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メソッド2019.09.30

「学び方改革」の進め方:影本 陽一

 

学び方改革が必要とされる背景

最近、「働き方改革」「生産性改革」について相談を受けることが多い。このテーマを掘り下げると、働く社員の「学び方改革」が“ 待ったなし” であることに直面する。

相談内容は次の三つに大きく分類される。それぞれの背景を整理する。

(1) 後任人材への継承推進

2015年までに定年退職し、再雇用された「団塊の世代」の嘱託社員が、2020年ごろから次々と退職を迎える。その人たちが持つ熟練技術や経験値、人脈などを誰にどう引き継ぐか。計画的な継承推進策が必要となっている。

(2) デジタル技術の導入検討と教育

“ 超スマート社会” 実現を目指す政府の基本指針「ソサエティー5.0」が2020年度に最終年度を迎え、デジタル革新が本格化するとみられている。既存業務を見直し、「やめる」「改める」「追加する」ものがないかを検証する。次にAI(人工知能)やRPA(ロボット技術による業務自動化)などデジタル技術を導入し、人間の業務と代替できないか検討する。それが可能ならば、導入教育を行う必要がある。

(3) 早期戦力化への対応

「働き方改革」に伴う休日の増加や残業削減で、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)を中心とした人材教育時間が縮小している。さらに、2020年(中小企業は2021年)4月1日から「同一労働同一賃金」が施行される。非正規社員(パート・アルバイト、派遣社員など)・正社員にかかわらず、同じ職場で同じ仕事に従事する人の待遇差・賃金格差を解消することが求められる。若手や非正規社員の早期戦力化への取り組みが必要となる。
私はこのうち、(3) の早期戦力化について多くの企業から相談を受ける。このテーマの成功ポイントは「背景・目的・手段」を共有化することだ。次に、事例と留意点を挙げていく。

 

 

背景・目的・手段の流れで共有化する

(1) 「背景」の共有化

製造業A社で現場(生産、営業)の学び方改革が始まった。当初、ある部門長は改革に消極的だった。「なぜ今、この改革が必要なのか」という背景の理解がなく、目先の業績や自部門の都合しか見えない近視眼的な状況に陥っていたことが原因だった。

そこで部門長以下、現場のリーダーを集め、A社を取り巻く経営環境の現況と今後の理想の働き方について、「学び方改革」の進め方意見交換を行った。その上で、理想の実現のために何が必要かを考えてもらい、学び方改革に取り組む必要性を共有化した。

(2)「目的」の共有化

次に、早期戦力化を行う目的を共有した。まず、「自社の存在価値は?」「どのような顧客に、商品・サービスを通じていかにお役に立つか」「そのために必要な取り組みは何か」を踏まえ、その上で自社の経営理念や年度方針を再検証した。そして、「今後どうしたいのか」という未来志向と、「自分たちに何ができるか」という当事者意識を共有した。

改革の意義を自分たちで考え、目的への理解を深めることで、「やらされ仕事」ではなく主体的に取り組む姿勢をつくることができる。

(3)「手段」の共有化

手段については、他社の成功事例を学び、どのような取り組みが自社に適しているかを検討した。内容の他に進め方や期待される効果についても意見交換し、実施内容をスケジュール化。プロジェクトメンバーの役割などを決めた。

この後、仕組みと運用ルールを設計するため、教育体系の現状確認と改善策の立案を行った。その過程で出てきた課題と取り組みを次に整理したので、生産性向上のポイントとして確認をいただきたい。

【図表】 一人前基準(入社~6カ月)の例
201910_review2_01

 

 

 

 

ギャップの明確化と解消

まず、あらわになったのが上司と新入・若手社員の“ 要望のギャップ” である。上司の要望は、「配属されるまでに、なるべく多くの知識をインプットし、現場ですぐに仕事を任せられる即戦力になってほしい」こと。戦力になるまでの間は、手間のかかる仕事や基本的な作業を新入・若手社員に任せるパターンが多かった。

一方、新入・若手社員からは、「聞くに聞けない状況を何とかしてほしい」との要望があった。配属前に基本業務を教わっても、現場でのやり方が分からない。質問しようにも、先輩や上司が忙しそうで近づきにくい。勇気を出して聞いても、「一度習っただろう」「何度言わせるんだ」と返されると、もう次は聞けない。

仕方なく新入・若手社員同士で相談し、想像力を働かせながら仕事を行う。結果、間違ったやり方でミスをする。または、時間がかかり過ぎて叱られる。そんなことを繰り返すうち、いつしか前向きに物事を考えられない、「言われたことしかしない、できない」状態に陥っていた。

このギャップを解消するには、次の三つの取り組みが有効だ。

(1) 一人前にするための基準づくり

【図表】のように、いつまでに、何ができればよいのか。習得すべき「知識」「技術」「経験」を期間ごとに明確化した。

(2) 学び方の標準化

学習は、「誰から学ぶか」も重要である。そこで、誰もが話を聞きたがる、手本となる先輩や上司を講師に起用。座談会形式の講義の他、1テーマ5分以内の動画を収録し、いつでもどこでも視聴できるようにして、学び方の標準化を図った。

(3) カリキュラムの設計

動画は、見るだけだと効果が低い。知識を定着させるため、ウェブ上で個人別の理解度の履歴が残る「理解度テスト」を受けてもらう設計にする。結果は上司が管理し、適切なフォローを行う仕組みが有効である。

なお、この早期戦力化カリキュラムの運用面として期待されるのが、採用への波及効果だ。就活生(入社予備軍)に向け、入社後のキャリアプランを描く取り組みとして、合同説明会やインターンシップの場面で紹介する。成長意欲の高い学生ほど、自社に魅力を感じて応募してくれる。また、専門学校や大学などの就職課担当者から、「新入社員と向き合う姿勢が魅力的な会社」として認知されれば、学生の紹介や就職相談の機会も増える。

これからは、インターンシップから内定式、内定後フォローまでの連動が不可欠になる。この機会に「“ 学び方目線” の人づくりストーリー」を検討いただきたい。

 

 

 

 

Profile
影本 陽一Yoichi Kagemoto
成長ビジョン・戦略構築から人事制度構築、人材育成まで幅広い実績を持つ。事業・組織のブランド化、組織活性化に向け、クライアントと一体となった熱いコンサルティング展開が持ち味。現在は、医療・介護を中心とするヘルスケアビジネス成長戦略研究会のサブリーダーとしても活躍中。
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