経営コンサルティング本部

 

 

採用から定着までをフローで捉える

 

経営者とのディスカッションの中で、常に話題に上るのは「人材採用」である。経営者が語る採用のボトルネックは「自社には人が集まるような魅力がない」「人事採用担当者がうまく動けていない」「最近になって採用サイトへ登録した」「採用しても定着しない」など。これらは業種・業界に関係なく、日本企業が慢性的に抱える課題であろう。

 

では、現場の採用担当者の意見はどうだろうか。話を聞くと「採用にかける予算がない」「自社には学生に選ばれる魅力がない」「会社としての方針がなく、場当たり的な採用になっている」「採用活動を行う人材が足りない」といった回答が返ってくる。

 

両者に共通しているのは、「採用を単体で見ており、雇用という視点に欠けていること」と、「採用を全社的な取り組みであると捉えていないこと」だ。

 

タナベ経営では、「採用⇒育成⇒活躍⇒定着」と、採用から定着までが一つの流れ(フロー)であると捉えている。この流れを実現するためには、全社方針から落とし込んだ採用戦略を定め、定着までを見据えて組織の風土を改革する必要がある。

 

A社では、ワンマン経営の創業社長から2代目への事業承継を控え、社員も経営に参画する「組織経営」が課題となった。社員の平均年齢は50歳代前半、平均勤続年数は23年と、長期勤続者に居心地の良い風土が醸成されており、中途入社者は定着しにくい環境であった。また、新卒採用に取り組んだ実績がなく、中途採用も場当たり的に行われていた。

 

こうした状況の中、A社の事業の推進と発展に向け、「中長期ビジョンの策定」「人材の採用と育成」「縮小市場への対応」が経営テーマとなった。

 

中長期ビジョンを構築する必要があったのは、トップのビジョンがあいまいな“家業経営”から一歩を踏み出し、「企業経営」へと成長するためだ。しかし、「ビジョン」という概念を社員が持たない中、いきなり3年や5年といった長いスパンでの中長期ビジョンを推進するのは難しい。そこで、ビジョンに沿った単年度目標を掲げ、全社員が一つの目標に向けて取り組むこととなった。

 

目標としたのは、「健康経営優良法人認定」(経済産業省)の取得である。認定取得に向けて社員が一丸となって取り組み、より良い労働環境を整備する。社員自らが組織の風土を改革し、自社を変えるという成功体験を得ることによって、主体的な意識の醸成を目指している。

 

 

【図表】就職先を確定する際に決め手になった項目(複数選択)n=978

就職先を確定する際に決め手になった項目

出典 : リクルートキャリア・就職みらい研究所「就職プロセス調査(2019年卒)」(2019年1月31日)

 

 

採用のミスマッチを防ぐ入社後のイメージ共有

 

もう一つの喫緊かつ最重要の経営課題「人材の採用と育成」について、A社は採用プロジェクトを推進し始めた。プロジェクトメンバーは、役員を筆頭に総務・経理・営業などA社の各部門から選抜した人たちである。

 

採用戦略は中長期ビジョンを軸としている。具体的には、A社の目指す方向性から3~5年後の組織体を考え、近未来に必要となる適性を持つ人材を必要な人数だけ採用する方針だ。

 

また、採用のミスマッチを防ぐため、A社は自社の方向性(将来に向けたビジョン)を入社希望者に明示する「ビジョン共有型」の採用を進めている。

 

就職・転職先でいかに自分が成長できるのか。これが入社希望者の労働観の根幹を占めている。例えば、リクルートキャリアの就職みらい研究所が、民間企業への就職が確定している大学生・大学院生を対象に行った就職プロセスに関する調査結果を見ると、就職先を確定する際に決め手となった項目の第1位は「自らの成長が期待できる」で47.1%(【図表】)。「将来が見通しづらい社会では自らの成長こそが安定につながる」との声が多く上がったという。

 

つまり、組織の中でどのように成長してほしいのか、会社が何を期待しているのかが不明瞭なままでは、入社希望者がキャリアビジョンを描けず、せっかく採用してもすぐに離職してしまう可能性が高い。

 

そこで、近年の採用においては、企業が目指している方向性と社員に求める役割を、面接の段階から明示し、入社前後のギャップを防ぐ手法が主流になりつつある。人材の確保がますます困難になる今後、離職防止は採用と同じくらい重要なのだ。

 

A社は会社説明会で、自社のビジョンと求められる役割を社員が語り、入社前からA社で働くイメージを持てるようにしている。入社希望者と立場の近い現場社員が語るため、説得力が増す。ビジョンを語る人材には、その社員自身が何かしらの形で経営に関わり、実行に移した実績がある人を選ぶことがポイントである。

 

 

採用活動を見直すポイント

 

現場の人手不足を今すぐ解消することを目的とした採用は、現実としてたくさんある。しかし、採用単体で捉えてしまうと、採用自体がうまくいかない上に会社の方針とのミスマッチで離職が増え、採用担当者すら不足するといった多くの問題を併発するリスクが伴う。

 

採用活動を見直すポイントは、自社の目指すべき方向性の共有から採用⇒育成⇒活躍⇒定着の流れをつくること。そして、全社で取り組むことができる組織風土の醸成である。社員が自発的に課題に取り組む風土への改革を進め、未来の自社の礎となる人材を確保していただきたい。

 

 

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